絶品至福のローストドラゴンと五目炊き込みご飯の夕飯を終え、村長と勉さんは男爵の屋敷へ帰っていった。

 後片付けも終わり、順番に風呂に入って俺は早めに自室に引っ込んだ。
 まだ居間では、ばあちゃんやピナレラちゃん、ユキりんがおしゃべりしているようだが、今日だけはどうしても一人で夜を過ごしたかったのだ。

 改めて俺はスマホに届く、元の世界からのアプリメッセージやメール、電話の受信状態を確認した。
 やはり、こちらからも、向こう側からも届いたり届かなかったりと一定していない。

「届いているか確認ができないのは痛いな……アプリのメッセージだけは既読表示の有無で判別できるけど」

 メールでも、相手に届いたかどうかや、開封されたかをチェックするツールはある。
 だが有料サービスなので俺は異世界から自分のクレジットカード利用を躊躇っていた。

「十通送って半分届けばいいほう、か」

 俺はひとまず、今の現状を元の世界に残してきた両親や友人たち、会社の同僚や後輩らへ伝えるメッセージを書いて送信した。

 一応、元後輩の鈴木にも元カノの今の様子を教えてくれた礼を送っておく。
 だが鈴木、お前その人を煽るような舐めた口調はやめろとあれほど言ってあっただろう……それだけ俺に気を許してるってことだろうが、あれ社会人の送るメッセージとしてはヤバいレベルだぞ。

 あのパクり野郎の八十神はもうブロックしてるので無だ。もはや今後あの男と関わることもないだろう。

 そして元カノへは……
 俺は両目をぎゅっと瞑って彼女との数年間を思い返した。なんだか目が乾燥してきてショボショボする。
 何回か瞬きした後、両手でバシッと軽く頬を叩いてスマホに向き直った。



 元後輩鈴木からのメッセージには、元カノの周囲や社内の俺と共通の友人たちから聞き出した、俺が振られた理由が列挙されている。

 一番大きな理由は、俺がプロポーズに買った指輪のブランドが安くて気に入らなかった。これは間違いないようだ。
 どうも俺が店で指輪を見ているところを誰か知り合いが見ていたそうで。その話を聞いたことが、元カノが俺を切る決意を固めた決定打だったらしい。

 アプリに直接メッセージを入力しようとして、……俺は考え直してスマホのメモ帳に一度下書きすることにした。
 メッセージで送るなら長文は何回かに分けたほうがいいし、送る内容も過不足なくまとめるべきだと思ったから。

 鈴木からのメッセージを見返してみる。


『元カノさんのユウキ先輩へのダメ出し、箇条書きしまーす(えがお)』

『私服がダサい』

『チェーン店の牛丼ばっか食い過ぎ』

『デート中にスマホ見過ぎ』

『田舎の米とか野菜とかのお裾分けが超迷惑だった』

『連休や長期休暇のとき田舎に誘われるのが嫌だった。
 元カノさんも青森のど田舎出身で、田舎は大嫌いだったそーっス!』

『……先輩、マジでこの女のどこがよかったの?(どんびき)』


「てめえ鈴木。お前仕事中じゃないのか、この送信時間!」
 

 元上司として叱咤メッセージを返して、改めてその内容を精査する。
 これらの情報をもとに、俺は元カノへ送る最後のメッセージを書き始めた――。