ギルドからサクラさんの家までは徒歩で大体30分もかからない。普通に歩いてたらいつの間にかたどり着けるような住宅区で、すぐ近くに僕の家もある。
これが僕の家に帰るって場合、わざわざ遠方のスラムにまで行って涸れ井戸に入って旧地下水道を通り、僕が拵えた秘密基地を経由して帰らないと行けないから大変だよー。
「なんでそんな遠回りを……そうまでして隠さなきゃいけないのかしら、正体」
「絶対に厄介事が起きるからねー。第一総合学園の一年生が"杭打ち"だったなんて、下手すると周辺にも迷惑かかっちゃうし」
どうしようもない時はもう、開き直るしかないかなーって程度の気持ちだけれど。それでも普段から僕の正体がバレないようにはしておきたい気持ちもたしかにある。
国やら貴族やら冒険者やらマスコミやら、うっさいのが多いからね。そういうのに周囲の人を巻き込むのはよくないし。
ま、正体を明かすのは学園を卒業してから、つまりは2年後かなー?
卒業と同時に成人するので、そのタイミングで僕もマントと帽子を脱ぎ捨てようかとは思ってるよ。だからそれまで、変な事件に巻き込まれないことを祈るばかりだよー。もう巻き込まれてる気もするけどー。
「……到着ー」
「はい、お疲れ様。サクラにシアン、もう帰ってきてるみたいね」
話をしているうちにサクラさんのお家に到着ー。僕の家と大差ない二階建ての一軒家に、勝手知ったるとばかりにレリエさんが入っていく。
すでにサクラさんとシアンさんは帰ってきているみたいだ、ドアは施錠されていない。なんなら玄関を開けた時点で居間のほうから声が聞こえてきたんだもの、ドロボーさんじゃないならサクラさんなりシアンさんがいるに決まってるよねー。
「おかえりーでごーざござー」
「ただいまー」
住み慣れてないだろうにやり取りはすでに熟れた感さえある、サクラさんとレリエさんの会話。
玄関口で靴を脱いで居間に向かうと、広々とした空間にソファとテーブル、あとデスクが置かれてあって仕事場も兼ねている雰囲気がするね。
僕の家の居間なんかテーブルと椅子と、後は適当なインテリアばかりで雑多な感じになっちゃってるし、質実剛健って感じの見た目なこの部屋はなんだか性格を感じるよー。
「戻りましたね。お疲れ様ですソウマくん、レリエ」
「おつかれでござるー。市街清掃大義にござったねー」
部屋に入るとシアンさん、サクラさんの二人がねぎらいの言葉をかけてくれる。それに頷いて僕とレリエさんはテーブルの椅子に座り、人心地つけた。
ソファにはサクラさんが、デスクにはシアンさんが座っている。客人のはずのシアンさんがいかにも家の主ですって感じでデスクに座ってるのは、新世界旅団の団長だからってことでサクラさんが強く推してのことだった。
なんでもヒノモトだと、上座に一番偉い人間が座るものだというマナーがあるようで。少なくともエウリデの、それも冒険者の中ではあんまりない風習なんだけど上下関係を明確に可視化するって意味ではまあ有効なのかなーとは思う。
というわけでシアンさんも最初は渋っていたものの、半ば押し切られる形でデスクが定位置になっているわけだねー。
本人は未だに座りが悪いのか、ちょっと気まずそうにしてるのがかわいいよー。
「戻りましたー。いやあ、なんかいろいろ珍しいことが起きちゃいましたよー」
「ソウマくんは今日も大活躍だったわよ、シアン」
「そうなの? こちらはいつもどおりと言っていいのか……相変わらずいなされっぱなしの訓練だったわ」
「始まったばっかでござるからねー。これからこれからーでござるー」
肩を落としてガックリって感じのシアンさんをケラケラ笑って励ますサクラさん。どうやら今日もバッチリ、ヒノモト流の特訓をしたみたいだ。
さすがに実力差が違いすぎるし、シアンさんが今やってる走り込みや打ち込みの訓練を終えて次のステップに向かうまでには結構な時間がかかるかもねー。
明らかに現段階では基礎を作り込んでいる様子だし、ここはしっかりと鍛え抜いてもらいたいよー。
今の頑張りは必ずいつか、遠い未来にシアンさんの強さを支える強靭な屋台骨になってくれるはずだから、ね。
「どんな実力者も結局のところ、最後に物を言うのは土台の体力と基礎技術だからねー。逆にここさえしっかりできてればシアンさんは、今後どんなスタイルの冒険者を志したところで問題なく切り換えるよ」
「つまりは応用に至る前の、基本をまず極めろ……ということですよね? ソウマくん。サクラにも言われているのですが、どうしてもなかなか焦ってしまって」
「その焦りを鎮めつつ、ひたすら己の研鑽に励めるメンタルを作り上げるのもこの特訓の目的の一つでござるよー。精進精進、でござるー」
身体を鍛え、経験を積ませ技術を高めさせるのみならず精神面を強くするためにも。
サクラさんが楽しげに笑ったように、シアンさんの精進はこれからかなーり続きそうだったよー。
これが僕の家に帰るって場合、わざわざ遠方のスラムにまで行って涸れ井戸に入って旧地下水道を通り、僕が拵えた秘密基地を経由して帰らないと行けないから大変だよー。
「なんでそんな遠回りを……そうまでして隠さなきゃいけないのかしら、正体」
「絶対に厄介事が起きるからねー。第一総合学園の一年生が"杭打ち"だったなんて、下手すると周辺にも迷惑かかっちゃうし」
どうしようもない時はもう、開き直るしかないかなーって程度の気持ちだけれど。それでも普段から僕の正体がバレないようにはしておきたい気持ちもたしかにある。
国やら貴族やら冒険者やらマスコミやら、うっさいのが多いからね。そういうのに周囲の人を巻き込むのはよくないし。
ま、正体を明かすのは学園を卒業してから、つまりは2年後かなー?
