ど田舎村での新しい生活が始まった日から、発見と驚きの連続だ。
 特に俺たちが驚いたことがある。なんと日本の家電製品のほとんどが、〝魔石〟という魔力を固めた石を上に置くだけで電気がなくても動くことが判明したのだ。

 魔石は魔導具という特殊な道具類のバッテリーだという。どんな魔導具でも使う人の魔力か、魔力が少なければ魔石を買って使うようにできている。
 正直、異世界を舐めていた。ど田舎村、日本よりずっと文明進んでるぞ……?

「このレイゾウコ? やエアコン? と似た機能の魔導具ならこの国にもあるよ。まあど田舎村にはないんだけどねえ。ど田舎だから」

 と自虐を交えての男爵のコメントを頂戴した。
 そうか……ここは魔法があるほうの異世界だったか……。俺は普段着代わりの黒いつなぎの作業着の胸ポケットから手帳を取り出して、念のためメモしておいた。

 ここ、ブランチウッド男爵モーリスさんが治めるど田舎村は、住民は三十名から五十名ほどで変動する。
 同じど田舎〝領〟の別の町や隣の領に出稼ぎに行ってる人たちもいるから増減があるのだ。

 基本的に自給自足。とはいえ馬車で二十分も行けば隣の〝ど田舎町〟が、二時間ちょっと行けば隣のシルドット領に出るので、本土から離れた飛び地とはいえ生活必需品に困ることはないようだ。
 ……ただひたすら僻地というだけで。

 主に農業と畜産で生計を立てている。
 中でも自然豊かな環境を生かして、薬草栽培が盛んだそうだ。

「ど田舎村の薬草は評判いいんだよ~。よそと同じ生産コストで一つランク上のポーションが作れるんだよ」
「ポーションって病気や怪我が治るっていう?」
「そうそう。うちの村で作れるのは中級ポーションでね。使い続けると古傷や慢性病も治癒にも効果があって」
「それ詳しく教えてけんろ」

 食いぎみに言ったのは、もなか村から転移した四人のうちの一人、勉さんだ。
 そうか、勉さんは足が悪くてゆっくりしか歩けないから古傷が治るなら欲しいよな。



 男爵が「村人たちの手伝いをしてくれたら賃金を出すよ」と言ってくれたので、俺たちもなか村の四人は適材適所で自分たちにできる仕事をすることにした。

 村長は元の世界で僻村とはいえ首長だった人だ。その能力を買われて男爵の仕事の手伝いをするようだ。
 現代日本の政治経済の知識をもとに男爵のアドバイザーポジションに収まる感じか。

 おっと忘れていたが、ここは俺たちにとってマジで優しいほうの異世界転移だった。異世界人に理解がある世界だったのはもちろん、保護されたど田舎村も領主も良い人たちだった。
 特にありがたかったのは、言葉が通じたことだろう。話し言葉はもちろん、文字も読める。
 ……あの虹色キラキラの宇宙人三人め、ちゃんとチート能力を付与してくれてたんじゃないか。

 勉さんはポーションの話を聞いてからもう分厚い眼鏡のレンズが光りっぱなしだ。
 男爵の部下が薬草栽培とポーション製造を管轄してるそうなので、そちらで手伝いしながら学ばせてもらうようだ。

 村長と勉さんはもなか村の家ではなく、男爵の屋敷の客間を引き続き借りるようだ。
 特に勉さんの足だと、俺なら二十分で歩ける距離でも一時間以上かかる。
 代わりに二人の家は俺が定期的に見回って異常がないか保守を頼まれた。これから数日かけてそれぞれの家の食料品を男爵の屋敷に運んでほしいとも頼まれている。

 ぱあちゃんは何といっても八十越えたお年寄りだ。何とど田舎村の老人たちより高齢だった。
 本人は元気で足腰も丈夫なのだが、さすがに男爵や村人たちからは「健やかに過ごすのがあなたの仕事だ」と言われていた。

 で、俺。まだ幼児のピナレラちゃんを除くと一番若い俺だったが、じゃあ何ができるかというと……
 元々もなか村出身で田舎の生活には慣れている。都会に出て大学も卒業したし、会社員として六年勤めた。この経歴はこの世界だとかなりの高等教育を受けた貴族や、裕福な庶民と同等らしい。

 ……結果、自分で商会を立ち上げるならともかく、雇われる立場だと逆に潰しがきかないと判明してしまった。

「ユウキ君は仕方ないから、村のことを一通りやって何が得意か見つけるといいよ。君の担当はその後で決めようか」

 俺、まさかの異世界でも何でも屋扱い決定。