壁時計を見るとまだ午前十時過ぎ。
「二人とも、少し休憩しないか。村の湧き水を採ってきたんだ、飲み物を用意するよ」
台所のばあちゃんに声をかけると、昼飯の準備中だったので要らないという。俺は三人分のグラスと、ボトリングしてきた湧水は飲む分を水差しに移し替え、あと冷蔵庫からとあるボトルを取り出しお盆に乗せて二人のいる居間に戻った。
「ユウキさん。それは?」
ユキりんが警戒している。思うんだが……ユキりんは元家猫の保護猫みあるな。ピナレラちゃんとばあちゃんにはとっくに態度を軟化させてるのに俺にだけシャーッと毛を逆立ててる感が半端ない。なぜ俺だけ。
しかも絶対俺を「ユキ兄ちゃん」とは呼んでくれない。一回頼んでみたらすごい嫌そうな顔で断られてしまった。美少年が俺にだけ塩対応すぎる。
やはり最初に美少女に間違えたのがあかんかったか。すまぬ。
「日本の有名な健康飲料だ。水で薄めて飲む」
白地に青い水玉模様の乳酸菌飲料のボトルだ。濃縮タイプなので水や炭酸水で薄めて飲む。
適当に白い原液をグラスに注ぎ、湧き水を注いで出来上がり。
ユキりんがやっぱり警戒していたので、まず俺が最初にグラスから一口飲んだ。甘さと酸味の絶妙なバランス。日本が誇る乳酸菌飲料だ、間違いない。
「うん、美味い」
「いただきましゅ」
好奇心旺盛な四歳児ピナレラちゃんも続いた。ぐびっと。するとただでさえ元気いっぱいのピナレラちゃんの柘榴色のお目々が輝いた。
「お、おいちい~!」
「ささ、ユキりんも」
「……いただきます」
だから毒なんて入れでねって!
恐る恐るグラスから飲んだユキりんのアメジストの目がカッと見開かれた。よし!
「おにいちゃ。これしゅごくおいちい」
「そうか。まだまだたくさんあるから、どんどん飲んでくれ」
『まだまだたくさんある』
まだ異世界転移して間もなかったが、俺はこの村に来てもう何度も口にしている。多分まだしばらくは言い続けるだろう。
「あとで男爵のところや村の人たちにもお裾分けに行かなきゃ」
「こんなに美味しい飲み物、自分たちだけでこっそり飲めばよかったんじゃないですか?」
「ユキりん。それは素人の考えだ。……田舎を舐めるな」
そこから俺は苦々しく解説した。
いくら過疎った僻村でも、田舎特有の付き合いがあるものだ。たとえばあちゃんが既に年金暮らしで、じいちゃんが生きてた頃ほど付き合いがなくても、盆暮れのお中元やお歳暮は欠かせないものだ。
そして俺たちには、もなか村だけでなく隣のもなか町にも親戚や友人知人がいた。冠婚葬祭の引き出物や香典返しでひたすら積み重なる緑茶。焼き海苔。干し椎茸や昆布などの乾物。
自分ちだけじゃ消費しきれないものは、お裾分けすることになる。自分たちからも、相手からも。その繰り返し。
ばあちゃんちの倉庫や家の押し入れの中には、そういったものが大量に押し込まれている。まずはこっちを消費しないとなあ。
こういう事情だから、ばあちゃんは味噌汁や煮物にも市販の顆粒だしは滅多に使わない。便利なのはわかってるが使ってしまうと出汁用の乾物が減らないからだ。
「この乳酸菌飲料の原液も、五本入りが毎年何箱も」
「え」
「缶入りのジュースなんかも同じく」
俺は居間の戸棚を開いた。ほらな、まだ何箱も何箱もぎっしり詰まってる。俺がまだ東京にいたときは、ばあちゃんが送ってくれてたっけ。
「おにいちゃ、もういっぱい! のみたい!」
「ははは。ユキりんは?」
「……お願いします」
そっと空になったグラスを差し出してきたユキりん。まだまだデレには程遠いが少しずつ距離が近づいているのを感じる。
ピナレラちゃんみたいにその柔らかなショコラブラウンの髪を撫で撫でさせてくれるまで、俺は頑張るっぺ!
