結局突き詰めると復讐が目的でもある。リューゼにとってこれは、そういう話なんだ。
調査戦隊を瓦解せしめた僕の追放。それを招いたエウリデの脅迫、王族貴族の傲慢、差別意識、そして自己保身に悪意もろもろ──それら含めて、彼女は3年経っても未だ消えることない憎悪を抱き続けているのだ。
「こんな国があるから調査戦隊はあんなことになっちまったんだ、ならいらねーだろそんなもん。多少の混乱がどうした、3年前のオレ達はもっと混乱したってんだよ」
「それが本音か、ラウドプラウズ」
「シミラを助けたいってのが最優先だぜ、もちろんな。だがそれと同時に、どうせやるなら後顧の憂いってやつも絶っておきてえ気持ちがあるってこった。オレ様の怒り、憎しみもここらでスカッとさせときてーしな。シミラとは関係ないところで、オレも頭にきてんだよいろいろ」
ベルアニーさんの苦渋に満ちた顔をせせら笑うように、リューゼはあっけらかんと自身の思うところ、シミラ卿救出と同じくらいに抱えている心の内を明かした。
シミラ卿を救う、これは間違いなく本音だろうねー。でもそれだけじゃない、かつての復讐や意趣返しなんて意図も同時に存在しているんだ。
そしてそれは、シミラ卿救出を邪魔するものでは決してない。
いわばもののついで程度、だけども狙えるならば確実に狙っていきたいくらいの重さはある鬱憤晴らし。
調査戦隊の元メンバー、とりわけ中枢にいたんだからこのくらいは当然、考えているよねー……むしろ何をおいても復讐優先! ってなってない時点でまだ良心的ですらあるよー。
「それは困る、と言ってもお前は聞かないのだろうな……」
「エウリデが混乱に陥れば冒険者の活動も阻害される。そこを考慮に入れてみてはくれないのかい?」
「入れた上で断じるぜ、どーでもいいってな。冒険者なんてのァ別にエウリデじゃなくてもできるこった、せいぜいこの国が滅びて喰い散らかされていくのを外から眺めながら、ほとぼりが冷めるまで他所で迷宮なり未踏破区域なりを攻めていけば良い」
「それはそうかもでござるが……いたずらに被害を拡大させるのもどうかと思うでござるよ?」
「知ったこっちゃねえ。そもそも上層部不在となりゃそんな混乱も起きずに他所の国も食い込んでくるだろ、カミナソールよりかは酷いことにゃならん。それでも出る被害は、まぁアレだ、運が悪かったってやつだな」
うーん、恐ろしく無責任。自分の行動でもたらされるあらゆることを一切頓着せず、背負おうとも抱えようともしない姿はいかにも冒険者なんだけど、少なくとも一団を率いる者の姿じゃないねー。
見れば彼女側であるはずのミシェルさんでさえ、言いたいことをグッとこらえている感じがあるしー。器じゃないのがここに来て露呈してきたね。
少なくとも復讐なんてのはリーダーたる者が口にしちゃいけないって、レイアを見て学ばなかったみたいだよー。
じゃあ、ここは一つ本物のリーダーにお声掛け頂こうかな?
貴族として、新世界旅団団長として風格たっぷりのシアンさんを僕は見た。
──彼女は当たり前に、暴虐を説くリューゼリアを制止していた。
「あなたの復讐にエウリデの民をも巻き込まないでいただきたいですね」
一刀両断。まさにそう呼ぶに相応しい断言をもって、団長はリューゼリアを諌めた。
同時に再度、放つカリスマ。ついさっき他ならぬリューゼ相手に覚醒した威圧は、彼女の言葉に重みを持たせ、聞く耳を持たない女傑にさえも届くだけの力がある。
今度は格下としてでなく、ある程度同格の相手だと見たのだろう。リューゼはまっすぐに忌々しげな目でシアンさんを見つめ、呻いた。
「ンだと……?」
「言い換えましょうか? 八つ当たりと。なるほど経緯を考えればこの国の王族貴族はそうされるだけのことをしました。ですがそれをもってなんら関係ない国の民にまで応報を求めるのは、明らかにあなたに許された復讐の範囲を超えています」
シアンさんの言葉はなおも鋭い。この場にいる誰もが思っていただろう、八つ当たりだろそれ……って思いをハッキリと口にしたよー。
そう、ぶっちゃけリューゼの物言いなんて半分以上が八つ当たりだ。
エウリデの王族貴族への恨み辛みは彼女自身のもので、それ自体は正当なものかもしれないけれど、エウリデ国民にまで波及させてはいけないものであるのもたしかなんだ。
だって調査戦隊の解散にエウリデ国民なんて何一つ関わってないんだし。それで復讐の対象とか言って生活を無茶苦茶にされたら、そんなの良い迷惑ってなもんだからねー。
「やられたらやり返す、にも限度というものがあります。やられた分を超えてやり返せば、その超えた分だけ新たな復讐が生まれる。憎悪が連鎖してしまう。それは、冒険者以前に人が踏みとどまらねばならない一線です」
言い切る団長。
