「神……?」
「いきなり何言ってんでござる……?」
何やら急に神とか言い出した、この国の最高権力者たるラストシーン・ギールティ・エウリデ国王を見つめて僕とサクラさんは思わずつぶやいた。
交渉というかもはや脅迫みたいな要求を突き付けたシアンさんも、唖然とした様子でやつを見ている。
神。神か。たしかこの国の建国神話とかにもちらっとだけそんな話があるって以前、誰かから聞いた覚えがある。
初代国王が神と契約したんだったかな? そして神のものだった土地を譲渡され、そこに建てられたのがエウリデだとかなんだとか。
自分達の権力の所以に説得力を持たせるための作り話なのは言うに及ばずなんだけど、そんなものを今ここでいきなり持ち出す意味がわからないよー。
もしかして窮地に陥ったことでトチ狂った? いやいやまさかそんな、仮にも国王がいくらなんでもそれはないよねー。
「貴様ら卑賤なる犬に語るも惜しいが冥土の土産だ、教えてやろう……エウリデには神がいる。そしてその神の国を支配する王たる余は、血筋からしてすでに神にも等しい」
「……国王という機関に対しての権威付けの理屈? でもそんなもの、民衆や他国に対しての言いわけでしかないのに何を」
「戯け。そのような話であるものか。これは歴とした事実であり、かつエウリデの真実である」
「………………え、ヤバっ」
ヤバイよー怖いよー、壊れちゃったよこの人ー。
真顔で自分達の正しさをこじつけるために作った神話を"実在する真実"だと語る男の、目がどうにも逝っちゃってるように見えて仕方ない。
シアンさんもサクラさんもドン引きして口元を引きつらせてるし。
明らかに僕達が揃って愕然とする中、なおも国王はつらつらと語る。
ありえない真実──けれどそこから先の話は、よもやと思わせるだけの威力を秘めていた。
「我が王家初代、スタトシン・ペナルティ・エウリデははるかな太古より生き延びた唯一無二の正当なる血族である。巷に言う超古代文明から今に至るまで、この地を支配してきた絶対王政の主だったのだ」
「…………はあっ!? エウリデが、超古代文明由来の!?」
「よくできた創作でござるが、それどこの小説紙に連載されてるでござる?」
出鱈目にしたって唐突に絡めてくるね、僕ら冒険者が求めて止まないロマンの対象、超古代文明を!
……一言で切って捨てたいけれど。しかしてふと、最近の国の動きを思い返してまさか、と思う。
こいつらがヤミくんやヒカリちゃん、マーテルさんといった超古代文明の血を引く者を集めていたのは、そこに自分達の国の興り、ルーツがあると思っているからなのか?
やけに強硬手段で古代文明人を確保しに来るなと疑問に思ってはいたけど、その理由はもしかして、国そのものからして古代文明の末裔だからというところにあるの?
「超古代文明は愚かにも神の怒りに触れて沈んだ。触れてはならぬ業、制御しきれぬモノを支配しようとして滅んだのだ。だが生き残りであったスタトシンは長き時を経てエウリデの国体を再構築し、民草を増やし力を整え、そしてその裏側で少しずつ積み重ねてきた。あの日あの時に失敗した業、神をも屈服する業をな」
「…………まさか」
「永きに亘り代を重ね、ついに今世、余が統治下にてそれは実現した。分かるまい、では言ってやろう────エウリデはもはや、神をも手中に収めた」
立ち上がり、どこか恍惚としてさえいる表情で天を仰ぐ。薄気味の悪いやつだ、さっきから不気味な気がして仕方ないよ。
嫌な予感がしてならない。胸の奥からせり上がってくる吐き気に、ふと僕は直感的な悟りを得る。
──いや、これは予感じゃない。気配だ、と。
瞬間、僕は即座に叫んだ。迷宮攻略法をフル活用して、一気に戦闘態勢を整えながら!
「団長、サクラさん! 何かヤバい、とんでもないのがやって来る!!」
「ソウマくん!?」
「チィッ! まさか与太話が本物!? いや、神に見立てたナニカでござろう、さすがに!!」
僕に遅れること少し、サクラさんも何かを感じ取ってか身構えた。カタナがないけどいけるのかな、いけるでしょたぶん!
彼女にはシアンさんを守るように近くにいてもらって、僕はどこから敵が来ようがすぐさま対応できるように全方位に気配感知の網を張る。
一気に緊迫度を増す僕らに、貴族共は分かっているのだろう、にやにやしている。こいつら、何が来るか知らないけどここにいたらまとめて殺られかねないのに分かってないのか!?
兵士達だけが顔を青褪めさせて身構えるのを視線の端で捉えていると、エウリデ王はなおも高らかに謳うように言う。
「エウリデは今般、神なる力を手にした。それをもって世界にも手をかけてみせよう……だがその前に害虫駆除だ。冒険者、そう名乗る墓荒らし共をまずはこの国から殲滅する」
「何を……!?」
「貴様らの積み重ねは我らが神を手懐けるのに大いに役に立った。調査戦隊などは最高だった、褒めてしんぜよう……だがもう用はない。エウリデの栄光ある億年国家樹立の礎となったことを光栄に思いながら、この時この場にて息絶えよ」
『────ウアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
言い切るのと同じに、一気に近づくその気配────下か!
瞬間、僕らのいる謁見の間。
玉座から少し離れた場所、貴族連中さえも多く立つあたりを含めて、足元がすべて崩落した!!
