『ウオアアアアアアアアアアアアアアッ!』
「うるっさいよー!!」

 衛兵達を殺そうと襲い来る、神だかなんだか化物をカウンターで殴りつける!
 毛むくじゃらの彗星みたいな体のどこが顔で胴体なのかも分かんないけど、とにかく一番近くて殴りやすいところを殴るよー!

 目一杯の力を込めた拳は、手前ごとながら相当な威力があると思うんだけど全然手応えがない。
 身体強化はすでに全力だ、となるとここから素手の威力を上げるとなると、単純な筋力ではなく技術、打法を考える必要がある。
 殴ると同時に前へステップし、僕は化物の顔? の真下に潜り込んだ。
 
「素手でも、このくらいは!!」
『ヴォアッ!?』
「っしゃあーっ!!」

 身を縮めてコンパクトに、全身の関節を回転。
 勢いをつけてつつ真上へと思い切り、右アッパーを突き刺すように伸ばす! 威力と衝撃を突き抜けさせず、相手の体内で反響増幅させる打法を用いての大打撃。
 僕が素手で放てる中では一番に近い威力の業だ。

 さしもの化物も少しくらい効いてよー、と願いながらのパンチ。けれど当てきった瞬間、大した手応えがないことを直感的に分かってしまった。
 皮膚が硬いわけでもない、むしろ柔らかいのにまるでダメージを与えられていない。枯葉を殴るよりも軽くて中身がないよー。
 
「ちょ、ちょっとは効いてよ、さすがに……」
『ウオアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
「…………ああ、もう! 自信がなくなるよー!!」

 いい加減しんどくなってきたよー。これ、今の僕だと勝ち目ないよねー?

 体力的にはまだまだ問題ないし、敵の攻撃は触手を伸ばして叩いてきたりするだけだから遅くて軽く、避けるにも受けるにも適当にいなせる。
 それでもさっきの衛兵さんとかが受けると即死するとは思うけど……僕からしてみれば子供の遊び程度の威力でしかない。だから負けようがないってのは事実だ。

 けれど反面、こっちもこっちで攻め手がない。さっきからしこたま殴り倒してなおノーダメージっぽいとなると、少なくとも杭打ちくんを装備していない素手の僕だと倒すどころか痛めつけることさえできないってことだ。
 人の最強打法をたやすく無効化してくれてさあ、やってらんないっての、まったく!
 ぼやきながら僕はふと、町のほうをちらと見る。
 
「そろそろ、住民の非難もそれなりに進んでる、かな?」
『ヴォアッ!! ヴォオオオオオオアッ!!』
「くそぅ……杭打ちくん、取りに行こうかなあ……!!」
 
 ウネウネと無数に責め立ててくる毛だか触手だかを余裕で避けつつ、どうしたもんかと考える。
 さっき衛兵達が避難誘導に行ってからまだ、そんなに時間は経ってないしろ……冒険者達も協力しだしたらあっという間に町民を安全地帯に逃がすくらいはできるだろう。

 気配感知だと結構、町の人達が泡食って逃げまくってる感じはするしね。少なくとも今から王城回りに近づこうってのは感じない。
 ……と、なると杭打ちくんを取るため、戦線を少しずつ移していくのも選択肢に挙げられるねー。

 コイツを殺し切るには杭で体内を直にぶち抜くしかなさそうだ。少なくとも外からの衝撃じゃとても殺れる気はしない。
 戦闘中に河岸を移すなんて、迂闊に距離を取ったせいで化物があらぬ方向に行ったりしたら大惨事だからなかなか躊躇われるけど、だからってこのままジリ貧してても仕方ないし。

 一か八か、やってみるかな……!
 腹を括り、いっちょ狼煙代わりに殴りつけてみるかと構える。
 …………そんな矢先、地下からいくつもの気配がやって来るのを感知する。これは。

「────来たか!」

 天ならぬ地からの助け! 思わずして小さく叫んだ僕と同時に、王城の壁が吹き飛んだ!
 ズガァァァァァァン! と轟音を立てて崩落する白の壁、それに気取られ化物が振り向けば、すぐそこにソイツはいて。

「ダハハハハハハッ!! 死ィィィねや、ゴラァァァァァァッ!!」
『!?』

 手にした身の丈ほどのザンバーを思い切り振りかぶり、眼前の敵へと全力で振り下ろしていた!
 迷宮攻略法をフルに駆使しての強化された肉体、武器から繰り出される斬撃は圧巻の一言、庭園をまるごと真っ二つにして衝撃が敵を襲うよー!

 言うまでもない、レジェンダリーセブンのご登場だ。
 案の定王城地下まで忍び込んでたんだなあ、なんて呆れつつも僕は、かつての仲間の名前を叫んだ!
 
「リューゼ……! リューゼリア・ラウドプラウズ!!」
「ずいぶん梃子摺ってんじゃねえかよ、ええ? ソウマ・グンダリ!」

 冒険者パーティー・戦慄の群狼リーダー。戦慄の冒険令嬢。
 何よりレジェンダリーセブンが一角である元調査戦隊幹部、リューゼリア・ラウドプラウズ。
 2mを超える長身で、不敵に佇む彼女は僕を見て、余裕満々って感じに笑うのだった。