すうすうという凛風の呼吸が規則的になったのを確認して、暁嵐はむくりと起き上がる。そして、凛風の髪に挿したままになっている簪を引き抜いた。
鋭く尖った先が紫色に変色している。術がかけられている証だ。弟の輝嵐の仕業に違いない。暁嵐を絶命させるにはやや弱いが、やつにはこれが精一杯なのだろう。
枕に顔をうずめて眠る凛風の、少し幼く見える頬に手を伸ばす。柔らかな感触に胸が甘く締め付けられた。
部屋へ入ってきた時の凛風は、遠目にもわかるほど怯え震えていた。自らに課せられた使命に恐れ慄(おのの)いていたのだろう。その姿に暁嵐の胸は痛んだ。
すぐにでも抱きしめて、つらい使命から解き放つと言いたくなる衝動に駆られたが、奥歯を噛んでどうにか耐えた。
彼女の心と抱えているものがわからないままに、それをするのは危険だからだ。彼女と皇太后がどのくらい深く繋がっているのかを確認する必要もある。そもそも彼女自信が、使命から解き放たれたいと思っているのかどうかすらわからないのだから。
それでも。
暁嵐が皇帝だと知った時の絶望に染まる瞳に、暁嵐は希望を見出した。
やはり刺客としての役割は、彼女の本意ではないと確信したからだ。
彼女を危険な使命へと駆り立てるもの。自らの命を投げ打ってでも使命を果たさなくてはならないと思うのはなぜか、その答えを必ず見つけ出してみせる。
そして必ずこの手で彼女を救い出す。
ひと時の平和を楽しむように眠る凛風を見つめて、暁嵐はそう決意する。
彼女に、己の行先を自分で考えるように言ったのはその第一歩だった。
彼女が自分で考えて自らの意思で、暁嵐に心を預けてくれるなら、どのようなものからも守ってやることができる。
もう迷いはなかった。
閉じた長いまつ毛と、柔らかな頬、桜色の唇も。
彼女のすべてに、暁嵐の心は囚われているのだから。
目にかかる黒い艶やかな髪をそっと払うと、彼女は「ん」と唸(うな)ってこちら側に寝返りを打つ。
暁嵐は笑みを浮かべて、真っ白な額に口づけた。
鋭く尖った先が紫色に変色している。術がかけられている証だ。弟の輝嵐の仕業に違いない。暁嵐を絶命させるにはやや弱いが、やつにはこれが精一杯なのだろう。
枕に顔をうずめて眠る凛風の、少し幼く見える頬に手を伸ばす。柔らかな感触に胸が甘く締め付けられた。
部屋へ入ってきた時の凛風は、遠目にもわかるほど怯え震えていた。自らに課せられた使命に恐れ慄(おのの)いていたのだろう。その姿に暁嵐の胸は痛んだ。
すぐにでも抱きしめて、つらい使命から解き放つと言いたくなる衝動に駆られたが、奥歯を噛んでどうにか耐えた。
彼女の心と抱えているものがわからないままに、それをするのは危険だからだ。彼女と皇太后がどのくらい深く繋がっているのかを確認する必要もある。そもそも彼女自信が、使命から解き放たれたいと思っているのかどうかすらわからないのだから。
それでも。
暁嵐が皇帝だと知った時の絶望に染まる瞳に、暁嵐は希望を見出した。
やはり刺客としての役割は、彼女の本意ではないと確信したからだ。
彼女を危険な使命へと駆り立てるもの。自らの命を投げ打ってでも使命を果たさなくてはならないと思うのはなぜか、その答えを必ず見つけ出してみせる。
そして必ずこの手で彼女を救い出す。
ひと時の平和を楽しむように眠る凛風を見つめて、暁嵐はそう決意する。
彼女に、己の行先を自分で考えるように言ったのはその第一歩だった。
彼女が自分で考えて自らの意思で、暁嵐に心を預けてくれるなら、どのようなものからも守ってやることができる。
もう迷いはなかった。
閉じた長いまつ毛と、柔らかな頬、桜色の唇も。
彼女のすべてに、暁嵐の心は囚われているのだから。
目にかかる黒い艶やかな髪をそっと払うと、彼女は「ん」と唸(うな)ってこちら側に寝返りを打つ。
暁嵐は笑みを浮かべて、真っ白な額に口づけた。