卒業と同時に成人するので、そのタイミングで僕もマントと帽子を脱ぎ捨てようかとは思ってるよ。だからそれまで、変な事件に巻き込まれないことを祈るばかりだよー。もう巻き込まれてる気もするけどー。
「……到着ー」
「はい、お疲れ様。サクラにシアン、もう帰ってきてるみたいね」
話をしているうちにサクラさんのお家に到着ー。僕の家と大差ない二階建ての一軒家に、勝手知ったるとばかりにレリエさんが入っていく。
すでにサクラさんとシアンさんは帰ってきているみたいだ、ドアは施錠されていない。なんなら玄関を開けた時点で居間のほうから声が聞こえてきたんだもの、ドロボーさんじゃないならサクラさんなりシアンさんがいるに決まってるよねー。
「おかえりーでごーざござー」
「ただいまー」
住み慣れてないだろうにやり取りはすでに熟れた感さえある、サクラさんとレリエさんの会話。
玄関口で靴を脱いで居間に向かうと、広々とした空間にソファとテーブル、あとデスクが置かれてあって仕事場も兼ねている雰囲気がするね。
僕の家の居間なんかテーブルと椅子と、後は適当なインテリアばかりで雑多な感じになっちゃってるし、質実剛健って感じの見た目なこの部屋はなんだか性格を感じるよー。
「戻りましたね。お疲れ様ですソウマくん、レリエ」
「おつかれでござるー。市街清掃大義にござったねー」
部屋に入るとシアンさん、サクラさんの二人がねぎらいの言葉をかけてくれる。それに頷いて僕とレリエさんはテーブルの椅子に座り、人心地つけた。
ソファにはサクラさんが、デスクにはシアンさんが座っている。客人のはずのシアンさんがいかにも家の主ですって感じでデスクに座ってるのは、新世界旅団の団長だからってことでサクラさんが強く推してのことだった。
なんでもヒノモトだと、上座に一番偉い人間が座るものだというマナーがあるようで。少なくともエウリデの、それも冒険者の中ではあんまりない風習なんだけど上下関係を明確に可視化するって意味ではまあ有効なのかなーとは思う。
というわけでシアンさんも最初は渋っていたものの、半ば押し切られる形でデスクが定位置になっているわけだねー。
本人は未だに座りが悪いのか、ちょっと気まずそうにしてるのがかわいいよー。
「戻りましたー。いやあ、なんかいろいろ珍しいことが起きちゃいましたよー」
「ソウマくんは今日も大活躍だったわよ、シアン」
「そうなの? こちらはいつもどおりと言っていいのか……相変わらずいなされっぱなしの訓練だったわ」
「始まったばっかでござるからねー。これからこれからーでござるー」
肩を落としてガックリって感じのシアンさんをケラケラ笑って励ますサクラさん。どうやら今日もバッチリ、ヒノモト流の特訓をしたみたいだ。
さすがに実力差が違いすぎるし、シアンさんが今やってる走り込みや打ち込みの訓練を終えて次のステップに向かうまでには結構な時間がかかるかもねー。
明らかに現段階では基礎を作り込んでいる様子だし、ここはしっかりと鍛え抜いてもらいたいよー。
今の頑張りは必ずいつか、遠い未来にシアンさんの強さを支える強靭な屋台骨になってくれるはずだから、ね。
「どんな実力者も結局のところ、最後に物を言うのは土台の体力と基礎技術だからねー。逆にここさえしっかりできてればシアンさんは、今後どんなスタイルの冒険者を志したところで問題なく切り換えるよ」
「つまりは応用に至る前の、基本をまず極めろ……ということですよね? ソウマくん。サクラにも言われているのですが、どうしてもなかなか焦ってしまって」
「その焦りを鎮めつつ、ひたすら己の研鑽に励めるメンタルを作り上げるのもこの特訓の目的の一つでござるよー。精進精進、でござるー」
身体を鍛え、経験を積ませ技術を高めさせるのみならず精神面を強くするためにも。
サクラさんが楽しげに笑ったように、シアンさんの精進はこれからかなーり続きそうだったよー。