肥大化したエウリデのエゴ。冒険者を嫌厭しながらもしかし、冒険者に甘え、冒険者に依存することとなった歪極まりない現状の有り様は……他ならぬ調査戦隊リーダー、レイア・アールバドにも一因があるのだとベルアニーさんやモニカ教授は語った。
 どういうことかと首を傾げるシアンさんやレリエさんに向け、面白がりつつもどこか、哀しげな目さえも浮かべて教授は語る。

「当世の神話、大迷宮深層調査戦隊。世界各地の英傑達が一堂に会した奇跡のパーティーは、しかし基本的には従順かつ無害、しかして有毒極まりなかったということだよ団長、レリエ」
「従順、かつ無害でありながら有毒?」
「調査戦隊はレイアリーダーの融和的な姿勢、そしてそこからもたらされた莫大な富、利益。エウリデはものの見事に目を曇らせたんだ──冒険者達は自分達にとって良いもの、首輪をつけて制御できるものだと誤認してしまったんだ。リーダー相手の対応が、冒険者全体にも適応できると勘違いをしちゃったんだね」
「調査戦隊以前は冒険者とエウリデの関係はつかず離れず、どちらにとっても益にも害にもならないものだった。それが崩れた結果、エウリデは致命的な思い違いをしてしまったわけだな」

 "これまでは互いに不干渉気味だったけど、調査戦隊は従順だし友好的だしこちらにも利益をもたらしてくれた"。
 "冒険者というのはつまり、エウリデにとって未開発の鉱山も同然。手つかずの金塊がこんなに近くにいたんだ"。


 ──"だったら調査戦隊同様、首輪をつけて使い潰してやろう。レイア・アールバドですら従順なのだから、それ以下の冒険者どもなどたちどころに飼い犬に成り下がるはずだ"。


 こんなところかな? つまりはエウリデは、レイア個人のスタンスを冒険者全体のスタンスと勘違いしちゃったんだね。
 そんな馬鹿な話ある? って感じだけど、実際、調査戦隊以前のエウリデは冒険者についてはそこまでノータッチだった。精々庭先で活動している探検家連中くらいなものだったみたいだし、それがまさか経済的にすさまじい効果を及ぼす底力を秘めていたなんて思いもしていなかったんだろうねー。

 まさしく連中からしてみれば冒険者とは大きな金山。国家として従えて上手いこと使えば、相当うまい汁を吸える。
 そんな考えで調査戦隊以降も冒険者達を扱おうとしたんだろうけど、その野望は当然のように瓦解した。

 当たり前だよね、調査戦隊はレイアじゃないんだ、馬鹿正直に国なんかに従うわけがないんだよ、冒険者なんて人種がさ。
 結果としてエウリデは飼い犬候補に幾度となく手を噛まれ、何より調査戦隊解散に伴うあれこれがすっかりトラウマになっちゃって、冒険者相手には敵視と危機感、あわよくば利用したいっていう欲目さえ混じった複雑な視線を寄越すようになったわけだよー。

「そして今、あの頃を忘れられずに一般の冒険者相手に同じ対応をした結果、ものの見事に反発を食らっている……ははは、まるで遅効性の毒だ!」
「結局"絆の英雄"は優しさというより甘すぎたのだろう……ともかくそんなわけで、奴らは冒険者相手にはそこまで強く出られん。実力的にも立ち位置的にもな。だから今回もグンダリを直接処罰せず、シミラ卿に八つ当たりまがいの処刑を行おうというのだ」
 
 嘲笑うモニカ教授に、鼻で嗤うベルアニーさん。二人からしてもこの顛末は、馬鹿馬鹿しいと断ずるに躊躇いはないみたいだ。
 実質的にシミラ卿は八つ当たりの対象なんだ。面と向かって僕を相手にしたらレジェンダリーセブンが動くかもだし、そもそも僕個人の戦力だけでも国レベルの脅威だしで直接手出しができないから、鬱憤晴らしも兼ねて彼女の首を落とそうって魂胆なんだね。

 気の毒な話だ、だからなんとしてもシミラ卿は助けなきゃ。
 エウリデはびっくりするだろう、まさか彼女を助けるために僕を含めた調査戦隊元メンバーにギルドが組んで襲撃するなんてね。
 ……すべてが欲による物差ししかないだろう貴族の、限界がそこなんだ。仲間を、同胞を護らんとする冒険者の心、絆。そこにまで目が向かないから、こういうことになるのさエウリデは。
 
「シミラ卿は我々と同じ釜の飯を食った仲間だ。たとえ騎士団長となった今でもそれは変わらん」
「当然だァ。だからあいつが殺されるってんなら、そいつを防いであいつを護る、助ける。そういうこったな」
「そうだ。冒険者は明日をも知れぬ稼業だ。だからこそともに生きる同胞を大事にする……人の心を知らぬはエウリデ。ゆえにやつらに教えてやろう。金より地位より名誉より、大切にせねばならないものこそが人を人たらしめるのだと」
 
 ベルアニーさんの口上に、一同頷く。
 それぞれ思うところ、考えることは違うだろうけどその一点だけは一緒だ。脅かされている仲間を助ける。たとえ一戦交えてでも!
 損得を超えたところにこそ絆はあるのだと、今一度エウリデに骨の髄まで知らしめてやろうじゃないか!