示された最悪の展開。冒険者達とエウリデの全面衝突からの不毛な内乱状態への移行を、万が一の最悪のパターンであったとしても示されて室内はまるで寒い冬のように凍てついている。
 みんな、どうしたものかと頭を悩ませているようだった……僕もそうだよ。そもそも今僕らにできることってなんだろう? ってところから悩みだしちゃってるよ、僕ー。

 ウンウン悩む一同を眺め、モニカ教授は一つ咳払いをした。集められる視線。
 最悪を提示したのが彼女なら、それに対する解決策を用意するのも彼女ってことみたいだった。不敵な笑みを浮かべながらも、シアンさんを見据えて話す。

「さて団長、我らが新世界旅団はどうするね? 一応献策させていただくとすれば、ここは我々にとっては千載一遇のチャンスだ」
「千載一遇? それはどういうことでござる?」
「知れたこと。シミラ卿を救い出し、かつその場で旅団の新メンバーとして加入させるのさ。最悪の事態を回避できるし、我々の戦力もアップするし、知名度も大きく上がる。いいことづくの一石三鳥の策だよ」
「な……」
 
 絶句するシアンさん。モニカ教授が不敵に笑うのと対照的に、思いもしなかったって感じで息を呑んでいる。
 シミラ卿を救う、ここまでは考えていたことだと思う。だけどそこからさらに、彼女を新世界旅団に引き入れることで僕らの存在、名前を広める機会に仕立てるなんてのは、真っ直ぐな団長には考えつきもしなかったことなのかもしれない。

 その点、僕はこの手の提案に特に驚きはない。
 昔から教授って、一手でいくつもの成果を挙げるような策を練りがちだからねー。そして一般にそこまでやる? ってなりそうなことだって躊躇なく提案する、型破りな人でもあるからねー。
 ドヤ顔さえ浮かべながらも、教授はつらつらとシミラ卿仲間入りのメリットを述べていく。

「いいかい? 目下のところ我々のやるべきことは戦力の増強だ。新世界旅団を調査戦隊同様、いやさそれさえ超える冒険者集団とするためには、今いる我々だけでは実はともかく量が足りない。圧倒的に足りない」
「それはまあ……そもそも正式登録すらしていませんからね、まだ。追加人員の募集は折を見て、ギルド内にて広く呼びかけようとは思っています」
「公的には新世界旅団はまだ発足すらしていないのが現状なんだ。だが、だからといって呑気していていいはずもない。今のうちから有能な人材をどんどんと集めたほうがいいのは言うまでもない話さ。いわゆる初期メンバー集めだね」

 新世界旅団は未だ、冒険者ギルドには登録していないパーティーだ。それっていうのも団長のシアンさんの意向で、最低限彼女が学園を卒業してからの登録にしたいからだね。
 曰くエーデルライト家は代々、学業優先にしつつ卒業後は冒険者として本格的に活動するとのことだ。
 とても貴族の家訓とは思えないんだけど、ともかくそういう理由から公的にはまだ、僕らはただの冒険者あるいは学生関係者の集まりに過ぎないってことだった。

 だからこそ、登録するまでの間に少しでも戦力や体制を整えておきたいってのはシアンさんにもサクラさんにももちろん、あったろう。
 でもまさかこの状況、窮地に陥っているらしいシミラ卿をターゲットにするのは、さすがにちょっとって思ってるみたいだねー。両人ともにえっ? て顔をしてるよー。
 困惑する2人に代わり、教授との付き合い方には慣れてる僕が尋ねた。

「その初期メンバーに、シミラ卿を加えるってこと? たしかに彼女の実力は調査戦隊時代から大幅に伸びて、Sランク相当とも言えるほどだけど」
「私の考えでは本来の流れで言えば、シミラ卿は騎士団長のまま安泰だったはずだから想定外といえば想定外なのだがね。まあどのみちレジェンダリーセブンを取り込むべきと進言するつもりではいたのだから、この際一人二人増えても問題なかろうってことだよ、はははは」
「やけに調査戦隊の過去を語ると思っていたら、そんなこと提案するつもりだったのねモニカ教授……」
「無益な過去話に花を咲かせる趣味はないよ。ソウマくんが変に思い悩んでいるのもあったし、憑き物落としがてら彼らの勧誘を提案しようってね」

 ニコニコ笑う教授は美女だけど、どこか詐欺師っぽさが否めない。この人学者してなかったらペテンで食ってたんじゃないかとは、昔からミストルティンやリューゼも言ってたなあ。
 さておき、僕の精神的な憑き物を落とすのと同時に調査戦隊の過去を語り、そこからレジェンダリーセブンがやってくることを予言した一連の流れはすべて彼女が団長に献策するための前フリだったわけだ。

 すなわち新世界旅団にレジェンダリーセブンを勧誘して取り込み、質、量ともに一気に増大を図るという策のねー。
 いかにもモニカ教授らしい提案に、僕はなんだか昔を思い出しちゃうよ。レイアやレジェンダリーセブンのみんなもこんな風に突拍子もない提案を受けていたなあって。