あっけらかんと、歌うように軽やかにそんなことがどうした、と。
言ってのけるカインさんに、絶句するのは僕のほうだった。僕のやったこと、やってしまったことの罪過をたしかに認めてくれたのに、直後になんでそんなことを。
「…………いや、それがどうしたって、あのね」
「調査戦隊が崩壊した、その理由の一端はお前だ。それは間違いない。だがそんなこと、何年も引きずる話じゃないぞ」
「えぇ……」
きっぱりと言い切る彼の顔には、嘘偽りの色はない。心の底から僕の過ちを認めつつ、けれどいつまでも気にすることじゃないと思っているんだ。
何を言っているのか、あんまりな言い分に思考が追いつかない。僕が悪いのに、気にするなって言うの? 僕はずっと引きずってきたのに、あなたは気にするなって言うの?
戸惑う僕へ、優しく笑い。
カインさんは、なおも言った。
「そもそもな。人間関係だの組織だのは常に流動的なのだ、どういうきっかけでどうなろうがそんなもの、誰に分かるはずもない。そういうものは運命とか宿命の領分だろう」
「でも、だからって」
「お前が追放された。結果、調査戦隊が崩壊した。そんなところまで行くとは思っていなかったろう、実際? 精々が多少揉めるか最悪、離反者が出る程度に思ってたんじゃないか? 少なくとも俺は当時、加速度的に崩れていく調査戦隊に対して唖然としたぞ。そこまでのことになっちゃうのかよ、一人追い出された程度で──とな」
「……それは」
ぶっちゃけすぎだろー……でも正味な話、否定できないところはある。
教授から聞かされた事の顛末、そこに対して僕ははっきり言えばドン引きするものを覚えたのは事実だ。
メンバーが一人、外圧によって追い出された。たったそれだけのことで調査戦隊は即日、空中分解したんだ。そんな話ある?
ミストルティンとかカインさんあたりは離反するかも、くらいには思ってたけど組織としての体裁すら保てないレベルで崩壊するなんて思ってもいなかったんだ、さすがに。
こんなこと、僕の立場で言えるわけがないんだから黙ってたし思うこと、考えることだってかつての仲間達に対して失礼だ、と思い思考を止めていたけれど。
他ならぬそのかつての仲間から言われてしまったんだ。いくらなんでも脆すぎじゃない? と。
「まるでドミノ倒しだ。どこからでも一つ衝撃が加われば、そこから先は後戻りできずにゲームセット。レイアのカリスマ、絆という理想に依存しすぎて調査戦隊は気づかない間に、砂上の楼閣へと変わり果ててしまっていた。きっと、お前が来るずっと前からな」
「そんな、ことは……僕が来る前のことは、さすがにわからないけど」
「いつ、何がきっかけでああなってもおかしくなかった。たまたまお前の追放がそうだった。お前の罪過であることは間違いないが、そもそも土台からしてレイアにすべてを依存していた調査戦隊メンバー、全員の罪がそこにあるのだと俺は思うよ」
ない、とは言い切れない。だって僕が来る前の話なんてさすがに知ったこっちゃないし。
でも、レイアに依存しすぎていたってのは紛れもない事実だよ。僕自身、彼女についていけば良いって当時、考えてたもの。
支えることじゃなく、導かれることだけ考えていた。それが調査戦隊メンバーみんなの分だ。さぞかし辛かったろうな、レイア。
だからそこを指摘してカインさんは言うんだ。僕だけじゃない。僕にも罪はあるにせよ、調査戦隊はそもそもからして罪に塗れていたんだ、ってね。
「すべてなるべくしてなったのだ。なった分の罪過を背負い罰を求めるのは好きにすればいいが、それ以上の余計な分まで背負おうとするな。それは余分だ」
「カインさん……」
「お前は追放された後、3年もの期間を冒険者として孤独に過ごしたと聞く。多くの葛藤と苦悩を背負っての選択と末路がそれならば、俺からすればお前は十分に苦しんだのだ。これ以上引きずるな。生きるということに対して不誠実だ」
強めの口調で、けれどどうしても滲み出る優しさ。
カインさんは彼なりに、僕に前を向いて生きろと言ってくれているんだと分かるよー。
「運命や宿命とは儘ならぬものなのだ。救いにせよ報いにせよ釣り合いを取ろうなどと思っては、人は一生苦しむことになる。それではいけない。ましてや我が友にそんな道は歩ませられん」
「…………ありがとう。恨まれていると、思ってたよ」
「お前の事情を知っているのだぞ、恨むものかよ。いいか我が友。良いことも悪いことも、ハナから釣り合いなんぞ取れないものなのだ。それはそういうものだと思って、あまり重く受け取りすぎるな」
ある種の諦観を孕む言葉。カインさんはそうだった、貴族だからか生来の性質なのかわからないけど、こういう達観的なものの見方をする人だったねー。
今回僕にくれた言葉も、なんとも彼らしい物言いだなと思って──僕もようやく、彼に微笑み返すことができたよー。
言ってのけるカインさんに、絶句するのは僕のほうだった。僕のやったこと、やってしまったことの罪過をたしかに認めてくれたのに、直後になんでそんなことを。
「…………いや、それがどうしたって、あのね」
「調査戦隊が崩壊した、その理由の一端はお前だ。それは間違いない。だがそんなこと、何年も引きずる話じゃないぞ」
「えぇ……」
きっぱりと言い切る彼の顔には、嘘偽りの色はない。心の底から僕の過ちを認めつつ、けれどいつまでも気にすることじゃないと思っているんだ。
何を言っているのか、あんまりな言い分に思考が追いつかない。僕が悪いのに、気にするなって言うの? 僕はずっと引きずってきたのに、あなたは気にするなって言うの?
