リューゼに続いてカインさんまで、と思いきやレイアにウェルドナーさんまですでにエウリデ入りしているらしい、なんてとんでもない話を聞かされて、僕もそろそろ大分混乱している自信がある。
 何やら主たる目的は別にあるようだけど、そのためにたまたまエウリデを訪れた矢先にこの騒動なんだからタイミングが良いんだか悪いんだか。調査戦隊らしいといえばらしいのかもしれないけど、ねー。

 困惑しきりにカインさんを見る。憎らしいくらい飄々と、なんなら軽い微笑みすら浮かべている彼はそれこそ三年前と変わらない。
 貴族的な余裕ってやつ? あるいはモニカ教授やウェルドナーさん以上に冷静冷徹な一面をも持つ男は、やはり軽い調子で僕へと続けて言う。

「おそらくシミラ奪還に際して面合わせすることになるだろう。その時、改めて話をしたいとのことだ。俺は今回それを伝えるために、ここへ来たのだな」
「それで誰もいなかったから、玄関前で寝てたのー……? 一回帰るとかすればよかったんじゃないの?」
「そのつもりだったが、お前の家を眺めているうちにウトウトしてな。いやはや立派な家だ、根本から根無し草だったお前がこのような家に生活できるようになったかと、友として嬉しい限りだ」
「そ、そう……」
 
 褒められるのは嬉しいけど根本から根無し草とか言われるのは複雑だよー。一応僕、孤児院出身ってことで根を張る場所はあったと思うんだけどねー?
 というか人の家を眺めてるうちに寝てました、なんてそんなことある? 立派なお家、なーんてお褒めいただきそこは光栄だけども、だからって下手すると半日以上? 炎天下で寝てたってのはいろいろ大丈夫かなこの人、ってなるよー。

 しかし、まあ、元気そうで良かった。カインさんにしろレイアにしろ、ウェルドナーさんにしろ。
 リューゼも合わせると4人、レジェンダリーセブンがエウリデにいることになるんだよね。実に半数以上も世界最高クラスの冒険者が来訪してるって、かなりのビッグニュースだよねよく考えたら。
 そこまで考えてふと、口走る。

「にしても、リューゼにカインさんにレイア、ウェルドナーさんと来たかぁ……これさ。ワカバ姉にミストルティン、ガルドサキスも来そうじゃない? なんとなくだけどさー」

 偶然とはいえ4人も集まりつつある以上、ここまで来たら残る3人も来そうな気がしてならない。
 いっそレジェンダリーセブン大集結! エウリデ包囲! ってしてやったら、どう考えても彼ら彼女らにトラウマを持ってるだろうエウリデ上流階級としては下手すると即降伏まであるかもしれないねー。

 なんてことを冗談めかして言うと、カインさんはふむ、と顎に手をかけ考え込んだ。
 どうでもいいけど手足が長い、スラッとしてていかにも男前って感じで見ててムカつく! 絶対に僕の隣に立ってほしくないよ、いやでも比較されそうだからね!
 見てろよ僕も大きくなるから! と思わず内心叫んでいると、彼は一つ頷いて僕に応えた。

「可能性は大いにあるな。シミラ処刑の報はすでに耳聡い者であれば、国外の者でも知れる程度には広まっている。情に厚いミストルティン、ガルドサキスに加えて祭りとみればワカバも来るだろう」
「ワカバ姉だけはそういう理由だよねー」
「アレにその辺の情は期待しない方がいい。ヒノモト者は、殺し殺されは世の常だと本気で思い込んでいる連中だからな」

 薄く笑ってワカバ姉を揶揄するカインさん。この人、ワカバ姉っていうかヒノモト人を殺戮狂戦士集団くらいにしか見てないんだよね。
 主にワカバ姉がたおやかな笑顔でやらかし過ぎたってのもあるんだけれど、他にも調査戦隊に何人かいたヒノモト冒険者の素行も大概アレだったから余計にその考えが補強されちゃってるところはあるね。

 まあ、サクラさんとかも割と大概な時があるからあんまり肯定も否定もし辛いんだけど。カインさんが彼女を見たらどうリアクションするかな、ちょっと気になるかもー。
 それはさておいて、とにかくレジェンダリーセブンがもしかしたら、何かの間違いででも全員集結しかねない状況ってことなんだね、今は。
 残る3人を思い浮かべて天井を仰ぐ。

「となると、レジェンダリーセブン勢揃いかもしれないのかぁ。嬉しいような、気まずいような」
「別に、気まずさを覚える必要もないだろう。思うところがあるのはレイアとウェルドナーさんくらいなもので、それとて今生賭けての恨みつらみというほどでもない」
「そうかなぁー……」
「それに、あまりグダグダ言うならお前を可愛がっていたワカバやミストルティンが黙ってはいないだろうさ」
 
 からかう風に笑ってくるカインさん。ワカバ姉にミストルティン……たしかにいろいろ可愛がってもらった記憶はあるけども。
 さすがに今はどうなんだろうね? そこはちょっと気になるところだよー。