クロスをたたむ手を止め、頭を抱えた。

ああ、ああ、どうしてすぐに否定しなかったんだろう。

モモさんにあのページを見せられた矢島くんは、どんな気持ちだっただろう。

少女漫画のヒーローのイメージとして題材に使っている、とかであれば、本人も悪い気はしなかっただろうけれど。
怪異に魅入られてぐちゃぐちゃに……なんて、誰が見ても聞いてもゾッとするに違いない。


誰が見ても聞いてもゾッとするに違いないと理解しているからこそ、それを好んで描いている自分にますます嫌悪感が募る。

嫌いだ、嫌い、嫌い、嫌い。
私はおかしいんだ。気持ち悪いんだ。
嫌い、嫌い、嫌い。嫌い、に、なりたい……。



「具合悪いの」


ふいに落ちてきた声に、びく、と肩があがる。
矢島くんだ。


「っ、ごめんなさい」


とっさに謝罪の言葉が口をついて出た。


「俺は具合が悪いのかって聞いてるんだけどね」

「それは……大丈夫だけど」


「大丈夫だけど、何?」

「い……やな思いを、矢島くんにさせてしまったな、と」

「あー、怪異にぐちゃぐちゃにされるとかいうやつ」



あっさり返されて言葉に詰まる。



「平気だよ。俺にとったら全部ぬるい」

「……ありがとう、気を遣ってくれて」

「いや、ほんとに。昔から、何を見ても聞いても体験しても全部ぬるい。俺おかしいんだよ」


そのとき、熱のこもらない口調に、初めて確かな鋭さを感じた。