食事が一段落すると、俺たちもなか村人は男爵のお屋敷の客間で情報交換の時間を持った。
 あらかじめ、俺が三人に後で話をしたいと伝えてあったのだ。
 ばあちゃんは少し心配そうに見えるし、村長は何を考えているかさっぱりだ。勉さんも分厚い眼鏡の奥で何かを考えて込んでいるようだった。

「まあ飲め」と村長がパーティー会場から貰ってきた赤ワインをグラスに注いで手渡してくれた。
 ちびちび飲みながら彼らの話に耳を傾けることにした。

「もなか村を廃村にするわけにゃいかねえんだ。もなか村にゃ政財界の大物の先祖の墓がいくつかあってな、廃村になりゃ土地狙ってる外資企業が墓地を潰してまうかんな」

 と村長が深刻な面持ちで話し始めた。

「んだから、そっちの親族連中と密議済みなんだべ。ユキちゃんもガキンチョの頃、よく村で黒塗りの車見たべ?

 と言われて思い出すのは、村の共同墓地へ向かう黒い高級車の数々だ。
 まだ就学前だった俺は夏休みや冬休みになると叔父さんが従兄弟たちを連れて帰省するから、一緒に村中を遊び回っていたものだ。
 いつもなら車一台ない墓地の駐車場に、テレビでしか見たことがないすごい車の数々。黒いスーツの男たちに黒無地の着物の上品な女性たち。着物には家紋が入っていたのをよく覚えている。
 訛りのない東北以外の人たちも多かった。意外と皆気さくで、こっそり様子を覗いていた俺と従兄弟を手招きして墓にお供えしたお菓子やジュースを分けてくれていた。銀座の老舗和菓子屋のようかんとかだ。いま思えばむちゃくちゃ高級品じゃないか!

「そういえば……あの車ぜんぶ、フロントガラスもリヤガラスもすごい色付きだったっけなあ……」

 いま国産車じゃあまり見ないが、車の窓ガラスの上部に青や緑の色が入ったガラスがある。もしバスに乗る機会があれば運転手前のフロントガラスを見てほしい。上に色があるはずだ。
 これは単純に外の強すぎる日差しの緩和や、紫外線除けのためだ。
 欧米の高級車に多いので、わざと国産車のガラスを色付きに変えてステータス感を出すのが流行ったのだ。
 しかし高級車の色付きガラスには一番の目的がある。――プライバシー保護だ。
 中にいる人の顔が見えないよう、ガラスの色部分が特に濃く範囲が広くなっているものは、芸能人や政治家、反社系の人たちがよく使っている。
 ……つまり、そういうちょっと訳ありの人たちだったわけだな。

「事情はわかったけんど。でもよ村長、墓なら遺骨ごと他に移せばいいべ? 何でわざわざ危ない橋を渡ってまでもなか村の存続を?」

そんな大物の一族の墓なら、自分たちのホームベースに移すべきだろうし、金だって出せるはずだろうに。

 正直この隠蔽が表沙汰になったら、もなか村も残っていた村長やばあちゃん、勉さん、それにもう村に本籍地を戻した俺もタダではすまないはずだ。