対峙するシアンさんとリンダ先輩。お互いに抜き身の刃を手にしての睨み合いは、明らかに殺し合いの予兆を感じさせる。
たしかに僕やサクラさんなら、たとえどちらかの武器がどちらかの命を奪うその寸前になったところからでも、問題なく無力化して強制終了させられるけどー……
「……やっぱり危険すぎないかなー、無茶だよー。危機的状況で限界突破を見込むのは分かるけど、相手はモンスターじゃなくて人間なんだよー?」
「敵として得物抜いて来てる以上そんなもん、人もモンスターも同じでござろー? いい感じに因縁があっていい感じに負けたくない、そしていい感じにぶっ殺しちゃっても問題ないアホがのこのこ現れたんでござるから、こりゃ千載一遇でござるよ」
「ぶっ殺すのは問題あるよー……!」
サクラさんと密着して、小声でヒソヒソと話し合う。こんな状況じゃなきゃめちゃくちゃ嬉しくて舞い上がるんだけど、こんな状況だからねー。
そしてもはや完全に、リンダ先輩のことをシアンさんが壁を超えるための踏み台として認識してるんだけどこの人。仮にも第一総合学園剣術科目の特別講師でしょうに、そんな軽々しく生徒相手にぶっ殺しちゃってもーなんて言わないでよー。
もはやワカバ姉にも匹敵するヒノモトスピリッツを剥き出しにしてるやばーいサクラさんは、次いで僕の肩を叩いてシアンさんのほうを指差す。
いつ始まるかも知れない戦闘に、緊張を極限まで高めた凛とした姿だ。それを呑気なノリでにこやかに示して彼女は言う。
「何よりシアンがやる気満々でござる。杭打ち殿をコケにされてよほどトサカにきてるでござるねー。このこの、愛されてるでござるなぁ!」
「えっほんとー!? い、今なら告白したらいけるかなー!?」
「食いつき早っ。さすがにそれは無理でござるよー。特別に想っているのは間違いないでござろうが、色恋沙汰にうつつを抜かしてる時期じゃないでござるしー」
「がくー」
知ってた! 愛されてるって言われて思わず舞い上がっちゃったけど知ってたよー!
シアンさんは新世界旅団の団長として、発足するまでに十分な実力をつけなきゃいけないものねー。そりゃ告るとか告らないとか以前に、忙しすぎるよねー。
でもちょっとガックリ……ではなく! シアンさんを見ればたしかにやる気満々って感じで、本気で怒ってるからかカリスマが暴発して威圧の形でリンダ先輩と取り巻き達を襲ってるよ。
後ろの二人はもちろんのこと、剣術部の部長さんな先輩までもが思わず気圧されるほどのプレッシャーだ。うん、やっぱりシアンさんの一番の強みだねー、あのカリスマは。あれ一つで多少実力が低かろうが余裕でお釣りが来ると思う。
「あそこまでやる気なんでござるから、少しは発散させてやらないと溜め込む一方でそれこそ酷にござるよ。ストレス過多で倒れるシアンを見たいでござるか?」
「いやまあ、それは嫌だけど……うーん。不安だなあ」
「かくいう杭打ち殿は案外、過保護でござるなあ」
けらけら笑うサクラさん。さすがにそっちが過激すぎるんだと思うよー。
さておき、たしかに今すぐ戦いを止めたらシアンさんが不完全燃焼感を抱いちゃいそうなところはあるね。冒険者としての事実上の第一歩目をそんな感じに終わらせるのは、ちょっと不憫だと僕も思う。
なるべく悔いの残らない形で決着がつきそうなタイミングで、止めに入るかなー……レリエさんが一心不乱に見守るのを隣で見つつ、僕とサクラさんも向き合う二人を見る。
カリスマからくる威圧にもそろそろ慣れてきたか、リンダ先輩が大きく吠えた!
「貴族が、何が新世界旅団だっ! ──お遊びで冒険者をやるなぁーっ!!」
「ッ……!!」
気迫の籠もった叫び。あるいは憎悪さえ感じる声とともに、彼女はシアンさんへと飛びかかった!
大層なことを言うだけはあり、力強い踏み込みからの加速がスムーズで、あっという間に距離を詰める。
そうして接近して振り下ろす一撃必殺の太刀、脳天袈裟懸けの大斬撃。力まかせの粗雑な振るい方だけど狙いはしっかりしているあたり、よっぽど慣れたムーヴなんだろう。体に染み付いた基本動作になってるってことだねー。
「覚悟っ!!」
「なんの……!!」
剛撃をブロードソードで受けようと防御の構えをして──あまりの勢いに押し負けるととっさに判断したのか、シアンさんの剣筋が変化した。
横一文字にしていた自身の武器に角度をつけ、ヒットした瞬間に横滑りさせることで斬撃の軌道を反らしにかかったのだ。力ある攻撃ほどこの手の誘導には弱い、本命な分いなされちゃうと致命的な隙を生むからね。
ガキィン!! と金属同士のぶつかる音が火花を散らして轟く。一撃目、仕掛ける先輩と受けるシアンさん!
案の定やはりというべきか、凄まじい勢いと込められた膂力、気迫そのものの太刀筋にブロードソードでは太刀打ちできないみたいだった。弾かれそうになりつつもどうにか軌道が逸らされる。
とっさに角度をずらしていなす判断をしたのは正解だったねー。まともに受けてたらそこで終わってたよー。
「ううっ!?」
「くっ……隙あり!」
力を込めての斬撃があらぬ方向に流され、リンダ先輩の首筋から胸元にかけてががら空きになる。
絶好の攻め時だ──同じく思ったのか、シアンさんが一気に剣を振るう。先程とは逆に、先輩の隙を突く斬撃を放ったのだ!
