「ぐう────ッ!?」

 袈裟懸けに受けた大斬撃。レイアの想いが嫌ってほどに詰め込まれた、怒りと哀しみ、そして嘆きの一撃をもろに受けて僕は吹き飛ばされた。
 杭打ちくんをも手放すほどの衝撃、大幅に後退する僕。どうにか倒れることだけは避けて片膝を付けば、直下に生い茂る草原が赤く濡れた。
 そして痛み。出血している。

 致命傷ではもちろんない……こんな程度で簡単に死にはしない。死にはしないけど、当然ながら傷は負う。
 傷を負えばもちろん、血だって出るわけで。そうなるとまあ、痛むくらいはする、よね。

「ソウマくんっ!!」
「ソウマ殿っ!?」
 
 血飛沫を撒きながら草原に膝をつく僕に、シアンさんとサクラさんの悲鳴が聞こえた。
 傍から見ればそれなりのダメージだ、叫ぶのも分かるよー……でも大丈夫と、僕は彼女らに向けて手を翳した。制止したんだ。
 まだ勝負はついてない。駆け寄ってこられたら、巻き添えになるかもだからさ。
 
「ッ……」
「答えて。私達調査戦隊は、あなたにとってなんだったの?」

 ゆっくりと立ち上がれば、レイアは僕がいた位置に立ったままロングソードの切っ先を向け、静かに問いかける。
 僕にとって調査戦隊とはなんだったのか──涙に濡れた痛ましい顔で、そんなことを。

 そんなに仲間を信じられなかったのか。なんて、思いもよらない言葉だった。
 むしろ逆だった。信じていた。だから僕一人くらい抜けたってなんの問題もないってそう思って、僕はあの脅迫を呑んだんだ。

 でも……もしかして、僕は。レイアの言葉にふと、惑う。
 何か、取り返しのつかない思い違いを、していたんじゃないのか?

「レイア、僕は……信じていたよ。僕が抜けてもみんな、調査戦隊は大丈夫だって。相談、しなかったのは、それは」
「それは、何?」
「…………みんなの迷惑に、なるから。っ、え?」
 
 震える声で、つぶやく。自分で自分の言葉が、おかしいことに今さら気づく。
 みんなの迷惑になると思って僕は誰にも何も言わなかった。それでもみんな、上手くやってくれると信じていた。
 
 でも、それはおかしかったんじゃないの?
 みんな上手くやってくれるって本当に信じていたんなら、僕はどうしてみんなの迷惑になる、なんて思った?
 みんなのことを信じていたなら、それこそ──
 
 血の気が引く。あまりにも遅い、遅すぎる気づきだった。
 僕はみんなに何をした? 秤にかけたとか裏切ったとか、それ以前の問題なんじゃないのか?
 僕は────
 
「────誰のことも信じてなかったから、何も、言おうとしなかっ、た?」
「私は、私達はそう受け取ったよ。ソウくんは実のところ、私達のことなんて仲間とも思ってなかった。彼の信頼は、本当の意味では存在してなかったって」
「ち……ちがう、ぼくは……」

 声が震える。足元が覚束ない。視界が、ぐねぐねする。
 僕はみんなを、調査戦隊の仲間を仲間だと思ってなかった? だから一切頼らず、何も話さずすべてを勝手に終わらせた?

 そんな、だったら、それは──それって、秤にかけたとか以前の問題じゃないか。
 もっと前。調査戦隊に入る前。レイアに出会って勧誘された、その時点から僕は。

 僕は調査戦隊を、裏切っていたってことなんじゃないか。

「…………分かってる。分かってるよ、ソウくん」

 そこで不意に、レイアが微笑んだ。悲しげな笑み。
 やるせないとばかりに首を左右に振って、そして告げる。
 
「ソウくんはね。仲間も、信頼も、本当の意味では理解してなかったんだ。今なら分かるよ」
「…………レイ、ア」
「ずっと一人で生きてきた君に、いきなり他者を信じろ、仲間と思え、絆だと知れ、なんて……あまりにも無茶苦茶な話だった。君の来歴を知れば知るほど、私達の求めたものの傲慢さ、残酷さを知ったよ」
 
 だから、そこはごめんなさい、と。
 頭を下げるレイアに、僕はもう、何も言えない。
 
 汗が流れる。息が荒い。僕自身、気づいていなかった僕の過ちに気づいて、目眩がする。
 本当の意味では誰も信じていなかったから、僕は、どうせ誰に相談しても意味ないって思っていたから、僕は。
 すべてを勝手に決めて、すべてを勝手に終わらせた。そうするべきだと思い込んで、そうして良いんだと勝手に信じて。
 
 目が覚めた気分だ、最低の心地だよ。レイアの斬撃を受けてなお、すでに回復している傷の跡に触れる。
 かすかな痛み──どうにか正気を保つようにそこをぐっと握って僕は、浅い吐息を繰り返した。