警戒を一切解かないのは、目の前の三人組が未だに人攫いではないのかという可能性を捨てきれないのともう一つ。それはそれとして瓜二つの子供二人が本当に、人間なのかどうかが疑わしくもあるからだ。
 いるんだよね、たまに。人間の姿に擬態してくるモンスターってやつが。迷宮の地下10階あたりに多くて、初心者を脱した冒険者にとっての最初の難関だなんて扱いをされがちなやつらだ。
 
「…………」
「ヒカリ、私達警戒されてるね、杭打ちの人に」
「そうだね、ヤミ。どうしたら信じてもらえるかな、僕達の身の上を」
 
 そういうモンスターの擬態は大体、どことなく違和感があるものだけどこの双子……双子? にはそうしたものが感じられない。パッと見てもジックリ見ても完全に人間の子供だ。
 そもそもこの階層にそんな、擬態するモンスターがいるなんて話は聞いたことないし。となるとやはりこの子達は人間で、三人組が掻っ攫って来たって話になるかもだけど。
 
「ちょ、ちょっとヤバいわよ……! 杭打ちめっちゃ怖いじゃん、ていうかなんであんなに強いのよ、Dランクが!」
「き、聞いたことがある。杭打ちは実はまだ子供で、年齢的な問題からDランクなだけで実力自体はSランクにも引けを取らないとかなんとか。そん時はまたまたァーって笑ってたけど、ま、まさかマジとは」
「命ばかりは、命ばかりはァァァ……ぐしゅぐしゅ、ぴぇぇぇ……」
 
 ビビり倒してるツインテールの可愛い女の子に、密着されてひそひそ話してるすっごい羨ましい爽やかイケメンくん。そしてさっきからひたすら泣いて許しを請うている小柄な女の子。
 なんとも賑やかというか、ついさっきまで危機的状況だったって自覚あるのかなーって思っちゃうほどに脳天気な彼や彼女達が、わざわざ子供を攫ってこんなところに来る理由も薄い。
 
 それこそ面白半分、虐待目的とかなら話は別だけど……他ならぬ子供達の証言もあるし、何より自分達も死にかねないところでそんなことするはずもないか。
 彼らの様子を見て、ある程度信用はできると思って僕は杭打機を下ろした。とはいえいつでも殴り殺せるように、最低限の構えはしてるけど。
 
 ともかく落ち着いて事情を聞く必要がある。
 僕は仕方なし、彼らに話しかけた。
 
「…………話を聞きたい。説明できる人、いる?」
「!? 杭打ちの声、若っ!?」
「こ、子供の声……マジで未成年だったりするのか、杭打ち!?」
「ぐしゅぐしゅ……巷で流れてる杭打ちさん美少女説はホントでしゅかぁ……?」
 
 ひとまず事情を聴こうと口を開いたらこれだよ、僕の話なんて今はどうでもいいでしょうに。
 そして何さ美少女説って、初めて聞いたんだけど。帽子とマントに覆われた僕の本体はいつからミステリアスな美少女になったんだろうか、僕は男だよ!
 
 少なくともこの三人は今は駄目だ、気が動転してるのか話になりそうもない。
 どうしたもんかと考えて、僕は先にヒカリ、ヤミと互いを呼び合っていた子達に話しかけた。
 
「……説明できる?」
「あー、僕ら視点からの話でなら。お兄さん達の事情はそれこそ知らないよ、さっき出くわしたばかりなんだから」
「それでいい……そっちの三人も、後で話は聞く」
「は、はひぃっ!!」
 
 三人組とは打って変わって大変落ち着き払った様子の双子。まずはこちらから話を聞いて、それから冒険者達の話を聞いたほうがいいだろう。
 一つ頷いて促すと、ヒカリと呼ばれた子供が話し始めた。ヤミと呼ばれているほうもだけど幼いからか、中性的で男の子か女の子かも判然としないなあ。来ている服も、なんだかこの辺じゃあまり見ない小綺麗なローブだし。
 
「まず、自己紹介からさせてほしい……僕はヤミ。こっちはヒカリ。二卵性双生児のいわゆる双子で、珍しいことに二卵性なのに瓜二つなのが自慢でもありコンプレックスでもあるよ。序列を言うなら僕は弟、彼女は姉となるね」
「私が妹でヤミがお兄ちゃんなほうが合ってると思うんだけどね。頼り甲斐とか、頭のよさとかさ」
「小賢しいだけの子供だよ、僕も。実際、さっきまでの状況には普通に途方に暮れてたしね。あ、ちなみに10歳だよ、よろしくね杭打ちさん」
 
 ハハハと笑うヤミくんにヒカリちゃんが唇を尖らせる。実に仲のいい双子って感じだ。ニランセーソーセージ? なんかよくわかんないけど難しそうなこと知ってる子だねー。
 そして僕の見立てどおり、10歳だったことにまたしても疑問が沸き起こる。そんな子供がこんなところで何をしていたんだ? 本当に。
 
 僕だけでなく三人組の冒険者達も唖然と、というか戸惑ったように双子を見ている。
 そうした視線を受け、ヒカリちゃんはヤミくんの後ろ背に隠れ、ヤミくんはそんなヒカリちゃんに苦笑しつつも肩をすくめた。
 なるほど、これは兄妹だ。納得する僕に、彼はさらに言った。
 
「さて、そんな僕ら双子なんだけれどね……元はこの迷宮内でコールドスリープ、ええと長い眠りについていたんだ。どれくらいかは分からないけど、本当に長い期間をね。ね、ヒカリ」
「う、うん……眠りにつく前のことも、もうほとんど何も思い出せないくらい長かったみたい」
「…………それは、まさか」
 
 記憶喪失……?
 今度こそ呆然と、双子を見やる。飄々としつつもどこか、不安げに二人の瞳が揺れていた。