迷宮攻略法を巡る考え方のギャップに二人、しばらくギャーギャー騒いで。
 とりあえず森を出て町に行こうよーってことになって、僕とレリエさんは森を抜けて草原へ出た。

 朝一に迷宮に潜ったからまだ昼前時だ。町に着く頃にはちょうどランチタイムかな。
 杭打ちの格好でなければレリエさんとちょっと寄り道してデート気分でお昼ごはん! なーんてできたんだけどねー。ま、仕方ないか。
 
「…………」
「……レリエさん?」
 
 はるか吹き抜ける風に揺れる大草原。あちこちに迷宮へつながる穴が空いていることを除けば、至って普通の風景をボーッと眺めるレリエさんの様子が妙で、僕は声をかけた。
 すると──途端に彼女は滂沱の涙を流し始めて、その場に崩れ落ちた! 

 えっなんで!? 僕が話しかけるの嫌だった!?
 
「れ、れれ、レレレリエさん!? どうしたのー!?」
「っ……どうして、こうなれなかったの、私達はっ……」
「えぇ……?」
 
 慌てて声をかけるも、何も聞こえてない様子でひたすらなんかつぶやいてるよー、こわいよー。
 私達って物言い的に昔の、超古代文明の頃を思い返して何やら感極まってるんだと思うけど、傍から見たら急に泣き出した人とそれをじーっと見守る冒険者"杭打ち"の姿でしかないよー。

 ううー、これ誰か見てたら、僕が泣かせたみたいに思われないよねー?
 女泣かせーだなんてそんなオーランドくんじゃあるまいし、冗談じゃないよー。頼むから世間体を気にして時と場所を選んで泣いてほしいよー。
 完全に困り果てて固まる僕。レリエさんはなおも泣きながら、ひたすらに何かの想いを、遠いところの誰かさんだかに投げかけている。
 
「人は……人類は、こうなれたのよっ! 縋らなくたって、遠すぎるほどの時間をかけてでもこうなれたっ! なのに……ただただ逃げることばかりを考えて、そのためにっ、取り返しのつかないことをっ……!!」
「………………………………」
「挙げ句に遺された者達ばかりがこんな、間違えた私達がこんなっ、間違えなかった人達の正解を見せつけられてっ!! うっ、くっう……!! あんまりよ、あんまりよ、こんなの……!!」
「…………う、うー。あー、うー」
 
 あまりに悲痛な声で悲嘆に暮れるから、聞いてて僕まで哀しくなってきたよー。
 数万年前に何があったんだか知らないけど、そんな嘆かないでー。言っちゃなんだけど済んだ話だよー?

 彼女の傍にしゃがんで背中を擦る。こういう時、どうしたらいいのか分からないから困るねー。
 なんかよく分かんないけど元気出してー。レリエさんは笑顔が一番素敵だよー。
 
「…………ごめん、なさい、いきなりこんな、泣き出してしまって」
「……別にいいけど。大丈夫ー?」
「ええ……いえ。正直、まだ全然泣き足りないけどそれは後で一人になってからするわ。今を生きるあなたにはまるで関係のない、もうはるかな昔に終わった話だもの」
「そっかー……」
 
 どうにか元気を取り戻したみたいだけど、それでも後で泣くみたいだ。ここでカッコよく"僕の胸でお泣き"なーんて言えたら良かったんだけど、残念ながらそこまでの度胸が僕にはないよー。
 遠い過去からやって来て、全然気持ちの整理とかついてないんだろうな。その辺は僕には何も言えないし慰めようもない。ただ、泣くだけ泣いたら自暴自棄にならず前を向いてくれることを祈るばかりだ。
 
 とにかく町へ行こう。僕は彼女を先導する形で歩き始めた。ここからだとそう遠くないしすぐにたどり着ける。
 なるべく彼女を明るい気持ちにさせようと軽く雑談でもしながら、僕らは歩く。
 
「……えっと。ギルドについたら僕もお世話になってる、受付のリリーさんって人におまかせするよ。優しい人だし、レリエさんにも親身になって接してくれると思う」
「それなら安心ね……本音を言えばソウマくん、あなたにも今後のことを助けてほしいんだけど」
「……即答するのは難しいねー。いやまあ、保護者になるのはもちろん良いんだけど」
 
 ギルドについてからはひとまずリリーさん預かりだ。こないだもあんな茶番があったわけだし、ギルドもレリエさん保護に向けて動き出すだろうねー。
 僕は僕で、レリエさんに求められるのは本当に嬉しいし断るつもりもない。とはいえそこから先はさすがに、入りたてのパーティー・新世界旅団のみんなの意向も聞いておきたい。
 だから一旦みんなに彼女を紹介して、どうするかを話し合うって流れになるかなー。
 
「……というわけで、どんな形に収まるかは仲間達次第ってことでー」
「よかったわ、私が嫌ってわけじゃないのね……だったら待ってるわ。私の、この時代での初めての友達。ソウマくん、ありがとう」
「えへ、えへへ……!」
 
 初めての友達! 僕がだってー!
 なんとも嬉しいことを言ってくれて、やっぱりこれは15回目の初恋だよーと確信して僕は、照れ笑いなんか浮かべちゃうのだった。