さて、話もそこそこに僕達は町の内外を隔てる門に辿り着いた。四方あるうち、東側の門だね。
 スラムから一番近い門がここで、ミシェルさんが孤児院出身であることを加味してまず真っ先にここをあたることにしたんだ。
 
「スラムに寄ってから外へ出る可能性もあるからね。久しぶりに故郷の地を踏んだ人なら、十分にありえる行動かなって」
「ま、そうでなくとも虱潰しでござるよ。おーい、門番殿ー!」

 推測が当たっていれば何よりだけど外れててもそれはそれとして一つ候補が消えるから成果はある。
 万一まだ町の中にいて、僕らとすれ違いとか行き違う形で外に出たりする可能性もあるわけだけど……それも見越して門番の人に言伝を頼んでおけば良いだろう。
 "ギルド長がギルドまで来てくれって言ってた"とかさ。ミシェルさん真面目そうだし、呼ばれて応じないとかってのはなさそうだしねー。

 さておき門が見えてきて、サクラさんが門番さんをさっそく呼び出した。
 槍を持った、いかにも暇してますーって感じの死んだ目をした男の人がやって来る。僕ともよく話す人で、やる気はないし金にがめついけどそれなりに腕の立つ人だよー。

 そんな彼は渋々といった感じに門前に立ち、僕とサクラさん、レオンくん達を眺め──彼にしては珍しく、目を丸くして怪訝な顔を浮かべた。
 驚きも露わに僕へと話しかける。

「んんっ……なんだ杭打ち、えらい大所帯だな今日は。噂の新世界旅団ってやつか?」
「あー、いや……別のパーティーの人もいるけど。それよりちょっと聞きたいことが」
「なんだなんだ? 給料なら低いぞ」

 誰も聞いてないし聞くわけもないよ、そんな他人の給料なんてー。ヘラヘラ笑う門番さんに、相変わらずだなあって呆れてしまう。
 サクラさんも、レオンくん達も苦笑いしつつも適当に流している。お金の話なんてトラブルの元でしかないんだから、そういうしがらみを割と嫌う冒険者としては反応に困るよね。
 変に気を使った結果、お金を集られたりでもしたら洒落にもならないし。

 聞かなかったことにして僕は門番さんに人探しの旨を伝えた。ベリーショートの小柄なお姉さん、身の丈よりはるかに大きな剣を担ぐ軽装の冒険者を差がしていて、細かいことは言えないけどギルドからの依頼だって、ねー。

 そこまで話したところ、彼はふうむとつぶやいた。そして心当たりのある無しを僕へと語る。
 
「ザンバー? ってのがイマイチ想像つかんが……身の丈より明らかにデカい得物担いだ、そんな風貌した女なら今朝方通っていったぞ」
「! それでござるな、おそらく」
「さっすが杭打ち、ドンピシャじゃねえか!」
「杭打ちさん、すごいや!」
「えへ……コホン。それでその人は? 町を出発して別の地に向かう感じだった?」

 まさかの一発目でビンゴ! ミシェルさん、やっぱりスラムに寄ってから外へ出たんだねー。
 レオンくんやヤミくんが尊敬の眼差しで僕を見てくる。どやあ! なんてついつい顔が緩んで素で笑いそうになるけどいけないいけない、我慢我慢。

 ソウマ・グンダリならともかく今の僕は冒険者"杭打ち"だからね。クールで寡黙で素敵でミステリアスやプロフェッショナルなんだから、ニヤニヤなんてしてはいけないのだ。モテなさそうだしねー。
 さておき、門番さんがさらに続けて語るのに耳を傾ける。
 
「いや、ありゃあ迷宮に潜る装いだったぜ完全に。ご当人も言ってたしな、久々に迷宮に行くとかなんとか」
「久々……間違いないね、彼女だ」
「お手柄でござるよ門番殿、これちょいとだけお礼でござるー」
「!」

 追加で迷宮に潜るのが久々、なんて発言まで出てきたんだからなあ。もはやミシェルさん以外にありえないよ、そんな言葉が出てくる冒険者なんて。
 この町に定住して活動している冒険者なら、まず間違いなく迷宮には結構な頻度で潜るからねー。久々、なんて物言いの時点で外部からの来訪者なのは確定なんだよー。

 思った以上に良い情報をくれた門番さんに、サクラさんがこそっと懐からコインをいくつか取り出してこそっと渡した。
 エウリデにおいて2番目に価値の高いもので、一枚だけでもそこそこ豪遊できちゃう代物だね。

 まあ、いわゆる情報料だねー。この手のやり取りは薄給らしい門番にとっては裏の仕事らしくて、この門番さんも例に漏れずいろいろと見聞きしたものを喋ってはそれでお金を受けとったりしている。
 冒険者的には全然問題ないんだけど国的にはよろしくないようで、いつもこうして金銭のやり取りについてはなるべくこっそり、ソソクサとが基本みたいだ。
 今もほら、お金を受け取った門番さんが素知らぬ顔しながらも嘯いている。
 
「いやーどうもどうも。今後ともご贔屓にな」
「バレないようにしなよ……冒険者はともかく国はうるさいんだから」
「分かってる分かってる。んじゃな、冒険者諸君。まあ人探し頑張り給えよー」
 
 僕からの忠告に、ひらひらと手を振りながら門番さんは去っていく。
 本当に飄飄としてるなあって呆れ混じりに感心する僕だった。