その日の深夜、日付が変わる瞬間僕は涼にメッセージを送った。
「涼くん誕生日おめでと! 今日はすごく楽しかった。ありがとう。これからも仲良くしてね」
 ナナの文体、ナナの絵文字使いでメッセージを送った。
「ありがとう。ナナちゃんが一番乗り! ナナちゃんのこういう律義なとこ、最高」
 涼らしく即、返信が来た。僕はそれがとてつもなく嬉しかった。

 大規模なアカウントBANの結果、僕が解散宣言をするまでもなくギルドは自然消滅した。涼には、「オフ会における迷惑行為として運営に通報したら運営が動いた」と報告した。“ナナ”としての僕が“七尾和馬”としての僕に報告した、とすれば嘘はついていない。僕は勝手にそう結論付けた。
 約束通り涼と僕で新しいギルドを立ち上げた。僕は紅一点リーダーとして、涼はそれを支えるかっこいい男の子の副リーダーとして。涼と秘密を共有することを嬉しく思った。お互いだけが唯一の理解者。そう自負していた。
 ギルドはだいぶ成長した。前のギルドより良質なユーザーがそろっている。彼らの声を反映させることで、ゲームの評判も良くなり収益も増えた。特に涼の言うことは的を射ていた。
 涼といるのが心地よかった。涼にいつまでもここにいてほしいと思った。涼にとって居心地のいい環境を作ろうとアップデートを繰り返した。悪質なユーザーが涼に迷惑をかけていないか細心の注意をはらい、何かが起こりそうであれば速攻で当該アカウントをBANした。

 涼とは個人チャットで話すことが増えた。それは不登校を続けるうえで避けては通れない親との確執やコンビニに出かけた際のナンパに対する愚痴だったり、レイドのこれからのことについてだったりと色々だった。
「この間親が、せっかく可愛く生んでやったのにとか言ってきてさ、こっちはそのせいで迷惑してるんだよとしか言えないんだけど」
「そう、有難迷惑。普通の子に生まれて普通に生活したかった」
「ギフテッド、だっけ? やっぱり、何がギフトだよって思ったりする?」
「ある種、ギフトだよ。ドイツ語で毒って意味があるんだって」
「ナナちゃん物知り~。実際、俺も人生に毒盛られた気分だ」
「これがほんとの毒親ってやつですな」
「誰がうまいこと言えと」
 僕は何があっても、涼の味方だ。僕は涼を肯定し続ける。
「涼くんのことかっこいいと思ってるよ。来世は涼くんみたいな男の子に生まれ変わりたいなって思う」
「それ、最高の誉め言葉。ありがとう」
 お世辞でもなんでもない本音だった。涼は女の嫌なところも男の汚いところも全部そぎ落とした、人としての魅力があった。僕がなりたい女性像はナナで、僕がなりたい男性像は涼だ。

「勉強が面倒」
 夏休みを前に、涼は期末試験のための勉強の愚痴をこぼすようになった。
「親、食事中も勉強しろとか言ってきてうるさい」
「それはうざいね」
「うるさすぎて、逆に、もう留年してもいいやーって気になる」
「それ、この世の真理。高校留年したせいで人生終わった、って話あんまり聞かないし」
「だよなだよな」
「敷かれたレールの上は知らせようとしてくるよね、親って。こっちが何も考えてないとでも思ってるのかな。自分のことなんだからちゃんと考えてるに決まってるよね」
「ほんっと、それ! ナナちゃん俺の言いたいこと言語化してくれてる」
「涼くんに、心の中で抱えてたこと言語化してもらって救われたから」
「俺、なんもしてないよ。ていうか、言語化はナナちゃんの方が絶対得意だろ」
「記憶が無駄に鮮明だから、言葉に整理して落とし込む暇もなく、忘れたいのに忘れられない感じだったんだよね。涼くんのおかげで、客観的に考えられるようになった感じ」
 涼は僕の道しるべだった。だから、現実に疲弊してレジェドロの世界の涼が涼でなくなるなんてことはあってはいけないんだ。

