「でも矢島くんは漫画を描いてるでしょ。自己表現してるよ。あと漫画を描いてこういうイベントで売るって、相当な熱量がないとできないことだし」
「違う違う、漫画描いてるのは俺の姉ちゃん。俺は売り子を任されただけ」
「……そう、なんだ」
「口から出てくる言葉ぜーんぶ嘘、とまでは言わないけど元の感情よりだいぶ大げさに加工されてる。設営のときあんたに向かって“興奮する”って言ったのもそう」
へえ、そうなんだ。
矢島くん、そういう感じなんだね。
気の利かない相槌が零れる裏で、どうやら彼には本当に熱が存在しないらしいことを実感して、私は、己の中で留めていた何かが徐々に溢れていくのを感じた。
俺にとっては全部ぬるいから、どうぞ、曝け出していいよ、と言われている気がして。
「私、中学のとき、友だちと一緒に漫画スクールに通ってたことがあってね、その友だちっていうのが、今同じクラスにいるサエちゃんで」
気づけばなんの覚悟も決めずに話し始めていた。
「“サエちゃん”ね、わかるよ。あの人とあんたが絡んでるのあんまり見たことないけど」
頷く。
──そう、私たちが仲がよかったのは中学の初め頃まで。
小学生の頃からふたりで漫画を見せ合って遊んでいた。その頃はまだ、私もサエちゃんと同じ少女漫画を描いていた。
変わったのは、中学に上がってから。
漫画スクールに通い始めたことで、私の創作の世界は一気に広がった。
様々な作品に触れて、刺激され、最終的に私が書きたいと強く感じるようになったのは、モモさんの言葉を借りれば、“美少年が怪異に魅入られてぐちゃぐちゃにされる話”だった。