その後も特に問題なく、出てくるモンスターを冷静に倒していくシアンさん。多くの冒険者を輩出しているエーデルライトの家系だからだろうか、元からしてそれなりに高度な戦闘訓練は受けているみたいだ。
 鋭い剣の技の冴えももちろんながら、体捌きも貴族剣術らしいお上品さがあって優美だ。何よりそれらをうまく駆使できるシアンさんの身体能力の高さや賢さは、さすがは文武両道才色兼備の天才生徒会長なだけはあるよー。
 
 総じて天才扱いできるだけの素質があり、しかもそれに驕ることなく努力を重ねられる心根の真面目さもある。継承した技術の質も申し分なく、今後ますますの発展が見込めそうな逸材と言えるねー。
 
「……鍛えに鍛えたらサクラさんにも並べそうじゃない? 相当先の話になるとは思うけどさ」
「やっぱそう思うでござる? 剣の素質はそこそこ止まりでござるが、体捌きと直観的な動きについてはなかなかのもんでござろ。なんのかんの最低限、鍛えてはいたみたいでござるしね」
「朝一からハードトレーニングした後にあれだけ動けるんだから間違いないねー。体幹も体重移動も慣れてるし、かなり仕込まれてると思うよー」
 
 サクラさんと二人、シアンさんの伸び代について初見を述べ合う。視線の先では彼女がゴブリン3体相手にうまく立ち回っているところだ。
 棍棒で殴りかかってきた一匹目をステップして躱し、その際に腕を切りつける。腱が切れたか棍棒を落としたその隙に、直近の二匹目へと接近して袈裟懸けに切る。
 
「はあっ!!」
「ぐぎゃあっ!?」
 
 肩から心臓部にかけてざっくり深く斬り込んだのち、二匹目のゴブリンを豪快に後ろに蹴り倒して剣を引き抜く。そして三匹目、シアンさんを背後から襲おうとしていたやつに反転して斬りかかった。
 スピードはともかく動き自体はいいね、かなりいい。二匹目を攻撃してから三匹目に移行するまでの流れが似つかわしくないほどにワイルドだけど、あれ多分エーデルライトの剣技だろうね。引き抜きからの連撃って動きは、シアンさん本人の剣技より数段クオリティが高いし。

「とどめっ!!」
「ぐげげぁっ!!」

 三匹目を制した後、最初に斬りかかりつつも最後に残った一匹目に剣を振るう。利き手が潰されたゴブリンなんて赤子同然だ、瞬く間に首を跳ね飛ばされて倒せた。
 完全勝利だ。朝から運動して疲れていてもなおここまで動けるんなら、体調が万全なら地下10階層までくらいならどうにかいけるかもしれないねー。
 
 それでもこれで実に10連戦目、単純にそろそろ疲労困憊だ。
 僕らは頃合いと見てシアンさんに近づいた。サクラさんが果実水の入った水筒を渡しつつ彼女をねぎらう。
 
「おっつかれーでござるー。いやいや、見事にござったよシアン、拙者や杭打ち殿の期待以上でござったよ」
「お、お疲れさま……んく、んく。ふう、ふう。体力もさることながら、一人で戦うのはやはり気力を使うわね……んく、んく」

 汗だくになりつつも果実水を飲み、息も絶え絶えにどうにか回復を試みるシアンさん。体力的な消耗もだけど、気力的なところで相当疲れちゃったみたいだねー。
 一人でモンスターと戦う、なんてのはパーティー組んでるとなかなか機会がないし、それだけで重圧感あるしね。特に敵が複数で来るさっきみたいなパターンの場合、動きをトチるとそれが命取りになりかねないし。

 まあでもそれを踏まえても相当な動きを見せてくれたと思うよねー。
 素敵だなーと内心で拍手してると、レリエさんがシアンさんの滴る汗をハンカチで拭きながらねぎらいの言葉をかけていた。

「お疲れさまです、団長。大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よレリエさん。ありがとう……シアンでいいし敬語もいらないわよ。堅苦しいもの」
「え? は、はあ……分かったわ、シアン。あの、私のことレリエって呼び捨てで呼んで? なんだか申しわけないわ」
「ふふ、分かったわレリエ」
「あ、じゃあ拙者とも呼び捨てタメ口でよろしくでござるよレリエー」
「………………………………」
 
 ぼ、僕の眼の前で美女3人が交流してるよー……! なんて素敵な光景だろう、地下なのに天国みたいだよー!
 相性がいいのか3人ともがすっかり打ち解けている。特にレリエさんは古代人ってこともあってどうかなー? と思ってたんだけど……相当賢いお人みたいだから、文化の違いを十分に踏まえた上で理解を示して歩み寄ってくれてるみたいだ。
 そしてそれを分かっているからこそシアンさんもサクラさんも、仲良くするために歩み寄っていってるんだねー。
 
 はあ、尊い……この世のものとは思えない天上の光景だよー。
 ほのぼのしつつも3歩くらい下がったところで見守る、そんな僕の耳にふと、何者かの呼び声が聞こえてきた。
 
「杭打ち!! 見つけたぞ、オーランドを返せぇっ!!」