「夏休みになったら、会う?」
 涼の愚痴に付き合う日々の中、暑さと深夜テンションに頭がやられて、つい僕は余計なことを言ってしまったかもしれない。
「つっても暑いからなー、それに俺たちどうせ学校行ってないんだし、わざわざ世間の休みに合わせる必要なくない?」
「確かに」
「てか、ナナちゃんが外出たがるの珍しいな」
「いや、オフ会の時にまさか会えると思ってなかったから誕生日プレゼントとか渡せなかったなーって今更ながら思って。誕生日、ちゃんと祝うって約束したのにさ」
「律義~」
 そのメッセージのあと、少し間があいて追加メッセージが来た。
「せっかくだし、ナナちゃんの誕生日くらいのタイミングで会う? ちょうど秋くらいで涼しくなってるし」
 最近けだるげな涼だったが、やっぱり涼は僕の欲しい言葉をくれる憧れの人のままだった。

 試験期間はさすがに涼はアプリに浮上しなかったが、試験から解放されて数日後、連絡が来た。学校で女の子と仲良くなったと報告された。試験を受けに学校に行ったらクラスに同じく不登校の女の子がいたらしい。男子にしゃべり方をからかわれたことを理由に不登校になったらしいが、また心無い発言をされたようでそれを涼が庇ったという。その結果随分と懐かれたらしい。一緒に補習を受けているそうだが、毎日帰りに遊びに誘われているようだ。
「涼ちゃんは他の男の子と違って優しいから好き、だってさ」
 僕は涼をその女の子にとられたような気分になり少し嫌だった。僕との遊びは断ったくせに、この猛暑日の真っ昼間に遊びに行くことにむっとした。補習で昼型生活を強いられた涼がまばらにしかチャットに浮上してくれなくなったのが寂しかった。
 たまに現れた涼はすっかり疲れていた。
「ほんっと、疲れたー。ナナちゃん、俺、頑張ってるよな」
「うん。涼くんは誰よりも頑張ってるよ。頑張りすぎなくらいだよ」
「そう言ってくれるの、ナナちゃんだけだ」
「あんまり頑張りすぎないでね。無理して体調崩しちゃうのが一番よくないからさ」
「優しいー。もっと甘やかしてー」
 レジェドロのレイドにおける涼くんのプレイは乱れていた。こんなの涼くんじゃない。僕の心はざわついた。現実が涼くんを連れ去ってしまう。

 僕の心配は杞憂に終わった。無事補習最終日を迎えると、また僕と夜通しゲームをしてくれるようになった。涼は二度ほど例の友達とやらと遊んだらしいが僕は快く送り出した。
 涼に飽きられないゲームを。涼のスケジュールに余裕ができたタイミングで大量に新要素を解放し、涼が「こんなイベントあったらいいな」と言っていたイベントを連続で開催した。
 テンションを上げた涼はやる気満々でギルドを統率した。僕を魅了した華麗なプレイは健在だった。散々心配していたが、テストで鈍っていただけだった。ギルドのみんなが涼の返り咲きに沸いた。
「涼くんおかえり!」
「ただいまー。やっぱ慣れないことするもんじゃないなー」
「いやー、適当でいいんだよどうせ社会に出て三角関数なんて使わないんだから」
 このギルドには説教臭い大人なんて異物はいない。
涼、ずっとこの楽園の王子様でいて。

