勤め先は新卒で就職した業界老舗の総合商社だ。給料水準は元カノもわかってたはず。
俺は将来性は間違いなくある男だった。これは自分でも自負している。
大学時代からずっと新宿の単身者用アパート住まいで、駅から遠いから破格の共益費込み月四万。
ほとんど自炊と社食とチェーン店の牛丼で食事してたし、髪は毎月駅前の千円カット。仕事着のスーツも社販で済んでたし、私服は先述のようにベーシックアイテムは量販店で適当に。
贅沢してない。支出は完璧に管理していた。
その分ガチで給料は貯金と投資に回してて、元カノとの結婚後、彼女が会社を辞めて専業主婦で子供二人作っても余裕なライフプランを計画していた。表計算ソフトでゴリゴリに作り込んでいた。
……ただ、元カノが憧れていたセレブ生活までは無理だ。
住みたがってた港区のタワーマンションも無理。それだったら現役で子供が一人立ちするまでは都内の団地にでも住んで、貯蓄や投資で早期FIREを目指して俺の両親みたいに東南アジアのコンドミニアムを買っちまったほうがいい。
日本にいたいなら、いつまでも独身のお嬢さん気分でいてもらっては困る。
今みたいにブランド物の財布やバッグを買って、毎月美容室に通って艶々の髪を維持し、月に二回のネイルサロンとエステやスパ通いを結婚後も続けたいならその分は本人が復職なりパートなりしてもらいたかった。
「……その人生計画を君と一緒に立てなかったこと。俺の敗因はそこだったんだろうな」
自分だけで突っ走って、自滅してしまった。
そしていま俺は異世界にいて、ここに骨を埋める覚悟も固まりつつある。
もうメッセージが元カノに届いてようと届いてなかろうと終わりにしようと思った。
彼女を思い出して辛くなったら、大好きなばあちゃんや、めんこいピナレラちゃん、顔が好みの麗しのユキりんを見て癒されよう。一緒に美味いもん食って笑い合おう。
そうしたら元カノの名前も顔も声も何もかも、全部忘れるまでそう時間はかからないはずだ。
机の上に置いていた、あの曰く付きの指輪ケースを手に取り開いた。
ピンクゴールドと小さいダイヤが一粒。
貴金属や宝石の価値はこの異世界でもほぼ同じらしいので、そのうち男爵に頼んで売り払ってもらおうと思っていたが……
俺は風呂上がりのパジャマ姿のまま、そーっと縁側から庭に出た。う、六月とはいえ、ど田舎村もまだ夜は寒いな……
サンダルを足に突っ掛けて、庭の端から適当に平たい石を一個、部屋の明かりが届くところまで持ってくる。
指輪を上にそっと石の上に置いた。
「……王様のチート剣、出てこい」
胸の辺りにカッと熱い熱を感じたと思ったら、目の前にぼわっと真紅の魔力が吹き出して、あの夢の王様から貰った大剣に変わった。
大剣は少し前にユキりんを首枷から解放したときの、あの青い光をまだちょっとだけ帯びている。
「む。剣がでかいから調整が難しいな……せーの!」
剣の柄を両手で握り、そーっと切っ先を指輪に向ける。そして一気に落とした。
ぱきん、と指輪は真っ二つ。
割れた指輪はまたケースに戻しておいた。明日辺り、川に行って流してきてしまおう。
これは俺なりのけじめだった。光るもなか川の水に沈めれば良い禊になると思ったのだ。
俺は将来性は間違いなくある男だった。これは自分でも自負している。
大学時代からずっと新宿の単身者用アパート住まいで、駅から遠いから破格の共益費込み月四万。
ほとんど自炊と社食とチェーン店の牛丼で食事してたし、髪は毎月駅前の千円カット。仕事着のスーツも社販で済んでたし、私服は先述のようにベーシックアイテムは量販店で適当に。
贅沢してない。支出は完璧に管理していた。
その分ガチで給料は貯金と投資に回してて、元カノとの結婚後、彼女が会社を辞めて専業主婦で子供二人作っても余裕なライフプランを計画していた。表計算ソフトでゴリゴリに作り込んでいた。
……ただ、元カノが憧れていたセレブ生活までは無理だ。
住みたがってた港区のタワーマンションも無理。それだったら現役で子供が一人立ちするまでは都内の団地にでも住んで、貯蓄や投資で早期FIREを目指して俺の両親みたいに東南アジアのコンドミニアムを買っちまったほうがいい。
日本にいたいなら、いつまでも独身のお嬢さん気分でいてもらっては困る。
今みたいにブランド物の財布やバッグを買って、毎月美容室に通って艶々の髪を維持し、月に二回のネイルサロンとエステやスパ通いを結婚後も続けたいならその分は本人が復職なりパートなりしてもらいたかった。
「……その人生計画を君と一緒に立てなかったこと。俺の敗因はそこだったんだろうな」
自分だけで突っ走って、自滅してしまった。
そしていま俺は異世界にいて、ここに骨を埋める覚悟も固まりつつある。
もうメッセージが元カノに届いてようと届いてなかろうと終わりにしようと思った。
彼女を思い出して辛くなったら、大好きなばあちゃんや、めんこいピナレラちゃん、顔が好みの麗しのユキりんを見て癒されよう。一緒に美味いもん食って笑い合おう。
そうしたら元カノの名前も顔も声も何もかも、全部忘れるまでそう時間はかからないはずだ。
机の上に置いていた、あの曰く付きの指輪ケースを手に取り開いた。
ピンクゴールドと小さいダイヤが一粒。
貴金属や宝石の価値はこの異世界でもほぼ同じらしいので、そのうち男爵に頼んで売り払ってもらおうと思っていたが……
俺は風呂上がりのパジャマ姿のまま、そーっと縁側から庭に出た。う、六月とはいえ、ど田舎村もまだ夜は寒いな……
サンダルを足に突っ掛けて、庭の端から適当に平たい石を一個、部屋の明かりが届くところまで持ってくる。
指輪を上にそっと石の上に置いた。
「……王様のチート剣、出てこい」
胸の辺りにカッと熱い熱を感じたと思ったら、目の前にぼわっと真紅の魔力が吹き出して、あの夢の王様から貰った大剣に変わった。
大剣は少し前にユキりんを首枷から解放したときの、あの青い光をまだちょっとだけ帯びている。
「む。剣がでかいから調整が難しいな……せーの!」
剣の柄を両手で握り、そーっと切っ先を指輪に向ける。そして一気に落とした。
ぱきん、と指輪は真っ二つ。
割れた指輪はまたケースに戻しておいた。明日辺り、川に行って流してきてしまおう。
これは俺なりのけじめだった。光るもなか川の水に沈めれば良い禊になると思ったのだ。