まさかの僕への擁護。それもオーランドくんのパーティーメンバーの女性達、すなわちハーレムメンバーの中からときた。
 えっ、何? もしかして僕きっかけに修羅場りそうなの? これ僕にとばっちりくるやつじゃない? 大丈夫?
 
「し、シアン会長……それに、マーテル?」
「……何を言う、生徒会長。急にどうした」
「…………」
 
 我らが第一総合学園生徒会長シアン・フォン・エーデルライト様。僕の初めての初恋であり、秒で失恋を経験させてもくれたスピードスターその人と。
 金髪をやたら長く伸ばし、どこかヤミくんヒカリちゃんの着ているのと似た意匠の服を着ているマーテルというらしい美女さんと。
 どちらも絶世と言うにふさわしい壮絶な美人さんが、なんとオーランドくんとリンダ先輩に真っ向から否やを唱えたのである。
 
 戸惑うオーランドくんと呆気に取られた様子で尋ねるリンダ先輩。二人からしてもこれは意外だったんだね。
 取り巻きの生徒会副会長と会計と、あとついでに僕も内心でオロオロする中。シアン会長とマーテルさんとやらはそんな二人に毅然とした態度で反論した。
 
「前々から思っていましたが、あなた達の杭打ちさんへの態度は目に余るものがあります……サクラ・ジンダイ先生にあれだけ叱られてなお、それを改めないことへの嫌悪と軽蔑も。あなた達はあれから何も学ばなかったのですか」
「なんだと……? おい、一体どうしたと言うんだ。まさかあの偉そうなヒノモト人の物言いに、本気で感銘を受けたとでも言うのか」
「先生に何か言われるまでもなく、不満に思っていましたよ。冒険者とも思えない姿を晒しているのは、あなたのほうですリンダ・ガル。頭を冷やしなさい」
「貴様、ふざけたことを……!!」
 
 ひえー、女の戦いだよー! なんか目線がバチバチぶつかってるよー。
 サクラ先生にすいぶん説教されたはずなのに、全然堪えてない感じのリンダ先輩はすごく悲しい。でもシアン会長が真面目に僕のこと庇ってくれて、それ以上に嬉しい! わーい!
 
 喜びつつ悲しみつつ怖がりつつ忙しいよー。情緒不安定になりかける複雑な心境で今度はオーランドくんのほうを見る。
 生徒会長と剣術部部長の、視線でやり合う苛烈なバトルと異なりマーテルさんとやらは、ただひたすらに哀しみを宿した目で彼を見、訴えかけていた。
 
「ずっと前から、さっきのような酷いことを言い続けていたんですか? ……どうして」
「マ、マーテル。たしかにその、俺はこないだ杭打ちに嫌味言って先生に愛想尽かされちまったよ。だけど今回はそんなに──」
「ですが、リンダの物言いを咎めたりはしてませんよね……? いつも自分はAランクだ、誇り高い冒険者なんだと言ってますけど、そんな人が今の言い分を何一つ否定しないものなのですか……? その、当世の倫理というものは分かりかねますが、おかしいと思います、オーランドさん」
「な、あ。う……それ、は」
「………………………………」
 
 ありゃ、さしものオーランドくんも絶句しちゃってる。マーテルさんの正論? というか理屈に彼自身、思うところがあるのか普通に論破されちゃってるみたいだ。
 でもたしかに、こないだに比べてずいぶん敵意は薄くなってるとは思うよね。サクラさんも彼は反省したって言ってたし、こっぴどく叱られたらしいのが相当堪えたみたいだ。
 僕としては揉め事がとにかく嫌なので助かるよー。
 
 ただまあ、彼はともかく問題は……
 
「野良犬を庇うなど博愛精神も大概にしておけよ、偽善者ども……!」
「ま、マーテル、俺は、その」
「…………」
 
 あーあ、一触即発。ショックを受けて項垂れるオーランドくんはともかくリンダ先輩、キレて剣を抜いちゃった。
 それは駄目だよー。僕はすぐさま彼女の近くに移動して、手にした剣の刃の部分を掴み、思い切り握りしめた。
 
「!? い、いつの間に、は、離せっ!!」
「…………!」
 
 いくら喧嘩しててもね、友達だかハーレム要員だかの間で刃傷沙汰は駄目だよー!
 軽々しくラインを超えかけたリンダ先輩の剣を完全に拘束する。刃を握り締めているため、常人なら血が出るしこの状態で刃を引きでもしたら指とおさらばしなくちゃいけないかもだ。
 でも僕は常人じゃないからねー。これこのとおり、逆にリンダ先輩が一つも動けないくらいガッツリ掴んでるよー。
 
 持っててよかった迷宮攻略法。改めて入ってよかった調査戦隊。いやまあ、一般には影も形もない存在だけどね、ぼくは。
 とにかくリンダ先輩の凶行は未然に防いだ。これ以上何かする気なら、悪いけどこの剣へし折ってから意識を刈り取るよ。
 
「……………………!」
「っ!? あ、ぁぅ……っ!?」
 
 今ここにいる僕は学生ソウマ・グンダリでなく冒険者"杭打ち"だからねー。やらかしてる冒険者が目の前にいるなら、多少の実力行使も辞さないよー?
 少しの威圧を込めてリンダ先輩を睨みつけると、それだけで彼女は意気を削がれたらしかった。息を呑み、へなへなとその場に崩れ落ちる。
 あれ、もしかして耐性ないのか。ってことは地下20階層には到達してないんだな、この人達。
 
 威圧を与えるほうはともかく、威圧を受けてなお平常でいるための迷宮攻略法は割と早期で身につける必要に迫られる技術だ。
 地下20階層を過ぎたあたりから、意識的に威圧してくるモンスターが増えるからね。そいつらに気圧されないために、そこまで到達した冒険者は迷宮攻略法・威圧耐性の獲得のために今一度の訓練を強いられるんだ。
 
 その耐性がなさそうってことはずばり、オーランドくん達は実はまだ、地下20階層まで到達してないってことになる。
 さっき僕を揶揄ってたけどAランクのくせにこんな浅層をうろついてるとか、君こそどーなってるんだと思ったけど納得だ。下手するとこの辺が実力相応なのかもしれないわけだねー。
 
 うーん名ありて実なし。とは言いつつ彼の場合、評判もあまりよろしくはないんだけどさ。
 ちょっといくらなんでもお粗末すぎないだろうか? グレイタス夫妻、さすがにこれは真面目にお話しなきゃいけないかもねー。