いくら気に食わなくても、いくら罪人扱いしていてもシミラ卿は現役の騎士団長だ。たとえ処刑するにしても捕縛の上、ワルンフォルース家にて監視付きの軟禁くらいの扱いしてるのかと思っていたよー。
それがギルドの掴んだ情報によるとまさかの地下牢に突っ込まれてるなんて。
あそこは大体政治犯とか思想犯、その他重罪を犯した者達が送られるところだって聞くけど、シミラ卿のやったことはそこまで大きなものなんだろうか?
少なくとも僕らにとってはそんなことないだろ、としか言えないよー。貴族たるシアンさんからしても異常な仕打ちみたいで、絶句した様子でそれでも苦しげに呻いている。
「自分達を護る騎士団の長に、そのような仕打ちを加えるとは……!」
「想像以上にイッちゃってるでござるな、この国。まあそんな程度の統治機構ゆえ、ここまで冒険者が力をつけている面もあるから一長一短ってとこでござるが」
「誤解なきよう言っておくと、少数ながらまともな貴族もいるからね、サクラ。それこそエーデルライト家やワルンフォルース家などがそうだ」
呆れ、というか失望だね。エウリデという国にいかにも愛想が尽きたように深くため息を吐くサクラさんに教授が、フォローとしても微妙なフォローを入れる。
エウリデというよりはシアンさんやシミラ卿へのフォローだね……つまるところ彼女ほどの才媛からしても、今のエウリデは一部を除いて救いようがないってことだろう。
淡く苦笑いを浮かべつつ、彼女はさらに続けて言った。
「とはいえ、そうしたまともな家というのは大体煙たがられて、政治中枢からは遠ざけられているのが実情だけれどもね」
「駄目じゃないの、それ」
「駄目だとも。ま、両家ともに今さら連中の尻拭いなどしたくないだろうし、火中のワルンフォルースはともかくエーデルライトは対岸の火事ってところなんじゃないかな? どうなんだいそこのところ、シアン団長?」
「…………ノーコメントで。私とて冒険者ですが貴族、エーデルライトの令嬢です。口にすることが憚られる内容というのは、おそらくみなさんよりも多少はあります」
ちょっと鋭角気味の、際どい質問を投げかけていくねー教授。差し向けられたシアンさんが困ったように口を噤んでいるよー。
エーデルライト家にしろワルンフォルース家にしろ、基本的には国政に関与していない。
シミラ卿が騎士団長として参加しているワルンフォルースは微妙だけど、騎士団長そのものにそこまでの政治的権限がないだろうからねー。どちらにせよ両家ともに、ここに至るまでは第三者に近い立ち位置でいたはずだよー。
それが今回、シミラ卿処刑という形で思いっきりワルンフォルース家が関わることになった。あの家がどう動くかは微妙だけど、まあ普通に考えたら娘を護るために動くんじゃないかとは思うよ。
なんならエーデルライト家だって、今まさにご令嬢が首を突っ込もうとしているわけでそろそろ対岸ってわけでもない。こちらもこちらで、愛娘さんの行動にどう動くかは若干、見ものだねー。
貴族同士のぶつかり合いまで見えてきた構図、正直ちょっと面白さはあるよね。さすがに不謹慎だし言えないけどさ。
コホン、と咳払いしてベルアニーさんが話をまとめる。
「エーデルライトもワルンフォルースも好きにすればいいが、それはそれとしてだ。あくまで我々の目的はシミラ卿の救出のみ。その過程で王城が半壊したり、王族の一人二人が半殺しの憂き目に遭うくらいは構わんが根絶やしは止せ。収拾がつかなくなる」
「半殺しの時点でまったく収拾がつかなくなると思いますけど……」
「こうまであからさまな形で冒険者に喧嘩を売るからそうなる。自業自得だ」
王族半殺しくらいまでは容認するとぶちまけたギルド長に、ドン引きしてレリエさんが指摘する。
いかにも優しい彼女らしい意見だけれど、まあ僕達からすればこれでも温情的な措置なんだよねー。
エウリデからすれば、おそらくはシミラ卿処刑に冒険者はタッチしないとでも思ってるのかもしれない。調査戦隊メンバーだったのは昔の話、今はもうほぼ無関係だから動かないとでも思ってるのかもね。
だってほら、本当に冒険者を警戒するならもうすでにシミラ卿を殺しているもの。わざわざ見せしめにしようって時点でズレてるんだよ、彼らは。
自分達が冒険者よりも上の立場だと思いこんでいるのがそもそもの間違いなんだよー。
主導権はいずれにせよ冒険者側にあるのだと、ベルアニーさんは豪語してみせた。
「ことエウリデという国は冒険者を舐めてかかる癖をして冒険者に依存しすぎた。だからこういう時に決定的に主導権を持てなくなるのだ。愚かしい話だな」
「その辺はやはり、調査戦隊発足で著しく感覚が狂ったところはあるんでしょうね。レイアリーダーは政治的バランスを重視していて、言ってはなんですがことなかれ主義でしたから」
「ああ、ソウマ追放ン時とかなァ……」
今や冒険者を止めることは、少なくともエウリデには難しい。それを未だにわからないのはやっぱり、レイアが貴族や王族達にも優しすぎたからかもしれない。
少なくともモニカ教授やリューゼはそう考えているみたいだったよー。
それがギルドの掴んだ情報によるとまさかの地下牢に突っ込まれてるなんて。
あそこは大体政治犯とか思想犯、その他重罪を犯した者達が送られるところだって聞くけど、シミラ卿のやったことはそこまで大きなものなんだろうか?
