町を出て、結構進んだ先にある森──の、中にある泉。
 ここには現状唯一、最深部近くの地下86階層にまでショートカットできる出入口がある。事実上、地下世界に今一番近い出入口でもあるね。
 僕ら新世界旅団にレイア、ウェルドナーさん、カインさんはやって来ていた。
 
 今日はさっきも述べたけど、レイア達のパーティと一緒に深層らへんをかるーく調査する予定だよー。
 例によってシアンさんやレリエさん、モニカ教授にとってはかなりの危険地帯だけど、このメンバーならフォローすることは十分に可能だ。
 レジェンダリーセブンが3人に僕とサクラさんだしねー。出てくるモンスターなんて軒並み瞬殺しちゃうよー。
 
「このメンバーなら問題なく調査できるね、いろいろ……特にレリエさんだけは何があっても無傷で帰還できるだろうし」
「えっ……わ、私? なんで?」
 
 出入口に入る前、軽く準備運動を終えてからつぶやくレイアにレリエさんが反応した。ギョッとした顔をして、次いで首を傾げている。僕ら他のメンバーも同様だ。
 レリエさんだけが無傷で帰還できる? なんで? 本当になりたての冒険者だから、何があっても彼女だけは生かして帰すとかそういう意思表明的なあれ?
 かと思いきやモニカ教授が頷いた。レイアと顔を見合わせて満足気に笑ってる。え、何? なんなの怖いよー?
 
「間違いないね。この一週間ほどレイアさんと情報交換や思索、議論を交わしていたけれど、レリエだけは絶対に無傷で迷宮を行き来できるはずだ。厳密に言うと彼女だけでなくヤミくんヒカリちゃんの双子とか、マーテルさんもだけどね」
「古代文明人の生き残り? ……いやでもそれじゃ、ソウマ殿が含まれておらぬでござるが」
「僕もたぶん、迷宮内を無傷で行き来できるんですけどー……」
「意味合いが違うでしょ、ソウくんの場合は」

 僕だけ仲間外れ!? やだよーさみしーよー! としょんぼりしながらアピールすると、呆れ顔のレイアにツッコまれる。
 なんでだよー、僕だって迷宮内を我が物顔で闊歩するくらいできるよー? 出てくるモンスターなんて全員ぶち抜くしー、暑くなったり寒くなったりめちゃくちゃな迷宮内環境だってぜーんぶ、迷宮攻略法で無視できちゃうしー。

 って言ってもどうもニュアンスが違うみたい。いやそりゃそうだけども。
 レイアはニッコリ笑って、まるで自慢するみたいに自分の発見した成果を、ひけらかすように僕らに告げた。

「君は出てくるモンスターや変わる環境の変化にも難なく適応できるから無傷だけど、他の古代文明人達はそもそも迷宮の影響を受けないっぽいから無傷で行き来できるんだ」
「……んん? 迷宮の影響を、無視? どーゆーことー?」
「つまりね。古代文明人のみなさんだけはモンスターに襲われないし、迷宮のわけ分かんない環境とかも一切関係なく平常通りだし、だから本当に散歩感覚で地下1階から86階まで行けちゃうっぽいんだよ」
「………………………………ええええええええ!?」
 
 嘘でしょ何それ、マジでとんでもなくズルいよー!?
 明かされたまさかの話に、僕ら全員目をひん剥いて驚く。なんなら当のレリエさんなんて、息まで止まってしまってるほど衝撃を受けている。

 いや、いやいや……いくらなんでもそれはないでしょー。モンスターは誰彼構わず襲うものだし、ましてや環境なんて本当にのべつ幕なしだ。
 古代文明人だけそのへん免除! ご自由にお通りください! なんて意味不明だし、何よりそんなんなら僕の存在がどうなんだって話だし。
 一応僕だって古代文明人だよー? 疑わしい目つきでレイアとモニカ教授を見ると、教授は肩をすくめてさらに続けて説明してきた。
 
「厳密には古代文明人ではなく"無限エネルギーを持たない者"を迷宮は受け入れるらしい。だから無限エネルギーの塊とも言えるソウマくんや、君が文字通り万年垂れ流すことでソレが定着しきったこの世界の産物たる我々冒険者には容赦なく干渉してくる」
「反面、あくまで無限エネルギーを外付けの燃料……私達で言えば油とか木炭とかだね。それと同じ位置づけの道具としてしか使ってこなかった古代文明人達は、体内に無限エネルギーなんて宿してはいないから迷宮も干渉してこないって仮説が成り立ったんだ」
「……つまり迷宮は、無限エネルギーを敵視してるってこと?」
「たぶんね。それがなんでかってところは、これから先の調査次第だけど」
 
 古代文明人かどうか、ではなく"無限エネルギーを持つか否か"で迷宮内の事象の対応が変わってくる……そう教授とレイアは推測してるみたいだ。
 謎が一つ解けたところでまた一つ、謎な生まれたってわけかー。思えばモンスターの存在も割合不可思議だし、まだまだ迷宮そのものを調査する必要はあるってことなんだねー。