ユキリーンと名乗った美少女は、よくよく見ると子供ではあったが十四、五歳くらいだった。
 二十八の俺との年齢差も十四、五歳……いける!

 脳内で高速でユキリーンちゃんとの今後をシミュレーションする俺だったが、挙動不審の俺に彼女は何かを察したようで申し訳なさそうな顔になった。

「あの。こんな顔だから勘違いされてると思うんですけど、……僕、男ですよ?」
「!?」

 なん……だと……?

 俺の脳内では再び高速で様々な思考が飛び交った。数秒間で莫大なシミュレーションを行った結果出した答えは。
 BL展開のある異世界転移でも、こんな美少女顔の美少年なら有り寄りの有りでは……?

 しかし俺の一目惚れと妄想は突如終わりを迎えることになる。

「おにいちゃー! だいじょぶー!?」

 ピナレラちゃんが屋敷から元気いっぱいに駆け寄ってきた。そうか、もう危険はないから様子を見に来たんだな。
 ピナレラちゃんは俺の傍らに座り込んでるずぶ濡れの、控えめに言って美少女な美少年を見て、ハッとした顔になって俺の黒いつなぎの太ももあたりを引っ張った。

 ははは、参ったな、こりゃピナレラちゃんもこの子を女の子と誤解してるぞう。お兄ちゃんへの嫉妬かな嬉しいなー。

 ……などとお花畑になってフワフワ浮ついていた俺の頭は、すぐにカチ割られることになる。

「あのねあのね。あたち、ピナレラ! おなまえおしえてくだしゃい!」
「ユキリーンといいます。可愛いお嬢さん」
「はう! あたち、おじょうしゃん!?」

 ピナレラちゃんはレディ扱いされて衝撃を受けた後、深刻な顔で俺を見上げた。

「おにいちゃ。あたち、おにいちゃをおむこしゃんにしてあげるってゆったけど」
「お、おお?」

 いや、わかってるよ。子供が「パパと結婚すりゅう~!」て言うやつと同じだったことは。……うん、ちょっとだけ期待してたのは内緒だ。

「あれはうしょでちた!」
「!?」

 なん……だと……?
 ピナレラちゃんがもじもじしてる。だが意を決したとばかりに一度ユキリーンちゃん、いやユキリーン君を見て、それから俺を大きな柘榴色のお目々で見上げた。
 とても真摯な眼差しで。

「おにいちゃ、ごめんちゃい。あたちはユキリーンちゃのちゅまになりましゅ!」
「!?」
「ちゅま! おくちゃま! ……うむ!」

 なんてことだ。キリッとした己の人生を定めた人間の顔をしている。まだピナレラちゃん四歳だべ!?

「ま、まさかの俺が捨てられパターン!? こんなポッと出の男だなんて! お兄ちゃんは許しませんよ!?」
「いや待って。勝手に僕の将来を決めないで」

 それまで不思議そうに俺とピナレラちゃんのやりとりを見ていたユキりんが困っている。

 ピナレラちゃんはユキリーン君の、まだ汚れているが麗しの顔を見つめて、ポーッとふくふくの頬っぺたを赤く染めている。あああああ。



 俺、一目惚れ
 美少女が美少年だった
 秒で消えたBL展開(始まる前に終わった)
 幼女から振られる
 幼女が美少年にプロポーズする

 と怒涛のコンボに俺のライフはゼロになった。

 一連の出来事がどれだけショックだったかというと、日本の元カノの声と顔を思い出せなくなったほどだ。
 ピナレラちゃん……こんなちっこいのに、この俺をここまで振り回すとは……幼いながら恐ろしかおなごだべ……

 可愛い幼女を奪われたことで、俺のユキリーン君に芽生えかけてた恋心は秒で刈り取られた。
 いやむしろこの、控えめにいって美少女な美少年は俺の敵だ! 一目惚れ? そんな過去のことは忘れたべ!

「ええと。なんか、……ごめんなさい?」

 う。男とわかってても可愛い。好みの顔だ……
 いや、いいんだ。俺だってわかってる。男として俺よりユキりんのほうがピナレラちゃんには魅力的だったんだろう。……年も近いし。

 俺はやはりピナレラちゃんのお父ちゃんポジションでいく!
 もうそれしか生きる道がねえっぺええええ!