「やれやれ、いろいろ長引いた一日でごさったなーござござ」
「そだねー。まあ8割方リューゼのせいだったわけだけどー」

 その後、新世界旅団のみんなとも別れて帰路に着く。普段はスラムの涸れ井戸から地下を通って僕の住居、庭先まで直通の秘密通路を通って帰るんだけど……
 今日はいろいろあって疲れたし、家のすぐ近くってことだしサクラさんに併せて普通の道を通って帰っているよー。もう薄暗い夜の頃合い、気配を消していけば普通に見つかることはないからまあ、大丈夫かなーって思う。

 さておき、せっかくなのでサクラさんと今日あったことをつらつら話し合う。特に彼女的にはやっぱりリューゼリアが気になっているみたいで、しきりに話に挙げてきているよ。
 ただ、気になっているというけど実質的には気に入らないって感じみたいだ。昼間は表に出さなかった不快感を美しい顔に刻んで、唇を尖らせて不満を表明してきた。
 
「あの御仁、前からあんなんだったんでござる? 言ったらなんでござるが、微妙に拙者とは噛み合わなさそうなタイプでござったよ」
「前はアレよりもっとひどかったし、一応成長はしてるかな? まあアイツと噛み合うタイプなんて三年前もそんなにいなかったし、普通だよサクラさんはー」

 傍若無人の暴れん坊。他人のことなど気にしない、身体も態度も放つ言葉さえデカいヤツ──3年前からそんなところはあったけど、今なおそうした性質は健在だった。
 なんならアレでも丸くなったほうだよー。3年前ならシアンさん相手にあんな譲歩絶対しなかったし、するにしても僕にボコボコにされてから渋々、あからさまに納得してませーんって感じの空気を出しながらの不貞腐れたものになっていたはずだよー。

 そう言うとサクラさんは呆れ果てて、アレが当世最強の冒険者の一角でござるか、と嘆く声色でつぶやく。気持ちはわかるよー。
 でも残念ながらアイツの強さそのものはガチだ。かつてより頭を使うようになった分、僕からすれば隙ができたように見えるけど普通の場合でいうと立派な強化だからねー。

 サクラさん単独だとたぶん、勝てないんじゃないかなって思うよー。
 これは本人には言えないことだけど、彼女自身その自覚はあるみたいで悔しそうにしているね。まだまだこれから、サクラさんならいつかアイツにも勝てるはずだから気にしすぎないでほしいなー。
 
 若干気まずくなった空気を払拭するように、僕は努めて明るく声を張った。
 今一番の話題はやはり、シミラ卿絡みだろう。

「ともあれアイツやアイツのパーティーも加われば、エウリデ王城の襲撃もシミラ卿救出もなんとか目処が立ちそうな気はするね。いなくても救出は絶対に成功させていたけど、いることで全体的に楽になるから」
「単純に、あの女の実力一つ取ってみても超一流。下手すると世界でも五本指なわけでござるしなあ。アレがこちら側に付いた時点でエウリデの勝ちの目が薄くなった。詰みでござるね」
「戦慄の群狼そのものよりも、リューゼリア・ラウドプラウズって女のほうがヤバいんだねー武力的にも、政治的にも。ま、レジェンダリーセブンのメンバーならそのくらいの扱いされてても不思議じゃないけどさー」

 世界的に見て、レジェンダリーセブンの名前は普通にビッグネームだ。7人が7人とも、国一つくらいわけなく滅ぼせる力を持つんだから当たり前だよね。
 その中でもリューゼリアといえば、マジで革命騒ぎに乗っちゃったやつだし。そんなのがエウリデに戻ってきてしかも国に敵対するとなれば、嫌でもその影響力を国は無視できないだろう。

 エウリデがリューゼリアの動向に気づいてからの動きが見ものだよー。まさか今さら処刑中止! シミラ卿不問! だなんてプライド的にできしないし。
 どんな戯けた反応を返してくれるんだろうねー、みたいな話をしていると、あっという間にサクラさんのお家についた。

 ここまで来たら一安心だね。僕のお家はここの通りから一つズレた通りの突き当りにある。ここから歩いて10分かそこらだよー。
 
「じゃ、そういうわけでしばらくはのんびりだねー。シミラ卿奪還に向け、お互い英気を養いましょー」
「そうでござるなあ。まあ、どうせ明日もあの文芸部室でのんびりシアンを扱きつつ過ごすのでござろう」
「だねー」
 
 となると今日のところはこれでお別れだ。もうちょっとお話したいよーって気持ちはあるけど、もう夜だしねー。
 明日から一週間くらいは休息、休みを経て力を蓄える期間だ。シミラ卿処刑阻止、どんな風に話が転がるか僕にも読めないところはあるけれど……一つだけ確定していることはある。
 
 必ず助ける。あの生真面目で堅物で、でも僕のことを弟扱いしてくれる素敵な女の人の命を、国なんぞにくれてやらない。
 そんな決意を胸に秘めて、僕は家に帰るのだった。