レイアとの決闘。急に決まったそれは一旦、この地下世界、いや迷宮からも脱出した先……いつもの見慣れた草原に行うこととなった。
 紛れもなく大規模な戦闘になるだろうし、発生する被害などを考えると地下でやるのは本当にまずいからだ。
 誰も、地下世界に隔離されたり大迷宮内で生き埋めになったりはしたくないからねー。

 そんなこんなで地下世界から、えっちらおっちらと這い上がって僕らの一団は今、野外にいる。
 気になる調査もろもろは一度切り上げてエレベーターで地下88階層へ戻り、そこから地下86階へ。そしてショートカットの出入り口をえっさおいさと登ってようやく、一人残らずの脱出を果たしたのが今ってわけだねー。

 外はすでに夕焼け色、オレンジが空と大地とを染めて雄大だ。
 思い切り未知なる冒険をしてきた僕達は、そんな美しい風景をこれ以上ないってほどの満足感と達成感で眺めていた。

「お、おお……懐かしいぜ、陽の光」
「って言ってももう夕方だけどね。でも、一日土竜してたからはんだかホッとするわ」
 
 レオンくんやノノさんがしみじみつぶやく。新米冒険者の彼らにとっては、護られての随行とはいえそれだけでも神経を使い果たしたことだろう。ヤミくんヒカリちゃんの保護者としての参加、お疲れさまでした。
 他の面子、新世界旅団のメンバーや戦慄の群狼、冒険者ギルド代表のベルアニーさんやシミラ卿も健在だけど結構くたびれてるみたい。
 
 ヤミくんやヒカリちゃんに至ってはもうおねむみたいで、レリエさんやシアンさんにおんぶされて運ばれてるよー。
 羨ましい! 代わって欲しいかもー! ……なんて、冗談ふかしてる場合でもないんだよねー。

 草原にて、みんなと距離を取った場所に二人、立つ。
 一人は言わずもがな僕、ソウマ・グンダリ。そしてもう一人は"絆の英雄"レイア・アールバド。
 これから決闘するだろう僕達だけがみんなの元を離れ、互いさえもそれなりに距離を置き、面と向かい合っていた。
 
「……さて、ソウくん。準備はいいかな」

 愛用のロングソードを抜き放ちながらレイアが話しかけてくる。戦意は十分、用意は万端って感じだ。怖いねー。
 こっちなんて準備どころかモチベーションだってろくにないのに。まったくなんでこんなことになったんだよ、意味不明だよー。
 ぼやくようにレイアに返事する。

「よくはないよ、いつだって……ねえ、本当にやるの? 僕を一方的に締めてさ、それで手落ちってしない?」
「しません。そんなの単なる八つ当たりだし、私がしたいのはそんなことじゃないからねー」
「八つ当たりって……正当な権利だよ、それは。君は、君達は僕に復讐する権利がある」
 
 レイアだけでない、調査戦隊にいた人達を見て僕は言う。なんでかみんな、僕に対して敵意を持ってはいないけど……彼女だけでなくみんな、本当は僕なんて八つ裂きにしてもし足りないはずだ。
 そしてそれは、決して理不尽な八つ当たりなんかじゃない。自分の都合を優先した結果、調査戦隊を破滅に追いやった我儘な子供に対しての正当な復讐だ。
 他ならぬその我儘な子供本人がそう認識しているんだから、そこは間違いない。
 
 だって言うのにレイアは悲しげに笑う。ウェルドナーさんも、カインさんもリューゼでさえも、それぞれ俯いたり瞳を閉じたり顔を顰めたりはするけど、殺意や憎悪を向けては来ない。
 なんで? 惑う僕に、レイアは首を横に振って告げる。
 
「ないよ、そんなの……やっぱりソウくん、君は今すごーく歪んでる。自分のしたことを重く捉えすぎて、それに押し潰されちゃってるよ」
「押し潰される資格なんて僕にはないよ。だから調査戦隊を終わらせてしまったあとでも僕はずっと、挑み続けた」
 
 ──みんなの冒険を終わらせてしまった僕に、立ち止まる資格はない。

 だからせめて迷宮へ挑むことだけは続けたんだ。贖罪ですらない自己満足だけど、それでもいつか、他の冒険者達に何か残せるものを見つけられるように。
 せめて大迷宮内のモンスターを掃除くらいすれば、そのうち誰かの役に立てるかもしれないと思ったのもあるし。
 
 新世界旅団に入ったのも、そのへんの想いが関係しているところはあるかもしれない。調査戦隊の後釜になろうってパーティの、冒険者としての後輩、シアンさん。
 彼女を見てふとこう思ったのは事実だ──ああせめて、この人のために何かしてあげられたら。少しはあの日の償いになるだろうか。
 そんなことを、ね。
 
「だけど結局、それだって僕の独り善がりだ。いつだって僕は勝手者だ。あの頃も今も、何も変わらない。心底嫌になるよ、こんな自分が」
「そんな自己否定ももう終わりだよ、ソウくん。君と想いを交わして、私達は互いを理解し合って、互いを許し合うんだ──ねえ、だからさあっ! そろそろ私の話を聞いてよっ!!」
 
 俯く僕に、訴えるように叫びながらレイアは駆けた。夕焼けに映える、美しい英雄の姿。
 僕もまた、咄嗟に杭打ちくんを構える。ああ、当たり前のように反応してしまうこんな僕が嫌いだよ。素直に斬られてしまえば良いのに。