「二人とも、少し休憩しないか。村の湧き水を採ってきたんだ、飲み物を用意するよ」
台所のばあちゃんに声をかけると、昼飯の準備中だったので要らないという。俺は三人分のグラスと、ボトリングしてきた湧水は飲む分を水差しに移し替え、あと冷蔵庫からとあるボトルを取り出しお盆に乗せて二人のいる居間に戻った。
「ユウキさん。それは?」
ユキりんが警戒している。思うんだが……ユキりんは元家猫の保護猫みあるな。ピナレラちゃんとばあちゃんにはとっくに態度を軟化させてるのに俺にだけシャーッと毛を逆立ててる感が半端ない。なぜ俺だけ。
しかも絶対俺を「ユキ兄ちゃん」とは呼んでくれない。一回頼んでみたらすごい嫌そうな顔で断られてしまった。美少年が俺にだけ塩対応すぎる。
やはり最初に美少女に間違えたのがあかんかったか。すまぬ。
「日本の有名な健康飲料だ。水で薄めて飲む」
白地に青い水玉模様の乳酸菌飲料のボトルだ。濃縮タイプなので水や炭酸水で薄めて飲む。
適当に白い原液をグラスに注ぎ、湧き水を注いで出来上がり。
ユキりんがやっぱり警戒していたので、まず俺が最初にグラスから一口飲んだ。甘さと酸味の絶妙なバランス。日本が誇る乳酸菌飲料だ、間違いない。
「うん、美味い」
「いただきましゅ」
好奇心旺盛な四歳児ピナレラちゃんも続いた。ぐびっと。するとただでさえ元気いっぱいのピナレラちゃんの柘榴色のお目々が輝いた。
「お、おいちい~!」
「ささ、ユキりんも」
「……いただきます」
だから毒なんて入れでねって!
恐る恐るグラスから飲んだユキりんのアメジストの目がカッと見開かれた。よし!
「おにいちゃ。これしゅごくおいちい」
「そうか。まだまだたくさんあるから、どんどん飲んでくれ」
『まだまだたくさんある』
まだ異世界転移して間もなかったが、俺はこの村に来てもう何度も口にしている。多分まだしばらくは言い続けるだろう。
「あとで男爵のところや村の人たちにもお裾分けに行かなきゃ」
「こんなに美味しい飲み物、自分たちだけでこっそり飲めばよかったんじゃないですか?」
「ユキりん。それは素人の考えだ。……田舎を舐めるな」
そこから俺は苦々しく解説した。
いくら過疎った僻村でも、田舎特有の付き合いがあるものだ。たとえばあちゃんが既に年金暮らしで、じいちゃんが生きてた頃ほど付き合いがなくても、盆暮れのお中元やお歳暮は欠かせないものだ。
そして俺たちには、もなか村だけでなく隣のもなか町にも親戚や友人知人がいた。冠婚葬祭の引き出物や香典返しでひたすら積み重なる緑茶。焼き海苔。干し椎茸や昆布などの乾物。
自分ちだけじゃ消費しきれないものは、お裾分けすることになる。自分たちからも、相手からも。その繰り返し。
ばあちゃんちの倉庫や家の押し入れの中には、そういったものが大量に押し込まれている。まずはこっちを消費しないとなあ。
こういう事情だから、ばあちゃんは味噌汁や煮物にも市販の顆粒だしは滅多に使わない。便利なのはわかってるが使ってしまうと出汁用の乾物が減らないからだ。
「この乳酸菌飲料の原液も、五本入りが毎年何箱も」
「え」
「缶入りのジュースなんかも同じく」
俺は居間の戸棚を開いた。ほらな、まだ何箱も何箱もぎっしり詰まってる。俺がまだ東京にいたときは、ばあちゃんが送ってくれてたっけ。
「おにいちゃ、もういっぱい! のみたい!」
「ははは。ユキりんは?」
「……お願いします」
そっと空になったグラスを差し出してきたユキりん。まだまだデレには程遠いが少しずつ距離が近づいているのを感じる。
ピナレラちゃんみたいにその柔らかなショコラブラウンの髪を撫で撫でさせてくれるまで、俺は頑張るっぺ!