失神してぐったりした、襲撃者達全員をふん縛って冒険者達に引き渡す。門番とはまた別の、ギルドお抱えの警邏冒険者達だ。
 この町の治安維持を事実上、ギルドが業務として行っているためこのようなお抱えさんは結構な数がいたりする。

 いわゆる嘱託の形で雇用契約を結んでいて、主な業務は町中、町周辺の犯罪の捜査や犯罪者の引き取り、取り調べと概ね騎士団が本来やるようなことをやってるわけだねー。
 普通は騎士団がやるものなんだけど、この町は冒険者が多くて強すぎるから……自然と敵対関係に近い騎士団は撤退していって、今や人のいい騎士さんが一人駐在しているばかりの有様で。
 だから自分達の町は自分達で護ろうって話になって、今や冒険者達による治安維持が行われているわけだった。
 
「ほら、キリキリ歩け犯罪者ども!」
「くっ……」
 
 手錠をかけられ縄で繋がれ、武装した冒険者達に囲まれつつも襲撃者達が引っ立てられていく。
 結果的に僕とサクラさんの二人を相手取った、なかなかの腕をしている男も同様だ。僕のアッパーで地に沈んだわけでまだダメージが残っているのかフラフラだけど、それでも忌々しげに僕を睨んでくるあたりまぁまぁ元気みたいで何より。
 
 冒険者達のリーダー役、警部らしいおじさんが、気さくな笑みを浮かべて僕達に笑いかけてきた。
 今は屋敷の外、メルルーク一家やレリエさん、ロープで簀巻きにされているガルシアさんもまとめて犯罪者を見送りにここにいる。

 門番の冒険者達も襲撃者にやられたようで、揃って負傷したため病院送りらしい。まったく誰も彼も巻き込んでくれたみたいだね、あいつらはー。
 苦笑いしつつも警部さんが、頭を掻きながら僕たちへと話す。
 
「通報を受けて何かと思えば杭打ちさんにメルルーク教授……調査戦隊絡みの案件かとドキリとしましたが、どうもありゃーそんな単純なわけでもなさそうですなあ」
「どうでしょうかね警部さん。元はと言えばうちの愚兄が杭打ちさんに誹謗中傷をしたのが発端なわけですから、アレも一応調査戦隊だったことを踏まえると、やはり調査戦隊絡みの騒動なのかもしれません」

 ガルシアさんが僕に私怨で絡んできた以上、どうあがいても元調査戦隊メンバー同士のいざこざ、トラブルという話にしかならないと思うんだけど……警部さんはどこか確信めいた感じでそれだけではないと語る。
 そこに食いついたのがモニカ教授だ。気絶している兄をあからさまに見下げつつも持論を語る。概ね僕と同じ意見で、これは結局調査戦隊絡みの騒動の域をでないという意見だねー。

 しかし警部さんは首を横に振った。
 どこか飄々としたユニークな所作で肩をすくめ、タバコを取り出して人差し指から火を出して吸い始める。法術使えるんだこの人、意外ー。
 すぱー、と煙を吐いて、彼は力なく笑う。
 
「切欠はそうかも知れませんが、あれは調査戦隊アンチなんて連中ではないですよ」
「ふむ? 根拠をお聞きしても?」
「連中の一人、杭打ちさんに顎を打たれて今も足元のおぼつかないやつですがねえ、アイツぁ別の事件にも関係してるってんでこっちも探し回ってたやつなんですよ」

 そう言って懐から何やら紙を取り出す──手配書?
 見ればさっきの、ガルシアさんを連れ去ろうとしていた男の人相書きだ。あいつ指名手配食らってる名うての犯罪者だったんだー。

 道理で他のチンピラよりかは動きが良かったはずだよ、筋金入りのダメな人じゃん。
 ほえーってなりながらみんなで覗き込んでると、その手配書をシアンさんに渡しつつ警部さんはさらに続けた。
 
「ノリス・ノーパート。元はBランク冒険者だったのが何がきっかけか足を洗って、逆転して反冒険者運動家に転向した──ま、ある種の活動家ですな。暴力沙汰も頻繁に起こしてるんで、革命家気取りと言ってもいい」
「反冒険者運動……よその町だとまあまあ活発でござったが、この町ではあんまり見なかったでござるなあ、そういえば」
「ここは調査戦隊発祥の地、いわば聖地扱いですからなあ。連中もなかなか手出ししてこれなかったみたいですが、ついに動き出したということでしょう」
 
 やれやれ、と肩をすくめてタバコを吹かす。警部さんは苦笑いしてるけど、言ってることはかなり大変な事態な気がするよー。
 反冒険者運動。まあ字のごとく冒険者や冒険者の活動に対してその存在そのものを否定して妨害するのを目的としている、一種の市民運動だねー。
 主に貴族や一部の一般市民から構成されていて、調査戦隊の活躍によりブームが起きて以降、釣られて活動が活発になっているアンチ連中だと聞くよ。
 
 今までそれらしい運動を見たことなかったんだけど、よその町とかだとデモ行進したり時に暴力まで振るってくるから厄介だってギルド長が言ってたねー。
 まあ冒険者にそんなことしたら普通に暴力で返り討ちにされるから、なかなか大規模な事態には繋がらないってのも聞いてたけど。
 
 そんな連中がついにこの町に?
 僕は目を丸くして、警部さんの話に耳を傾けた。