「ソウマ殿!」
「ソウマくん!!」
「シアン団長! サクラさん!!」

 ジリ貧だった僕に現れてくれた救いの手、援軍。
 巨大ザンバーで化物を斬りつけたリューゼに続いて、崩れ落ちた王城の壁から続々とやってくる戦慄の群狼メンバーらしい冒険者達の中、りシアンさんとサクラさんが駆け寄ってくるのを僕は安堵と会心の思いで迎え入れた。

 間に合った──その思いで胸がいっぱいになる。
 素手の現状では勝ち目がない以上、長々とやつを食い止めていてもどこかで必ず僕は突破されていた。負けたり殺されたりはしないにしても、王都にやつを野放しにしてしまっていた可能性だってあるんだ。

 国王はアレを制御できている風に言ってたけれど、正直僕にはまずそこからして疑わしい。
 多少は手懐けられているとは思うけど、こいつの本性はハッキリ言って殺戮者だ。誰かに従うなんて考えにくいように思えるんだよー。

 僕を殺れなければ代わりとばかりに他に矛先が向かうのは考えられたし、そうなると一応は飼い主だろう王城より人もたくさんいる王都に向かうかも。
 そうした確信にも似た予感は、さっきからひたすらこの化物を相手取っていてなんとなく伺いしれたことだ。なんの感情もなくただ、目の前の命を殺し尽くそうという殺意だけをひしひしと感じるからね。

 こんな、殺すことしかできないものを生み出すなんてどういうつもりなんだかね、エウリデは……
 深まるばかりの謎は一旦、頭の隅っこにおいて僕は団長とサクラさんへと声をかけた。ここからが本番だ、気は抜けないよー。

「ありがとう……やっぱり地下にまで来てたんだね、戦慄の群狼」
「ええ! 地下牢直前で出くわして、状況を説明して手を組んでいます!」
「さすがにソウマ殿が一人で死地を受け持っている場面、揉めてる場合にはござらんからな!」

 案の定、先行してシミラ卿を確保しようとしていたんだねリューゼリア。その強かさは認めるべきだし、実際結果的には最善に近い動きだったからひとまず良しとするよ。
 それに、新世界旅団ともすんなり組んだのもありがたい。変に揉めてたらそれこそ、取り返しのつかないことになってたかもだし。

 あるいはリューゼ流の直感力で、ここは我を張る場面でないと察したのかも知れない。
 いずれにせよ本当に助かった。一旦、化物をリューゼに任せて僕は後退し、仕切り直しを図りつつも二人と短く話した。
 
「それは、助かるよー……っそうだ。シミラ卿は?」
「そちらも無事です。ただ、やはり多少は衰弱してますが……」
「一応立って歩けるだけ、さすがの元調査戦隊メンバーってところでござるな。おーい、シミラ卿ー!! こっちこっち、でござるー!」

 王城に来たそもそもの目的、シミラ卿の無事はどうなっているのか。そこを真っ先に確認したところ、サクラさんが大手を振って戦慄の群狼メンバー達に囲まれたその人を呼んだ。
 フラフラと、力のない足取りでしかし、一人でどうにか歩いてくる女性。最後に見た時よりだいぶ痩せ細っているのが痛々しくて、エウリデがこれまで彼女にどういう仕打ちをしてきたかが一目瞭然で分かってしまう有り様だ。

 シミラ・サクレード・ワルンフォルース。
 無事に地下牢から連れ出せた彼女は、飢餓状態を少しずつ回復するためか携帯用のスープをちびちびと飲みながら僕に力なくもたしかな笑顔を見せてくれた。

「…………無事か、ソウマ。手間をかけてすまない、な」
「シミラ卿……大丈夫?」
「本調子とは言えんがそれなりにな。さすがに半月以上も水だけで地下牢にいたのは、堪えるが……!」
『ウォアアアアアア!!』

 まったく調子が出てない感じなのが見ているだけでも分かる。そんなシミラ卿はけれど次の瞬間、近くにいた戦慄の群狼メンバーらしい男の人の剣を奪うように取り上げた。
 呆気にとられる周囲──瞬間、リューゼが撃ち漏らした化物の触手が何本か襲いかかってきた!

 チィッ、と舌打ちするリューゼ。咄嗟に構えるサクラさんや冒険者達。
 けれどそれにも増して早く、速く。シミラ卿の腕が閃光を迸らせた。必殺技にまで昇華された、針に糸を通すよりもなお緻密で正確な突きが唸りを上げたのだ。

 一撃で3点、別々の箇所を突いた……かのように見えるほどの速度の刺突が触手を貫き、突き刺し弾く。
 以前、僕相手に披露した時は狙いが正確すぎて避けやすかった技だけど、モンスター相手となるとこんなに安定していて信頼できる剣もない。必ず当たるし早いし、急所も自由自在に貫けるなんて額面以上の強さがあるからね。
 
『ウォッ!?』
「この通り、お前の敵を少しばかり受け持つくらいならばできる」
「さっすが騎士団長、やるねー」
 
 微笑む騎士団長を讃える。
 元調査戦隊にして国一つを守り続けてきた騎士の中の騎士である彼女の、実直かつ堅実な積み重ねが生んだ剣技の冴え……単なる才能や素質だけでは到達できない力が、そこにはあった。