「いきなり何言ってんでござる……?」
何やら急に神とか言い出した、この国の最高権力者たるラストシーン・ギールティ・エウリデ国王を見つめて僕とサクラさんは思わずつぶやいた。
交渉というかもはや脅迫みたいな要求を突き付けたシアンさんも、唖然とした様子でやつを見ている。
神。神か。たしかこの国の建国神話とかにもちらっとだけそんな話があるって以前、誰かから聞いた覚えがある。
初代国王が神と契約したんだったかな? そして神のものだった土地を譲渡され、そこに建てられたのがエウリデだとかなんだとか。
自分達の権力の所以に説得力を持たせるための作り話なのは言うに及ばずなんだけど、そんなものを今ここでいきなり持ち出す意味がわからないよー。
もしかして窮地に陥ったことでトチ狂った? いやいやまさかそんな、仮にも国王がいくらなんでもそれはないよねー。
「貴様ら卑賤なる犬に語るも惜しいが冥土の土産だ、教えてやろう……エウリデには神がいる。そしてその神の国を支配する王たる余は、血筋からしてすでに神にも等しい」
「……国王という機関に対しての権威付けの理屈? でもそんなもの、民衆や他国に対しての言いわけでしかないのに何を」
「戯け。そのような話であるものか。これは歴とした事実であり、かつエウリデの真実である」
「………………え、ヤバっ」
ヤバイよー怖いよー、壊れちゃったよこの人ー。
真顔で自分達の正しさをこじつけるために作った神話を"実在する真実"だと語る男の、目がどうにも逝っちゃってるように見えて仕方ない。
シアンさんもサクラさんもドン引きして口元を引きつらせてるし。
明らかに僕達が揃って愕然とする中、なおも国王はつらつらと語る。
ありえない真実──けれどそこから先の話は、よもやと思わせるだけの威力を秘めていた。
「我が王家初代、スタトシン・ペナルティ・エウリデははるかな太古より生き延びた唯一無二の正当なる血族である。巷に言う超古代文明から今に至るまで、この地を支配してきた絶対王政の主だったのだ」
「…………はあっ!? エウリデが、超古代文明由来の!?」
「よくできた創作でござるが、それどこの小説紙に連載されてるでござる?」
出鱈目にしたって唐突に絡めてくるね、僕ら冒険者が求めて止まないロマンの対象、超古代文明を!
……一言で切って捨てたいけれど。しかしてふと、最近の国の動きを思い返してまさか、と思う。
こいつらがヤミくんやヒカリちゃん、マーテルさんといった超古代文明の血を引く者を集めていたのは、そこに自分達の国の興り、ルーツがあると思っているからなのか?
やけに強硬手段で古代文明人を確保しに来るなと疑問に思ってはいたけど、その理由はもしかして、国そのものからして古代文明の末裔だからというところにあるの?
「超古代文明は愚かにも神の怒りに触れて沈んだ。触れてはならぬ業、制御しきれぬモノを支配しようとして滅んだのだ。だが生き残りであったスタトシンは長き時を経てエウリデの国体を再構築し、民草を増やし力を整え、そしてその裏側で少しずつ積み重ねてきた。あの日あの時に失敗した業、神をも屈服する業をな」
「…………まさか」
「永きに亘り代を重ね、ついに今世、余が統治下にてそれは実現した。分かるまい、では言ってやろう────エウリデはもはや、神をも手中に収めた」
立ち上がり、どこか恍惚としてさえいる表情で天を仰ぐ。薄気味の悪いやつだ、さっきから不気味な気がして仕方ないよ。
嫌な予感がしてならない。胸の奥からせり上がってくる吐き気に、ふと僕は直感的な悟りを得る。
──いや、これは予感じゃない。気配だ、と。
瞬間、僕は即座に叫んだ。迷宮攻略法をフル活用して、一気に戦闘態勢を整えながら!
「団長、サクラさん! 何かヤバい、とんでもないのがやって来る!!」
「ソウマくん!?」
「チィッ! まさか与太話が本物!? いや、神に見立てたナニカでござろう、さすがに!!」
僕に遅れること少し、サクラさんも何かを感じ取ってか身構えた。カタナがないけどいけるのかな、いけるでしょたぶん!
彼女にはシアンさんを守るように近くにいてもらって、僕はどこから敵が来ようがすぐさま対応できるように全方位に気配感知の網を張る。
一気に緊迫度を増す僕らに、貴族共は分かっているのだろう、にやにやしている。こいつら、何が来るか知らないけどここにいたらまとめて殺られかねないのに分かってないのか!?
兵士達だけが顔を青褪めさせて身構えるのを視線の端で捉えていると、エウリデ王はなおも高らかに謳うように言う。
「エウリデは今般、神なる力を手にした。それをもって世界にも手をかけてみせよう……だがその前に害虫駆除だ。冒険者、そう名乗る墓荒らし共をまずはこの国から殲滅する」
「何を……!?」
「貴様らの積み重ねは我らが神を手懐けるのに大いに役に立った。調査戦隊などは最高だった、褒めてしんぜよう……だがもう用はない。エウリデの栄光ある億年国家樹立の礎となったことを光栄に思いながら、この時この場にて息絶えよ」
『────ウアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
言い切るのと同じに、一気に近づくその気配────下か!
瞬間、僕らのいる謁見の間。
玉座から少し離れた場所、貴族連中さえも多く立つあたりを含めて、足元がすべて崩落した!!