何はともあれ迷宮を上がっていく。ショートカットルートを通ればもっと早くに帰れるんだけど、レオンくん達と合流しないといけないからねー。
 地下19階から上の階層なんて、僕やリューゼからしてみれば庭先みたいなものだ。サクラさんも合わせて3人の実力者の気配に、モンスターたちさえすっかり怯えて近寄ってこない。楽に登っていけるよー。

「チッ、相触らずどこの迷宮もモンスターどもめ、オレ様にビビり散らかして近づいてすら来やしねェ。まー今だけは空気読めてるってなもんだけどなァ」
「よその迷宮でも似たようなものなんだ……」
「どこであれモンスターはモンスターでござるからなあ。弱わそうなら襲うでござるし、強そうなら近づかない。利口といえば利口なもんでござるよ」

 野生の本能かなー?
 生存能力も普通にあるモンスターの生態って不思議だねーみたいな話をしつつさくさく上階へ。襲ってくる連中がいないと滅茶苦茶スムーズに進めるから、あっという間に地下10階まで登ってこれたよー。

 そのまま良い感じに9階、8階と進んでいくと、そこでついに僕達は彼らの姿を目にした。
 ミシェルさんを上下から挟み撃ちにするつもりで正門、地下1階から冒険を開始していた、レオンくん達パーティーと合流できたんだ。

 彼らは彼らで地下8階まで降りてきていたんだね、結構早いよー。
 感心しつつ視界に入った彼らに手を振って呼びかけると、レオンくん達もまたこちらに気づき駆け寄ってくる。びっくりするだろうなー、まさかミシェルさんのみならずリューゼまで釣れるなんてさー。

「うわ早っ! もうこっちまで登ってきたのかって──え、デカっ!?」
「え、二人? どっちが探してたミシェルって人なの?」
「あわわはわわ、怖いですぅぅぅ……!」

 案の定、レオンくんにマナさんノノちゃんの3人は予想外のもう一人に驚いている。身長の高さやそもそも2人なこと、あるいはとにかくビビってピーピー鳴いてたりするけど概ねビックリって感じだよ。
 ともあれザクッと説明する。ミシェルさんを見つけたと思ったらリューゼまでいたから一緒に連れてきた。これから一緒にギルドに行って話し合いするんだよー。

 特にレオンくんの反応がすさまじく、瞳を盛大に煌めかせてマジかよ、マジかー! って迷宮内を憚ることなく大声で叫んだんだ。
 
「ま、ま、マジかよレジェンダリーセブンのひ、一人が! "戦慄の冒険令嬢"リューゼリア・ラウドプラウズさんがこんなところに!?」

 鳥肌すら立てている様子はまさしく"戦慄"だねー。リューゼのやつ、敵対する連中ばかりかファンまで戦慄させるとは腕を上げたね、やるなー。
 その強さ、その姿、その言動をして相対する敵をことごとく戦慄させ震撼させてきた冒険令嬢さんは、ニヤリと笑って腕を組んだ。それなりに豊満なバストが持ち上げられてつい目が行きそうになるけど、バレたら盛大にからかわれるから我慢!

 面白がりつつもどこか呆れた調子で、リューゼはレオンくんに応えた。

「おいおいこんなところって、ここはこの辺の冒険者のメイン戦場だろォ? オレ様だって冒険者なんだからよ、この町に来たらこの迷宮に潜るわなァ」
「だからって町にも入らず初っ端から迷宮に潜るなんてお前くらいだよー? そーゆーところは相変わらずの無軌道さだねー」
「うっせーチビ、そういうテメェはずいぶん軽口叩くようになったじゃねぇかよ、ァア? 3年前からは考えられねーぜ」

 軽口の応酬。彼女の言う通り3年前には考えられなかったやり取りだ。何せ僕がこんなんじゃなくて、そもそもあんまり会話が成立しなかった口だからねー。
 ふんぞり返って話すリューゼだけれど、実際この近辺まで来ておいて町に寄るより先に迷宮に潜るなんて頭がだいぶおかしい。ミシェルさんとの待ち合わせ場所が地下19階だったからと言って、普通は町に寄って準備くらい整えてもおかしくないのに。

 まあ、そんな無茶な強行軍でも問題ないってくらい、リューゼの実力が高いってことではあるんだろうけど。リスクは考えたほうがいいとは思うよねー。
 仕方ないなあと思っていると、不意にヤミくんがマントをくいくいって引っ張ってきた。何やら気になることがあるみたいだ、なんだろ?
 
「杭打ちさん。この人が、前にいたパーティーのお仲間さんなの?」
「ん……まあ、ね。今はもしかしたら対立するかもしれないってくらいの、間柄だけど」
「そうなんだ……知り合いが敵になるの、良くないと思うよ」
「仲良くやれるならそれが一番ですよね……」
 
 ヒカリちゃんともども、心配そうに不安気に僕を見上げながら言ってくる。かつての仲間と揉めるかもってことで、僕を気遣ってくれてるみたいだ。
 いい子達だよー。優しいよー。レリエさんといいこの子達といい、あるいはマーテルさんといい古代文明の生き残りってみんなこんな素敵な人達なのかなー。

 優しく愛らしい双子にほっこりして、僕は薄く笑って二人の頭を撫でる。くすぐったそうにしている姉弟の姿は、迷宮にそぐわぬ平和な光景だった。