なんとも大胆かつストレート、そしてうまく決まればこんなに効果の大きい話もなかなかないんだけれど……シアンさんはそれを聞いてどこか、表情を強張らせていた。
 それさえ微笑みの中で冷静に見つめながら、モニカ教授が続けて告げる。

「さて、シアン団長。かつて調査戦隊のブレインを務めたこともあるこのモニカ・メルルークからの提言だよ。やがてこの町にソウマくん目当てで来るだろう、レジェンダリーセブン達を新世界旅団へと勧誘するべきだ。そしてその一環としてまずはシミラ卿を救出がてら団員にするのがいい。いかがかな?」
「……大きな懸念が私の中に一つ、あります。答えてもらえますか? いえ、答えなさいモニカ・メルルーク」
「ふふ、もちろん。良いね団長、遠慮がない君はやはり器を感じさせる。未完ゆえに可能性を感じさせるよ、底知れない大器をね」

 もはや敵と相対するにも似た警戒心と真剣度で向き合う団長へ、軽く笑いながらも賞賛を口にするモニカ教授。
 あるいはバカにしている、嘲笑っているとさえ見れなくもないけど……この人、本気でシアンさんのこと気に入ってるねー。もしかしたら本当にレイア以上の器だって認めてさえいる可能性まであるよー。

 昔からそうなんだけど教授は、本気の本音ほど軽く笑って流すように嘯く時があるからね。
 かといって真面目ぶって話す時にも割と本音だし、単純な茶化しでせせら笑ってる時もあったりと読みにくい人なんだ。ミストルティン曰くの"捻くれ者"とはまさに的を射た言葉だねー。

 とはいえシアンさんにそんなモニカ教授の内心なんて伝わるはずもないし。彼女は当然、教授への疑念というか、懸念を抱いたままだ。
 そしてその懸念とは何か。新世界旅団の今後を左右するだろう質問が、団長の口から示された。

「つまるところ……あなたは調査戦隊を復活させたいだけなのでは? レジェンダリーセブンがいて、その他の元調査戦隊メンバーも多いパーティー……名義のみ新世界旅団でしょうが、それはもはや調査戦隊そのものでしょう」
「違うよ。断言するが、調査戦隊など3年前に滅び朽ち果てた遺物だ。今さら復活させたところでなんの値打ちもありはしない、虚無だ」

 即答する教授。だけどシアンさんの抱える疑問を知って僕やサクラさんは、一気にその不安を理解し、そして警戒を強めた。
 調査戦隊復活……レジェンダリーセブンを集結させてまとめて取り込もうって話なら、当然考えつく懸念だ。仮に取り込めなかったとしても七人が一箇所に集まる、なんていかにも再集結の兆しみたいだしねー。
 あのパーティーを再組織するため、新世界旅団をレジェンダリーセブンを呼び寄せる餌にした。なーんていかにも教授っぽい策な気もしなくないって、僕でさえ思っちゃうよー。
 

 ──本当にそうだった場合、僕は迷わず教授を殺すし、集まったレジェンダリーセブンには帰れって言うけどね。


 新世界旅団を本気の熱意で組織しようとしているシアンさんの想いを踏みにじるなら、誰が相手でも絶対に容赦はしない。
 僕はもう、ソロの冒険者でなければ元調査戦隊ってだけの僕でもないんだ。新世界旅団のメンバーにして象徴を任せられている"杭打ち"、ソウマ・グンダリなんだからね。最優先事項はとにかく新世界旅団だし、もっと言えば団長たるシアンさんなんだよ。

 そんな僕の思いを知ってか知らずか、今その辺を疑われまくりのモニカ教授は続けて僕らに言葉を重ねる。
 これは新世界旅団のための提言であり、調査戦隊、レジェンダリーセブンのためのものではない、ということをつらつらと。

「新世界旅団の中枢メンバーはあくまで団長、副団長、そしてソウマくんだ。レリエも入れていいかもしれない。レジェンダリーセブンや元調査戦隊メンバーなど、所詮戦闘要員程度に数えてしまってもいいくらいだよ」
「えっ、私も中枢!? ていうかあなた自身はどうなのよ」
「私は初期メンバーには数えられても中枢にはなり得ないだろうね。"この人が抜けたらパーティーは成立しなくなってしまう"という要員を中枢メンバーとするのだから、たまたま早期に加入して策を献じているだけの私はその定義には当てはまらない。調査戦隊在籍時も、私は中枢メンバーではなかったからね」

 私がいたところで、調査戦隊も新世界旅団も精々が賢しらな手段が多少打てたというだけの違いしかなかったよ──とまで言って肩をすくめる。
 態度とは裏腹に、自分の立ち位置や値打ちについては低めに見てるのもこの人らしいところではある。主観的評価で自分を見るから客観的にどう見られているかについては、ちょっと怪しいところがあるんだよー。
 
 でも、中枢メンバーって誰? って話になるとたしかに現状、僕とシアンさんにサクラさん、あと加えても補欠的な感じでレリエさんの4人ってことになるんだろう。
 能力や役職に関係なく、旅団のはじまりはこの4人と言えるからねー。