 夏休み最終日、僕は涼から相談を受けた。
「前話した子に、告白っぽいことされたんだけどどうしたらいいと思う?」
 僕は激しく動揺したが、それを悟られないようにふるまった。
「何て?」
「涼ちゃんのこと好きかもしれないって。涼ちゃんと一緒なら二学期は学校行けるかもって」
「涼くんはその子のことどう思ってんの?」
「わからない。嫉妬心向けてこないいい子だから悪い印象はなかったし、俺の顔に惚れてるわけじゃないみたいだからさ。ちょっと依存されて重くはあるけどさ」
 涼はリアルの世界で涼の内面を見てくれる存在を見つけることができたようだ。ならば、きっとその子と恋人になることはできないとしても友達として支え合いながら一緒に登校するのが正解だ。そして、僕は友人としてそれを勧めるべきだ。
 なのに、僕は何も言えなかった。涼が離れていくのが怖かった。行かないで、その言葉を必死に飲み込んだ。
「なんだろう、自分が恋愛対象になることが嫌いなのか、女として扱われるのが嫌いなのか、顔だけしか知らないやつに知ったような口きかれるのが嫌なのか、自分でもわかんない」
 涼は大きくため息をついた。
「なんか、全部面倒になってきた。やっぱり明日は休む。いやー、ダメだね。一回さぼると楽な方に逃げっぱなしでいいような気がしてくる」
 僕が黙っている間に涼は自己完結した。確かに、涼の生活リズムは既に夜型に戻っていたので、また矯正するのも一苦労だろう。
「学校行くよりゲームしてる方が楽だし、その子よりナナちゃんと話してる方が気楽」
 僕はその一言に違和感を覚えた。楽しいじゃなくて「気楽」と涼は言った。

 涼との会話を終えた後も、僕はずっと考え続けた。ろくに眠れなかった。夕方ごろに涼は浮上した。
「ナナちゃーん、聞いてよ。結局今日さぼったんだけどさ、あ、例の子には当然行かないって昨日のうちに伝えたんだけどね。さっき電話かかってきてすごく大変だった」
 涼が凄い勢いで文字を打ち込んでくる。
「『私なんて全然涼ちゃんと釣り合わないし、眼中にないのもわかりきってるんだけど、どうしても諦めきれないからお試し期間でいいから一日だけ恋人になってほしい』って泣かれちゃってさ」
 ああ、涼は断るつもりなんだ。そう決断したんだ。僕はホッとすると同時に、胸がざわついた。
「正直、片思いだってわかってるなら告白しないでほしかった。振る側の負担も考えてほしい。泣くとか、ナシっしょ」
 違う。涼はこんなこと言わない。
「もはや学校辞めたくなってきた。将来のこととか、全部面倒」
 やっぱり違う。僕が憧れた涼じゃない。
「いっそニートになりたい。ずっとレジェドロだけやってたい」
 誰だろう、この人は。画面の向こう側にいる人は本当に涼なんだろうか。
「いっそゲーム配信者で一攫千金狙っちゃうかー。最近レジェドロもバズったしさ、今このタイミングで始めたらバズれるんじゃん?」
 もうやめてくれ。頼むから、僕の憧れた人の体でそんな量産型ひきこもりみたいなことを言わないでくれ。
 涼は優しくてかっこよくて、その人望を持ってギルドのみんなを引っ張っていく人だった。逃げない人だった。誰かが助けを求めているのを見捨てるような人じゃなかった。自分に向けられた好意から逃げるような人ではなかった。
 友達の陰口まがいのことを言うような人ではなかった。悪意ある人物に対しては冷徹だったけれど、一度でも友人になったことがある人に対しては涼は優しかった。友達から告白されたことを言いふらすような人ではなかった。
 だって、その子は涼の優しい内面を好きになったんだろう。その親切を恋心だなんて舞い上がるような真似はしていないだろう。そういう人にはちゃんと向き合う人だっただろう。
 楽そうだから、なんて馬鹿げた理由で配信者になりたいというような浅はかな人間じゃなかっただろう。楽しそうだから、という理由で上級レイドに挑む君はどこに行ってしまったんだよ。昔の涼だったら、「俺がこの手でレジェドロを布教する!」って積極的な理由で配信者を目指したはずだろう?
 やめてくれ。僕の憧れた人を、これ以上汚さないでくれ。そんな声で、そんな指で僕たちの楽園を語らないでくれ。