たしかに僕やサクラさんなら、たとえどちらかの武器がどちらかの命を奪うその寸前になったところからでも、問題なく無力化して強制終了させられるけどー……
「……やっぱり危険すぎないかなー、無茶だよー。危機的状況で限界突破を見込むのは分かるけど、相手はモンスターじゃなくて人間なんだよー?」
「敵として得物抜いて来てる以上そんなもん、人もモンスターも同じでござろー? いい感じに因縁があっていい感じに負けたくない、そしていい感じにぶっ殺しちゃっても問題ないアホがのこのこ現れたんでござるから、こりゃ千載一遇でござるよ」
「ぶっ殺すのは問題あるよー……!」
サクラさんと密着して、小声でヒソヒソと話し合う。こんな状況じゃなきゃめちゃくちゃ嬉しくて舞い上がるんだけど、こんな状況だからねー。
そしてもはや完全に、リンダ先輩のことをシアンさんが壁を超えるための踏み台として認識してるんだけどこの人。仮にも第一総合学園剣術科目の特別講師でしょうに、そんな軽々しく生徒相手にぶっ殺しちゃってもーなんて言わないでよー。
もはやワカバ姉にも匹敵するヒノモトスピリッツを剥き出しにしてるやばーいサクラさんは、次いで僕の肩を叩いてシアンさんのほうを指差す。
いつ始まるかも知れない戦闘に、緊張を極限まで高めた凛とした姿だ。それを呑気なノリでにこやかに示して彼女は言う。
「何よりシアンがやる気満々でござる。杭打ち殿をコケにされてよほどトサカにきてるでござるねー。このこの、愛されてるでござるなぁ!」
「えっほんとー!? い、今なら告白したらいけるかなー!?」
「食いつき早っ。さすがにそれは無理でござるよー。特別に想っているのは間違いないでござろうが、色恋沙汰にうつつを抜かしてる時期じゃないでござるしー」
「がくー」
知ってた! 愛されてるって言われて思わず舞い上がっちゃったけど知ってたよー!
シアンさんは新世界旅団の団長として、発足するまでに十分な実力をつけなきゃいけないものねー。そりゃ告るとか告らないとか以前に、忙しすぎるよねー。
でもちょっとガックリ……ではなく! シアンさんを見ればたしかにやる気満々って感じで、本気で怒ってるからかカリスマが暴発して威圧の形でリンダ先輩と取り巻き達を襲ってるよ。
後ろの二人はもちろんのこと、剣術部の部長さんな先輩までもが思わず気圧されるほどのプレッシャーだ。うん、やっぱりシアンさんの一番の強みだねー、あのカリスマは。あれ一つで多少実力が低かろうが余裕でお釣りが来ると思う。
「あそこまでやる気なんでござるから、少しは発散させてやらないと溜め込む一方でそれこそ酷にござるよ。ストレス過多で倒れるシアンを見たいでござるか?」
「いやまあ、それは嫌だけど……うーん。不安だなあ」
「かくいう杭打ち殿は案外、過保護でござるなあ」
けらけら笑うサクラさん。さすがにそっちが過激すぎるんだと思うよー。
さておき、たしかに今すぐ戦いを止めたらシアンさんが不完全燃焼感を抱いちゃいそうなところはあるね。冒険者としての事実上の第一歩目をそんな感じに終わらせるのは、ちょっと不憫だと僕も思う。
なるべく悔いの残らない形で決着がつきそうなタイミングで、止めに入るかなー……レリエさんが一心不乱に見守るのを隣で見つつ、僕とサクラさんも向き合う二人を見る。
カリスマからくる威圧にもそろそろ慣れてきたか、リンダ先輩が大きく吠えた!
「貴族が、何が新世界旅団だっ! ──お遊びで冒険者をやるなぁーっ!!」
「ッ……!!」
気迫の籠もった叫び。あるいは憎悪さえ感じる声とともに、彼女はシアンさんへと飛びかかった!
大層なことを言うだけはあり、力強い踏み込みからの加速がスムーズで、あっという間に距離を詰める。
そうして接近して振り下ろす一撃必殺の太刀、脳天袈裟懸けの大斬撃。力まかせの粗雑な振るい方だけど狙いはしっかりしているあたり、よっぽど慣れたムーヴなんだろう。体に染み付いた基本動作になってるってことだねー。
「覚悟っ!!」
「なんの……!!」
剛撃をブロードソードで受けようと防御の構えをして──あまりの勢いに押し負けるととっさに判断したのか、シアンさんの剣筋が変化した。
横一文字にしていた自身の武器に角度をつけ、ヒットした瞬間に横滑りさせることで斬撃の軌道を反らしにかかったのだ。力ある攻撃ほどこの手の誘導には弱い、本命な分いなされちゃうと致命的な隙を生むからね。
ガキィン!! と金属同士のぶつかる音が火花を散らして轟く。一撃目、仕掛ける先輩と受けるシアンさん!
案の定やはりというべきか、凄まじい勢いと込められた膂力、気迫そのものの太刀筋にブロードソードでは太刀打ちできないみたいだった。弾かれそうになりつつもどうにか軌道が逸らされる。
とっさに角度をずらしていなす判断をしたのは正解だったねー。まともに受けてたらそこで終わってたよー。
「ううっ!?」
「くっ……隙あり!」
力を込めての斬撃があらぬ方向に流され、リンダ先輩の首筋から胸元にかけてががら空きになる。
絶好の攻め時だ──同じく思ったのか、シアンさんが一気に剣を振るう。先程とは逆に、先輩の隙を突く斬撃を放ったのだ!