冒険者以前に人として、彼女は謂れなき復讐を否定していた。
調査戦隊を瓦解せしめた僕の追放。それを招いたエウリデの脅迫、王族貴族の傲慢、差別意識、そして自己保身に悪意もろもろ──それら含めて、彼女は3年経っても未だ消えることない憎悪を抱き続けているのだ。
「こんな国があるから調査戦隊はあんなことになっちまったんだ、ならいらねーだろそんなもん。多少の混乱がどうした、3年前のオレ達はもっと混乱したってんだよ」
「それが本音か、ラウドプラウズ」
「シミラを助けたいってのが最優先だぜ、もちろんな。だがそれと同時に、どうせやるなら後顧の憂いってやつも絶っておきてえ気持ちがあるってこった。オレ様の怒り、憎しみもここらでスカッとさせときてーしな。シミラとは関係ないところで、オレも頭にきてんだよいろいろ」
ベルアニーさんの苦渋に満ちた顔をせせら笑うように、リューゼはあっけらかんと自身の思うところ、シミラ卿救出と同じくらいに抱えている心の内を明かした。
シミラ卿を救う、これは間違いなく本音だろうねー。でもそれだけじゃない、かつての復讐や意趣返しなんて意図も同時に存在しているんだ。
そしてそれは、シミラ卿救出を邪魔するものでは決してない。
いわばもののついで程度、だけども狙えるならば確実に狙っていきたいくらいの重さはある鬱憤晴らし。
調査戦隊の元メンバー、とりわけ中枢にいたんだからこのくらいは当然、考えているよねー……むしろ何をおいても復讐優先! ってなってない時点でまだ良心的ですらあるよー。
「それは困る、と言ってもお前は聞かないのだろうな……」
「エウリデが混乱に陥れば冒険者の活動も阻害される。そこを考慮に入れてみてはくれないのかい?」
「入れた上で断じるぜ、どーでもいいってな。冒険者なんてのァ別にエウリデじゃなくてもできるこった、せいぜいこの国が滅びて喰い散らかされていくのを外から眺めながら、ほとぼりが冷めるまで他所で迷宮なり未踏破区域なりを攻めていけば良い」
「それはそうかもでござるが……いたずらに被害を拡大させるのもどうかと思うでござるよ?」
「知ったこっちゃねえ。そもそも上層部不在となりゃそんな混乱も起きずに他所の国も食い込んでくるだろ、カミナソールよりかは酷いことにゃならん。それでも出る被害は、まぁアレだ、運が悪かったってやつだな」
うーん、恐ろしく無責任。自分の行動でもたらされるあらゆることを一切頓着せず、背負おうとも抱えようともしない姿はいかにも冒険者なんだけど、少なくとも一団を率いる者の姿じゃないねー。
見れば彼女側であるはずのミシェルさんでさえ、言いたいことをグッとこらえている感じがあるしー。器じゃないのがここに来て露呈してきたね。
少なくとも復讐なんてのはリーダーたる者が口にしちゃいけないって、レイアを見て学ばなかったみたいだよー。
じゃあ、ここは一つ本物のリーダーにお声掛け頂こうかな?
貴族として、新世界旅団団長として風格たっぷりのシアンさんを僕は見た。
──彼女は当たり前に、暴虐を説くリューゼリアを制止していた。
「あなたの復讐にエウリデの民をも巻き込まないでいただきたいですね」
一刀両断。まさにそう呼ぶに相応しい断言をもって、団長はリューゼリアを諌めた。
同時に再度、放つカリスマ。ついさっき他ならぬリューゼ相手に覚醒した威圧は、彼女の言葉に重みを持たせ、聞く耳を持たない女傑にさえも届くだけの力がある。
今度は格下としてでなく、ある程度同格の相手だと見たのだろう。リューゼはまっすぐに忌々しげな目でシアンさんを見つめ、呻いた。
「ンだと……?」
「言い換えましょうか? 八つ当たりと。なるほど経緯を考えればこの国の王族貴族はそうされるだけのことをしました。ですがそれをもってなんら関係ない国の民にまで応報を求めるのは、明らかにあなたに許された復讐の範囲を超えています」
シアンさんの言葉はなおも鋭い。この場にいる誰もが思っていただろう、八つ当たりだろそれ……って思いをハッキリと口にしたよー。
そう、ぶっちゃけリューゼの物言いなんて半分以上が八つ当たりだ。
エウリデの王族貴族への恨み辛みは彼女自身のもので、それ自体は正当なものかもしれないけれど、エウリデ国民にまで波及させてはいけないものであるのもたしかなんだ。
だって調査戦隊の解散にエウリデ国民なんて何一つ関わってないんだし。それで復讐の対象とか言って生活を無茶苦茶にされたら、そんなの良い迷惑ってなもんだからねー。
「やられたらやり返す、にも限度というものがあります。やられた分を超えてやり返せば、その超えた分だけ新たな復讐が生まれる。憎悪が連鎖してしまう。それは、冒険者以前に人が踏みとどまらねばならない一線です」
言い切る団長。
冒険者以前に人として、彼女は謂れなき復讐を否定していた。