「もうやめて」
 やっとの思いでそれだけ返信した。

 どうしてこんなことになってしまったんだ。あんなに尽くしてきたのに。僕が言ってほしかった言葉、斬新なイベント、良質なユーザー……誕生日プレゼントは渡せなかったけれど、とびっきりの贈り物をたくさん贈ってきたじゃないか。
 その時僕は気づいてしまった。全部僕のせいじゃないか。
 僕が涼を変えてしまった。仮想世界を涼にとって居心地のいい空間にしすぎた。素敵な贈り物を渡しているつもりで、僕は知らず知らずに怠惰という名の毒を盛っていたのだ。
 甘やかして、甘やかして、際限なく甘やかして、子供をダメにしてしまう。“優しい虐待”とはよくいったものだ。無理解な親を毒親と言いつつ、僕のやっていることは世間の毒親そのものじゃないか。

 愛される人になりたかった。だから、ナナという人格を作り出した。それしか方法を知らなかったから。でも、僕は本当は涼のようになりたかった。
 なのに、僕は僕自身の手で憧れの人を毒殺してしまった。

 涼は僕とは違う。ありのままの自分で人と仲良くなれる人だ。まだ引き返せる。涼は太陽の下で生きるべきだ。
 僕は泣きながら管理アカウントにアクセスした。電脳世界に居場所がなくなれば、僕という理解者がいなくなれば、きっと進むべき道を歩いて行ける。リアルの世界で涼を愛してくれる人のもとに行くはずだ。
「このユーザーを削除しますか?」
 涼のアカウントを選択したが、なかなか「はい」を選べなかった。画面が涙で滲む。
 でも、涼を僕らの王国から追放するべきなんだ。僕が憧れた涼を守るためにはそれしかないんだ。僕は覚悟を決めた。
「さよなら、涼くん」
 どうか青空の下で、自分らしく笑って生きていってください。

 それから数日の間はいたちごっこだった。異議申し立てのメールが届いた。涼は親のスマホやパソコンを駆使してアカウントを作り直したが、当該IPアドレスをアクセスブロックした。涼はここに戻ってきてはいけない。
 さらに数日後、明らかに学校用タブレットから新規アカウントの作成があった。馬鹿正直に涼という名前で生年月日も正直に入力していた。このために登校したのだろうか。どんな理由であれ、学校に行ったのはいいことだ。
 でも、もしまた涼と話したら涼と離れる決心が鈍ってしまう。涼を引き留めてしまう。だから、僕は学校ごとアクセスブロックした。涼は社会復帰をした。僕たちの物語は終わりにするべきだ。