戸惑う僕へ、優しく笑い。
カインさんは、なおも言った。
「そもそもな。人間関係だの組織だのは常に流動的なのだ、どういうきっかけでどうなろうがそんなもの、誰に分かるはずもない。そういうものは運命とか宿命の領分だろう」
「でも、だからって」
「お前が追放された。結果、調査戦隊が崩壊した。そんなところまで行くとは思っていなかったろう、実際? 精々が多少揉めるか最悪、離反者が出る程度に思ってたんじゃないか? 少なくとも俺は当時、加速度的に崩れていく調査戦隊に対して唖然としたぞ。そこまでのことになっちゃうのかよ、一人追い出された程度で──とな」
「……それは」
ぶっちゃけすぎだろー……でも正味な話、否定できないところはある。
教授から聞かされた事の顛末、そこに対して僕ははっきり言えばドン引きするものを覚えたのは事実だ。
メンバーが一人、外圧によって追い出された。たったそれだけのことで調査戦隊は即日、空中分解したんだ。そんな話ある?
ミストルティンとかカインさんあたりは離反するかも、くらいには思ってたけど組織としての体裁すら保てないレベルで崩壊するなんて思ってもいなかったんだ、さすがに。
こんなこと、僕の立場で言えるわけがないんだから黙ってたし思うこと、考えることだってかつての仲間達に対して失礼だ、と思い思考を止めていたけれど。
他ならぬそのかつての仲間から言われてしまったんだ。いくらなんでも脆すぎじゃない? と。
「まるでドミノ倒しだ。どこからでも一つ衝撃が加われば、そこから先は後戻りできずにゲームセット。レイアのカリスマ、絆という理想に依存しすぎて調査戦隊は気づかない間に、砂上の楼閣へと変わり果ててしまっていた。きっと、お前が来るずっと前からな」
「そんな、ことは……僕が来る前のことは、さすがにわからないけど」
「いつ、何がきっかけでああなってもおかしくなかった。たまたまお前の追放がそうだった。お前の罪過であることは間違いないが、そもそも土台からしてレイアにすべてを依存していた調査戦隊メンバー、全員の罪がそこにあるのだと俺は思うよ」
ない、とは言い切れない。だって僕が来る前の話なんてさすがに知ったこっちゃないし。
でも、レイアに依存しすぎていたってのは紛れもない事実だよ。僕自身、彼女についていけば良いって当時、考えてたもの。
支えることじゃなく、導かれることだけ考えていた。それが調査戦隊メンバーみんなの分だ。さぞかし辛かったろうな、レイア。
だからそこを指摘してカインさんは言うんだ。僕だけじゃない。僕にも罪はあるにせよ、調査戦隊はそもそもからして罪に塗れていたんだ、ってね。
「すべてなるべくしてなったのだ。なった分の罪過を背負い罰を求めるのは好きにすればいいが、それ以上の余計な分まで背負おうとするな。それは余分だ」
「カインさん……」
「お前は追放された後、3年もの期間を冒険者として孤独に過ごしたと聞く。多くの葛藤と苦悩を背負っての選択と末路がそれならば、俺からすればお前は十分に苦しんだのだ。これ以上引きずるな。生きるということに対して不誠実だ」
強めの口調で、けれどどうしても滲み出る優しさ。
カインさんは彼なりに、僕に前を向いて生きろと言ってくれているんだと分かるよー。
「運命や宿命とは儘ならぬものなのだ。救いにせよ報いにせよ釣り合いを取ろうなどと思っては、人は一生苦しむことになる。それではいけない。ましてや我が友にそんな道は歩ませられん」
「…………ありがとう。恨まれていると、思ってたよ」
「お前の事情を知っているのだぞ、恨むものかよ。いいか我が友。良いことも悪いことも、ハナから釣り合いなんぞ取れないものなのだ。それはそういうものだと思って、あまり重く受け取りすぎるな」
ある種の諦観を孕む言葉。カインさんはそうだった、貴族だからか生来の性質なのかわからないけど、こういう達観的なものの見方をする人だったねー。
今回僕にくれた言葉も、なんとも彼らしい物言いだなと思って──僕もようやく、彼に微笑み返すことができたよー。