「陛下におかれましては、昨夜は、お妃さまをお召しになられまして、ありがとうございます」
黄玉の間にて、ずらりと並ぶ家臣たちを背に丞相が暁嵐に向かって頭を下げる。
今日も隣には皇太后がいる。
心底安堵したような表情の丞相に比べ、にこやかではあるものの皇太后はどこか探るような目で暁嵐を見ている。閨をともにしたのに暁嵐が無事でいることを訝しんでいるのだろう。
「さらに今宵も百のお妃さまをお召しになられるとのこと。よほどお気に召したようにございますな」
丞相の言葉に、暁嵐は頷いた。
「ああ、気に入った。しばらくは彼女を閨に呼ぶことにする。後宮を開いてくださった義母上に感謝いたします」
皇太后の視線を感じながら、暁嵐が機嫌よく答えると、丞相がはははと笑った。
「これはこれはよほどお気に召したようですな! 百のお妃さまは確か郭凱雲の娘。褒美を取らせる必要がありそうですな」
「ほんに、ありがたいことにございます」
皇太后が扇で口元を覆い答える。
「ではお世継ぎの誕生も近いうちに見られるやもしれませんな」
丞相の言葉に、暁嵐は首を横に振った。
「いやそれはまだ先だ。俺はまだ彼女と閨をともにしていない」
暁嵐がきっぱりと言い切ると、皇太后が桃色に染め上げた眉を上げた。
一方で丞相は笑いを引っ込めて眉を寄せる。
「は? ……閨を……陛下どういうことにございますか?」
「言葉通りの意味だ。俺はまだ彼女を抱いていない」
「へ、陛下……それは」
「案ずるな、男女のことは繊細だと義母上も仰ったであろう? 俺は彼女とゆっくりことを進めたいと思っているだけだ。近いうちに、そうなる」
暁嵐が言い切ると、丞相は一応納得した。
「これはこの場だけの話にしてくれ、それから彼女を責めてはならん」
「も、もちろんにございます、陛下。それほど大切に想われるお方を見つけられたのはよきことにございます。無事にことが成ることをお待ちしております」
かしこまって頭を下げるのを、暁嵐はふっと笑う。
「逐一、報告せよというのか。お前も悪趣味だ」
「い、いえ、その……」
皇帝と丞相の間で交わされる冗談に、他の家臣たち、皇太后も、にこやかに笑った。
寝所での出来事を赤裸々に語るのは、凛風の身に危険が及ぶのを避けるためだ。
閨をともにしていながら、使命を実行できていないとなれば、彼女が皇太后からどのような扱いを受けるかわからない。
――危険な賭けだった。
暁嵐が皇太后の策略に気づいていると、皇太后に悟られるのが先か。
凛風が暁嵐を信頼し心を預けてくれるのが先か。
負ければ、凛風の命はない。
皇太后がにっこりと微笑んだ。
「陛下がこのように女子にお優しい方だとは思いませんでした。無事に百の妃と結ばれることを願います」
暁嵐は彼女の目を見据えたまま微笑んだ。
「ありがとうございます、義母上」
黄玉の間にて、ずらりと並ぶ家臣たちを背に丞相が暁嵐に向かって頭を下げる。
今日も隣には皇太后がいる。
心底安堵したような表情の丞相に比べ、にこやかではあるものの皇太后はどこか探るような目で暁嵐を見ている。閨をともにしたのに暁嵐が無事でいることを訝しんでいるのだろう。
「さらに今宵も百のお妃さまをお召しになられるとのこと。よほどお気に召したようにございますな」
丞相の言葉に、暁嵐は頷いた。
「ああ、気に入った。しばらくは彼女を閨に呼ぶことにする。後宮を開いてくださった義母上に感謝いたします」
皇太后の視線を感じながら、暁嵐が機嫌よく答えると、丞相がはははと笑った。
「これはこれはよほどお気に召したようですな! 百のお妃さまは確か郭凱雲の娘。褒美を取らせる必要がありそうですな」
「ほんに、ありがたいことにございます」
皇太后が扇で口元を覆い答える。
「ではお世継ぎの誕生も近いうちに見られるやもしれませんな」
丞相の言葉に、暁嵐は首を横に振った。
「いやそれはまだ先だ。俺はまだ彼女と閨をともにしていない」
暁嵐がきっぱりと言い切ると、皇太后が桃色に染め上げた眉を上げた。
一方で丞相は笑いを引っ込めて眉を寄せる。
「は? ……閨を……陛下どういうことにございますか?」
「言葉通りの意味だ。俺はまだ彼女を抱いていない」
「へ、陛下……それは」
「案ずるな、男女のことは繊細だと義母上も仰ったであろう? 俺は彼女とゆっくりことを進めたいと思っているだけだ。近いうちに、そうなる」
暁嵐が言い切ると、丞相は一応納得した。
「これはこの場だけの話にしてくれ、それから彼女を責めてはならん」
「も、もちろんにございます、陛下。それほど大切に想われるお方を見つけられたのはよきことにございます。無事にことが成ることをお待ちしております」
かしこまって頭を下げるのを、暁嵐はふっと笑う。
「逐一、報告せよというのか。お前も悪趣味だ」
「い、いえ、その……」
皇帝と丞相の間で交わされる冗談に、他の家臣たち、皇太后も、にこやかに笑った。
寝所での出来事を赤裸々に語るのは、凛風の身に危険が及ぶのを避けるためだ。
閨をともにしていながら、使命を実行できていないとなれば、彼女が皇太后からどのような扱いを受けるかわからない。
――危険な賭けだった。
暁嵐が皇太后の策略に気づいていると、皇太后に悟られるのが先か。
凛風が暁嵐を信頼し心を預けてくれるのが先か。
負ければ、凛風の命はない。
皇太后がにっこりと微笑んだ。
「陛下がこのように女子にお優しい方だとは思いませんでした。無事に百の妃と結ばれることを願います」
暁嵐は彼女の目を見据えたまま微笑んだ。
「ありがとうございます、義母上」