サエちゃんは胸の内をぜんぶ出し切るようにそう言って私に背中を向けた。
サエちゃんと会話をしたのは、それが最後。
「そう言われて初めて気づいたんだよね、私の描いてるものは普通の人から見れば普通じゃないんだって。でも、普通じゃないものを描いていたことより、そのせいで友達を失ったショックのほうが大きかったかな。一緒に少女漫画を描きたいって思ってくれてたサエちゃんの気持ちも台無しにしちゃって、私、最悪だなって」
「へーえ。なるほどねえ、理解した」
話を聞いていたとは思えない反応に、思わず笑ってしまった。
これはきっと、本当に興味がないんだなという安堵から出たものだ。
この人になら何を話しても、喜ばれることも怒られることも悲しまれることもがっかりされることもない。
初めて、誰かに話せた。喉の奥につかえていた固くて重たい塊がゆっくりと溶けていく。
「ありがとう、矢島くん。全部ぬるいって言葉に甘えて、勝手に吐き出して、勝手に救われちゃった。私だけ……ごめんね、矢島くんのしんどさは救ってあげられないのに」
「……。ねえ檻先生」
ふと、熱のない声で名前を呼ばれる。
「檻先生の檻は、本名のリオをひっくり返してオリ?」
「うん……そうだよ。安直でしょ。漢字は戒めの意味もあるんだけど」
「やっぱりそうか。あとさ、檻先生が書いてる作品、俺に似てるってほんと? 似せてる? それとも偶然?」
言葉に詰まる。
否定したかったからではなく、どう表せばいいのかわからなかったから。