──『莉緒ちゃん、ちょっとおかしいよ』
──『気持ち悪い』
4年前の出来事がふと脳裏をよぎった。
あれ以来、誰の目にもつかない場所で漫画を描き続けてきた。ひっそりとネットにあげて、同じ好みをもった人たちから反応をもらう。ただそれだけの小さな世界で私は十分に満たされている。
ううん。本当は、家族に、友達に、クラスメイトに、私を私だと知っている人に、誰かひとりでもいいから認めてもらいたい。
そんな欲望を、たまたまこの会場で出会ったクラスメイトに安易にぶつけてしまいそうになる。
大勢の人間に支持される彼がこんな場所にいるというだけで勝手に救われた気になって。……危ない。
軽い相槌だけで会話を終わらせて、そそくさと自分のブースに向き直った。
それから開場まで、矢島くんが話しかけてくることはなかった。
よかった。関心を持たれなくて。
というか、そこまで警戒する必要はなかったのかもしれない。
クラスメイトというだけで、会話を交わしたことはただの一度もないし、そもそも相手は天下無双の矢島くんだ。
下界の人間が何を描いていようが心底どうでもいいに違いない。
製本された自作をテーブルに並べて、トン、と角をそろえる。
その必要すらないくらいの薄い冊子。たったの15部。この内、5部も売れたらいいほう。
ちらりと隣を盗み見れば、こちらのテーブルとは対照的な数が積まれていた。
ポスターには、見覚えのある華やかなイラスト。
これ知ってる。SNSのおすすめによく流れてくる、毎話万バズ必至のシリーズものだ。