始業式もサクッと終わって僕とケルヴィンくん、セルシスくんはさっそく、文芸部室に行って寛ぐことにした。
 夏休み中もかなりの頻度で利用していたこの部屋は、もはや僕にとっては教室よりも気安くて、家やギルドの次くらいに馴染んでいるはずの場所だよー。知り合いも大体ここに屯するからねー。
 
「それじゃあシアンさん、生徒会長の引き継ぎ業務もほとんど終わったんだー」
「ええ。その際にイスマ・アルテリア・ピノ副会長とシフォン・オールスミス会計には改めて説教……もといお話しましたから、今後ソウマくんに絡んでくることもないかとは思いますよ。ずいぶん意気消沈していましたから」
 
 今やすっかり大所帯、いくつもの机を並べて座る僕らに混じって紅茶を飲むのは我らが団長シアンさん。
 サクラさん、モニカ教授とつまりは学校関係者の新世界旅団メンバーと揃っての優雅な歓談だ。
 
 この学園の生徒会長でもあったシアンさんは秋頃、つまりはもう近々生徒会を辞して後継者に生徒会を託すわけなんだけど……その引き継ぎってやつをさっさと終わらせて、今はもうほとんどフリーって状態らしかった。
 副会長イスマさんと会計のシフォンさん、揃ってオーランドくんのハーレムメンバーだった可愛い子ちゃんだよぐぬぬーの2人にも大分キツく言ったみたいで、どこかスッキリした表情で笑っているのが可愛いよー。
 その隣でサクラさんがクッキーを食んでけらけら笑った。
 
「リンダ・ガルのアホタレも含め、まとめてオーランドに振られとったでござるしなあ。あのガキも、やっとこマトモなことをしたでござるな」
「マーテル……もう一人の古代文明人。彼女にすっかり手綱を握られていたみたいだね、彼も。わずか数ヶ月の間に散々浮名を流したプレイボーイも、あっという間に年貢の納め時とは」
「御両親と一緒に帰ってきたみたいだしねー。噂じゃずいぶん叱られたって話だし、これから性根をたたきなおされるんじゃないかなあ」
 
 オーランドくんの顛末……というか、これまでとこれからをかるーく話す。夏休み終わり間際になって親同伴で帰ってきたらしい彼は、始業式も始まる前からさっそくみんなの注目を集めた。
 というのも自分のハーレムメンバー一人一人に会いに行って、別れを告げだしたんだよねー。なんでそんなことを!? って思っちゃってつい、うちのクラスの委員長ちゃんが別れ話を切り出されるところで迷宮攻略法・身体強化を使って聞き耳しちゃったんだけどさ……
 
 どうも彼、一緒に国を飛び出した古代文明人マーテルさんに本気の本当に惚れ込んだみたいなんだよね。そしてマーテルさんも──これは旅に出る前からだけど──オーランドくんを一途に想ってるみたいで。
 だからこれまでの自分にケジメをつける意味でも、いたずらに引っ掛けていた女の子達をきっぱりと振ることにしたみたいなんだよー。

 
『本当に愛する人を見つけて、今までの自分を振り返って──マジに、ありえねーくらい最悪だったことに気づいちまった。気づいたからにはもう見逃せない。親父やお袋にも殴り飛ばされたしな。それに、マーテルにも叱られた。へへ、こんな俺にもまだ叱ってくれる人がいてくれるんだ。ありがてえよな』
 
 
 ──なんて、自分だけ何やらスッキリした感じに笑うものだから委員長にはビンタされて思い切り泣かれてたけど。
 そりゃそうだ、改心したから別れてくださいなんて普通キレられるよそれは。ハーレム崩壊ってこわいんだよー、クワバラクワバラ。
 僕には縁のない話だけれど、ああはなるまいと立てた聞き耳もそのままに背筋を凍らせたよー。
 
「杭打ち殿にもこれまでの謝罪と感謝を伝えたいとかって、拙者を通じてコンタクトを試みようとしてるでござるけどー……そもそも同じクラスでござろ? 直に言えばいいでござろうに、合わす顔がないんでござろうなあ」
「謝罪とか、僕は別に構わないんだけどねー……まあ、それであっちが前を向けるなら良いかなーって。3年かけてようやく謝ることができた僕にはそのへん、何も言う資格はないからさー」
「そんなことはないと思いますけど……相手を赦そうとする心は立派です、ソウマくん」
「えへへー」
 
 シアンさんに褒められてにやける。えへへ。
 まあ、そういうことなんだよね。オーランドくんが今まで僕こと冒険者"杭打ち"にしてきた振る舞いを謝罪したいって言うならそれは好きにしてくれたらいいと思う。僕はそれを受け入れて、彼のこれから先の未来が明るいものであることを願うだけだし。

 謝れる時に謝れる強さは3年前の僕にはなかったものだからね、それだけでもすごいと思うよ。御両親に鍛え直されたのもあるかもねー。
 僕と同じで彼もまた、新しい人生を歩んでいくってことなんだろう。そういう意味では僕らは同類って言えるのかもしれなかった。