ブランドンさんとの談笑も少しして、彼は早速ステーキを用意しにかかってくれた。しばしの時間、レリエさんと二人で待つよー。
 この待ち時間ってのもまた堪らないんだ、長ければ長いほど期待が膨らむ。空腹を抑えてよだれを垂らす気持ちで待つこのタイミングが、美味しくいただくための最高の調味料と言えるのかもしれないねー。
 
「あー、まだかなまだかなー」
「もう、ソワソワしないの。さっきまであんなに歴戦のベテラン冒険者だったのが、あっという間に小さな子供さながらねえ」
「えへー」
 
 レリエさんに窘められて照れ笑い。どっちが保護者なんだか分からないね、これー。
 でも年齢的には親子というか、年の離れた姉弟って感じなのかな? サクラさんともそんな年齢差だし、なんならシアンさんも年上だし。
 そう考えると新世界旅団でも最年少って僕になるんだねー。調査戦隊でももちろんダントツ最年少だったから慣れっこといえば慣れっこなんだけど、うー、そろそろ弟分や妹分が欲しかったりするかもー。
 
「へいよお待ち! 特上ステーキ400gを2人前だぁ! たっぷり食ってでっかくなれよ!」
 
 と、ついにブランドンさんが料理を持ってきてくれた!
 木板に鉄板がはめ込まれたプレート、その上にはでっかいお肉の塊がジュージュー音と煙を上げて美味しそうに焼けているよー!
 付け合せにカットしたお野菜もついて見た目も彩り豊かだ。うひゃー美味しそう!

「待ってました!」
「デカっ! っていうか、こないだのステーキもだけどすっごいいい匂い……疑似肉ではありえない、本物の肉の焼ける匂いね……」
「え。疑似肉?」
「なんだそりゃ、なんの肉だいお嬢さん?」

 見るからに涎が出る威容に興奮する僕をよそに、レリエさんは大きさもさることながら特に匂いに注目していたみたいだった。
 聞いたこともない謎のお肉を引き合いにしてるよ。本物の肉と比較するってことは、偽物の肉ってことー?
 ブランドンさんも気になったか質問すれば、彼女は少し考えてから答えてくれた。

「あー……人工的に作った肉と言いますか。豆をすりつぶして捏ねたりいろいろして肉っぽく仕上げたものを私の故郷ではよく食べていたんです。肉の代用品ですね」
「へー、聖職者みたいな食文化してんのな。たしか肉食禁止だったろ、聖ガブラール王国なんかじゃ一般的とは聞くが、そこの出身かい?」
「いえ、もっと田舎の、誰も知らないような小さな国ですよ。ベジタリアンというわけでもありませんしね。ふふ……」
 
 淑やかに笑いつつも詮索しないでーって感じのオーラを振りまくレリエさんに、ブランドンさんも込み入ったものを悟ったのかなるほどと頷く。さすが、察しのいい人だよー。
 彼女の故郷、つまりは古代文明だと肉食はあまりされてなかったってことかな。豆を肉のようにして食べるなんて想像もできないけど、なんかすごい技術とかでできちゃうんだろうなー。
 
 さておき、目の前のステーキを冷ます手はなく実食だ。なおも美味しそうな音を立てて焼かれるステーキは、焼き加減はミディアムレアって感じでナイフで切り分けると内部はちょっぴり赤い。
 この、ビミョーな火加減が良いんだよねー! 早速一切れ、と言うには大きめに切ったお肉をフォークで刺して口に運ぶ。大口開けて頬張れば、あっという間に口の中に広がる肉汁!
 ああ、これだよこれ! 幸せの味が舌の上で弾けてとろけるー!
 
「んんん! 美味しいー!!」
「いただきます……あむ、っ!?」

 噛めば軽い弾力とともにちぎれる柔らかさ、そしてその度あふれる肉のお汁、旨味! 最高だよー!
 レリエさんも何やら手を合わせて──なんだろ、古代文明の流儀かな? ──一口サイズに切って食べる。途端に目をカッと見開いて、あまりの美味しさに硬直しちゃった。

 たっぷり数秒、固まってから眼下のプレート、焼けるステーキをじっくりと見る。
 感動に打ち震えて彼女は、混乱したようにつぶやいた。
 
「すご、おい、え、美味しい……! 美味しすぎる、嘘、何これ」
「えへへ、最高でしょー!」
「ええ、本当に、信じられない……わ、私が食べてきたものは、あれはあれで美味しかったけど……本物と比べると別物なのだと、これを食べたらすぐに分かっちゃったわ」
 
 僕の言葉に、愕然とかつての食生活を省みてるみたい。唖然としてる姿もかわいいよー、15回目の初恋で胸がドキドキするよー。
 驚く彼女はそれだけで見てて楽しい。ステーキは柔らかくて美味しくて食べて楽しいし、ここはまさしく楽園だよー!
 
「冷めないうちに食べるのが一番美味しいよー。レリエさん、どんどん食べよー!」
「ええ……ええ! 食べるわ! 一口一口よく味わって、食べるわ……!!」
 
 涙すら浮かべてお肉を食べていくレリエさん。疑似肉ってお肉の代用品、いま食べてるこれとはまた違うのかなー? それはそれで気になるよー。