 涼を忘れようとしたけれどできなかった。何もかもやる気がなくなった。十月も後半に差し掛かったころ、台風が僕の住む街を直撃した。雨音のあまりのうるささに、夕方ごろ目が覚めるとナナのアカウントに「みゆ」というユーザーから三時間前にメッセージが来ていた。寝ぼけ眼で確認する。
「涼です。前に話した友達(みゆ)のアカウントを借りて連絡しています。なぜかわからないのですが、俺のアカウントが凍結してしまいました。心配をかけてごめんなさい。ナナちゃんやギルドのみんなが嫌になってやめたわけではないということだけ伝えさせてください。何度アカウントを作り直そうとしてもうまくいかなかったのでこちらから。
ナナちゃん元気にしてますか? 俺は元気です。みゆと仲良く学校に通ってます。色々なことをちゃんと腹を割って話し合って、ちょっと喧嘩っぽくなっても本音を言って、よくなかったところはお互いに謝って、やっと本当の意味で友達になることができました。(ナナちゃんに相談に乗ってもらってたことはみゆも知ってるし、この文章を書くことも了承を得ています)
充実した毎日ですが、少し寂しいです。レジェドロは引退せざるを得なさそうですが、レジェドロをやめてもナナちゃんとは友達でいたいです。ナナちゃんは俺の初めての理解者で、俺はナナちゃんを親友だと思っています。だから、ナナちゃんに伝えたいことがあります。ごめんなさい。最後に「もうやめて」とナナちゃんに言われて、その返事をする前にアカウントが消えてしまいました。ナナちゃんを愚痴のはけ口にしてしまっていたこと、それがナナちゃんの負担になっていたこと、本当に申し訳なく思っています。
ゲームを通じて出会った親友がいるという話は何度かみゆにしていたのですが、ゲーム名を言っていなかったのでみゆがアカウントを持っていることは今日知りました。みゆのアカウントまで削除されたら迷惑になってしまうので、ここにLINEのQRを貼ることはできません。なので、今日俺たちが出会った場所で待ってます。時間があったら来てください。もし、今日忙しかったら都合がいい日に俺の高校の前まで来てください。俺の本名を書きます。ベルナール・エマ・涼香(すずか)南屋(みなみや)高校の二年生です」
 僕はメッセージを見るなり寝巻のジャージのまま外に飛び出した。外は当然のように土砂降りだった。こんな暴風雨の中で涼を何時間も待たせてしまっている。僕は無我夢中で初めて出会った場所へと走り出した。
 急行電車に飛び乗った。スマホの通知を確認すると、みゆからメッセージが来ていた。
「涼ちゃんの友達のみゆです。これ見てたら返信ください。涼ちゃんに伝えます。ていうか、LINE教えてください。あたしのアカウント消されてもいいので」
 みゆはレジェドロに少額の課金をしていた。スマホを躊躇なく貸してくれて、課金済みの大事なアカウントを貸してくれるような友達ができてなお、僕と友達でいたいと言ってくれた。僕は何をしていたのだろう。
 電車のドアが開いた。僕は大急ぎで涼の元へ向かった。謝らなくてはならない。
 駅前で涼が立っていた。傘は骨が折れて、もはや傘の体をなしていなかった。
「涼くん!」
 僕は大声で親友の名前を呼んだ。
「ナナちゃん!」
 涼の声は寒さで震えていた。それでも、僕の方へと駆け寄ってきてくれた。僕は土下座をした。
「ごめんなさい! 僕が涼くんのアカウントを消しました!」
 僕は間違った選択をした。許されないことをした。
「僕の名前は七尾和馬、レジェドロの制作者です」
 僕は涼に対して行ったすべての裏切りを告白した。
「アカウントは必ず復元します。それでも許されることじゃないってわかってます。本当にごめんなさい」
 涙があふれて止まらなかった。
「涼くんに復学してほしくて、勝手なことをしました。ずっと僕の憧れの涼くんでいてほしくて、間違ったことをしました。ごめんなさい」
「間違ってないよ、顔上げて」
 最初に出会った日と同じ優しい声で涼が言った。
「俺のために、一番勇気が必要な道を選んでくれたんだね。ありがとう」
 涼は僕の目の前にしゃがんで、僕と視線を合わせた。
「ナナちゃんのおかげで俺も勇気が必要な道を選べたよ」
 僕が憧れたそのままの、かっこいいヒーローがいた。

「ナナちゃん、ハッピーバースデー。これはちゃんと、自分の口から言いたかったんだ」
 そう言って、涼は僕に小さな包みを渡した。このギフトがたとえ毒の瓶でも、僕は迷わずに飲み干すだろう。
 僕が包みをあけると、そこには大願成就のお守りがあった。願いを叶えるためには、前に進むしかない。涼からの贈り物は過去の影という毒への解毒剤だった。

 僕は馬鹿だ。一芸に秀でただけの馬鹿な子供だ。だから間違えてしまう。馬鹿な自分を変えたいと思った。
 今からでも高校に復学して人の機微を学ぼうと決心した。正しい選択ができる人になるために。僕はもう人と向き合うことから逃げたりしない。僕たちの世界をこれからも守り続けられるように。涼の相棒としてふさわしい“ナナ”でいるために。