少なくとも僕らにとってはそんなことないだろ、としか言えないよー。貴族たるシアンさんからしても異常な仕打ちみたいで、絶句した様子でそれでも苦しげに呻いている。
「自分達を護る騎士団の長に、そのような仕打ちを加えるとは……!」
「想像以上にイッちゃってるでござるな、この国。まあそんな程度の統治機構ゆえ、ここまで冒険者が力をつけている面もあるから一長一短ってとこでござるが」
「誤解なきよう言っておくと、少数ながらまともな貴族もいるからね、サクラ。それこそエーデルライト家やワルンフォルース家などがそうだ」
呆れ、というか失望だね。エウリデという国にいかにも愛想が尽きたように深くため息を吐くサクラさんに教授が、フォローとしても微妙なフォローを入れる。
エウリデというよりはシアンさんやシミラ卿へのフォローだね……つまるところ彼女ほどの才媛からしても、今のエウリデは一部を除いて救いようがないってことだろう。
淡く苦笑いを浮かべつつ、彼女はさらに続けて言った。
「とはいえ、そうしたまともな家というのは大体煙たがられて、政治中枢からは遠ざけられているのが実情だけれどもね」
「駄目じゃないの、それ」
「駄目だとも。ま、両家ともに今さら連中の尻拭いなどしたくないだろうし、火中のワルンフォルースはともかくエーデルライトは対岸の火事ってところなんじゃないかな? どうなんだいそこのところ、シアン団長?」
「…………ノーコメントで。私とて冒険者ですが貴族、エーデルライトの令嬢です。口にすることが憚られる内容というのは、おそらくみなさんよりも多少はあります」
ちょっと鋭角気味の、際どい質問を投げかけていくねー教授。差し向けられたシアンさんが困ったように口を噤んでいるよー。
エーデルライト家にしろワルンフォルース家にしろ、基本的には国政に関与していない。
シミラ卿が騎士団長として参加しているワルンフォルースは微妙だけど、騎士団長そのものにそこまでの政治的権限がないだろうからねー。どちらにせよ両家ともに、ここに至るまでは第三者に近い立ち位置でいたはずだよー。
それが今回、シミラ卿処刑という形で思いっきりワルンフォルース家が関わることになった。あの家がどう動くかは微妙だけど、まあ普通に考えたら娘を護るために動くんじゃないかとは思うよ。
なんならエーデルライト家だって、今まさにご令嬢が首を突っ込もうとしているわけでそろそろ対岸ってわけでもない。こちらもこちらで、愛娘さんの行動にどう動くかは若干、見ものだねー。
貴族同士のぶつかり合いまで見えてきた構図、正直ちょっと面白さはあるよね。さすがに不謹慎だし言えないけどさ。
コホン、と咳払いしてベルアニーさんが話をまとめる。
「エーデルライトもワルンフォルースも好きにすればいいが、それはそれとしてだ。あくまで我々の目的はシミラ卿の救出のみ。その過程で王城が半壊したり、王族の一人二人が半殺しの憂き目に遭うくらいは構わんが根絶やしは止せ。収拾がつかなくなる」
「半殺しの時点でまったく収拾がつかなくなると思いますけど……」
「こうまであからさまな形で冒険者に喧嘩を売るからそうなる。自業自得だ」
王族半殺しくらいまでは容認するとぶちまけたギルド長に、ドン引きしてレリエさんが指摘する。
いかにも優しい彼女らしい意見だけれど、まあ僕達からすればこれでも温情的な措置なんだよねー。
エウリデからすれば、おそらくはシミラ卿処刑に冒険者はタッチしないとでも思ってるのかもしれない。調査戦隊メンバーだったのは昔の話、今はもうほぼ無関係だから動かないとでも思ってるのかもね。
だってほら、本当に冒険者を警戒するならもうすでにシミラ卿を殺しているもの。わざわざ見せしめにしようって時点でズレてるんだよ、彼らは。
自分達が冒険者よりも上の立場だと思いこんでいるのがそもそもの間違いなんだよー。
主導権はいずれにせよ冒険者側にあるのだと、ベルアニーさんは豪語してみせた。
「ことエウリデという国は冒険者を舐めてかかる癖をして冒険者に依存しすぎた。だからこういう時に決定的に主導権を持てなくなるのだ。愚かしい話だな」
「その辺はやはり、調査戦隊発足で著しく感覚が狂ったところはあるんでしょうね。レイアリーダーは政治的バランスを重視していて、言ってはなんですがことなかれ主義でしたから」
「ああ、ソウマ追放ン時とかなァ……」
今や冒険者を止めることは、少なくともエウリデには難しい。それを未だにわからないのはやっぱり、レイアが貴族や王族達にも優しすぎたからかもしれない。
少なくともモニカ教授やリューゼはそう考えているみたいだったよー。