もしかしたら万が一にでも、あられもない格好で水浴びしている女性陣と鉢合わせちゃうかもしれない。
 いやー参ったねいやー、でも僕らも身体洗わないといけないしなー、かー参ったなー。
 
 と、内心で白々しいことを考えつつも僕は高揚を抑えながらも泉の、人の声がするほうに向かう。もちろんレオンくんも一緒だ、いざとなったら彼にすべてを押し付けて僕は素知らぬ顔をしよう。
 何せ巷じゃ年齢も性別も不明瞭な謎の冒険者さんだからね"杭打ち"は。ミステリアスさでどーにか乗り切りたいー。
 
『────あはははっ! もう、やったわねこのー!』
『きゃははははっ! えーい!!』
「! …………!!」
 
 責任転嫁の算段をつけていた、我ながらクズってるなーって感じの僕だけど。泉の畔を辿って進む先、岩陰の向こうから何やら楽園に住まう天使のような楽しげなやり取りを耳にして一際心臓が鼓動を打った。
 女の子達の楽しそうな声。水を掛け合っているのか、バシャバシャと音がする。これは……遊んでいらっしゃるのかな?
 
 冒険者"杭打ち"としては素人ですねとしか言えないけれど、学生ソウマ・グンダリとしてはうおおー! ってテンションの高くなる瞬間だ。
 いやまあ、マジであられもない姿を晒していたとしたら、さすがにこれ以上は踏み込めないけどねー。冒険者"杭打ち"が覗き行為だなんて笑い話にもならないしー。
 
 でもなんかこう、声だけでもこう、ときめくものはあるよねー。
 帽子とマントに隠された僕の顔がだらしなーく緩む。週明けケルヴィンくんとセルシスくんに、僕だって甘酸っぱい青春の1ページくらいは刻めたんだよーって自慢しよーっと。
 
「……なんか楽しそうな声してんな。まさか呑気に水遊びとかしてるんじゃないだろうな、ノノにマナのやつ」
「…………」
「ヤミとヒカリもいるし、そこまで警戒心がないやつらじゃないとは思うけど……と。どうした杭打ち、なんかそわそわしてないか?」
「!?」
 
 レオンくんも岩陰の向こう、何やらはしゃいでる空気を感じ取ったのか訝しみながらも僕を見た。そして内心、本当にはしゃいでる僕の様子にも目を丸くして尋ねてくる。
 
 そそそそそんなことないよよよよよー? ぼほぼぼ僕はクールだよよよよよー?!
 まさかの図星を突かれて、慌てて僕は首を左右に振る。
 決して疚しい行為に及ぼうなどとは考えてないんだ、それは本当なんだ。ただ疚しい光景を想像して鼻の下を伸ばしていただけなんだ、それも本当なんだ。
 
「……! ……!」
「? ……あー、そっか呑気すぎるし気になるよな。悪い、面目次第もねえよ。新人だからって、冒険者としての気構えってやつが抜け落ち過ぎだぜ、うちのパーティーメンバーは」
「…………」
 
 レオンくんはきょとんとしながらも、何やらいいように解釈してくれたみたいだった。どうやら僕が、推定水浴びしているらしい彼女達に対して冒険者として憤っていると勘違いしてくれたみたいだ。
 うへー。ありがたい気もするけど、意識の高くて面倒くさい冒険者みたいな感じに捉えられないかちょっと心配だよー。そういう冒険者もいるにはいるけど、僕は別に、結果さえ出せるならどんなやり方でもいいじゃんって思うほうなんだけどなー。
 
 でもここでいえ誤解ですーってなったら、それこそ僕がよからぬ妄想に身を浸していたことに気づかれちゃうかもしれない。
 ここはあえて、意味深に黙りこくっておこう……
 
「……………………」
「おーいノノ、マナ! 戻ってきたぞ、今そっちで何してるー!?」
『あら? ……レオン、おかえり! 今ヒカリちゃんとマナと身体を清めてるの、ヤミくんが見張りしてくれてるー!』
「やあ。どうもおかえりなさいレオンさん、杭打ちさん」
 
 レオンくんが岩陰の向こうに声を投げかける。するとすぐに仲間のノノさんから返事がきた。どうやら本当に、女性陣だけで水浴びしているみたいだ。
 そして見張りをしていたらしいヤミくんも同時に、近くの茂みから姿を表した。こちらはまだ身体を洗っていないみたいで、ローブのあちこちが血で赤く染まっていた。さすがに肉片はもう落としているね。
 
「おう、ヤミ。無事だったか……っていうか何、子供に番させてんだあいつら」
「僕から言い出したんだよ。お二人が来てなかった以上、僕以外みんな女性だしね。あとで男が揃ったら交代して水浴びするってことで、まあ見張りくらいなら誰でもできるはずだから」
「そう、か……悪い、俺らが遅くなったから、そんなことをさせちまったんだな」
「気にしない気にしない。僕らはしばらく運命共同体ってやつだからね。助け合いこそ肝要だと心得てるよ」
 
 大人びた笑みを浮かべるヤミくん。女性陣への配慮と言いレオンくんの質問に答える落ち着き払った態度と言い、なんだか大物って感じだよー。
 レオンくんがその頭に手を置き、やさしく撫でる。そこでようやく年相応の無邪気な照れ笑いを浮かべる少年は、あと5年もしたらイケメンとして人気を博しそうな中性的な顔つきだ。
 
 こっちもイケメンかー。なんだか今日はイケメンとばっかり会うなー。
 ケルヴィンくんとセルシスくんの普通の顔が恋しい。平々凡々な顔つきの僕としては、なんだかコンプレックスを覚える光景だよー。