占いを否定するつもりはない。むしろ毎朝テレビでやる血液型のランキングや、年始の最強運勢の特番なんかには、自分の星座や干支が果たして何位なのかと番組の最後まで注視するくらいには占いが好きだった。
 だけど、未来予知? そんな都市伝説めいたものはあくまでエンターテインメント、つまりやらせがほとんどだと思っているし、それを分かった上で楽しむのが常識だと思って生きてきた。亡くなったペットの遺言を伝えるような海外の番組を以前に観たこともあるけれど、あれはあれで飼い主の溜飲をさげて気持ちを落ち着かせる効果があるなら、嘘でも良いと思って観ていた。
 そうだ。そんなものは嘘だ。だとするなら、片桐の妹を見つけた鳳蝶(アゲハ)もこの叶韻蝶会(きょういんちょうかい)も、その妹の死になにかしら絡んでいることになるのではないか?
 
 そうして黙って思いを巡らせている私に、片桐が声をかけてくる。
 
「タイムリミットまでもうすぐ二時間を切る。部屋を変えよう、話の続きはそっちでする」
「待って。そのタイムリミットってのがなんなのか、先に説明してくれない? まさか、本当に誰かが死んだりするんじゃないよね」
 
 心の中で消えかけていた恐怖の火が、再び燃え盛る。
 私はこの短時間で、片桐という男をいつの間にか信用してしまっていた。でも考え直せば、彼はそもそも名刺を所有するほどには叶韻蝶会(きょういんちょうかい)で地位があり、トップの鳳蝶(アゲハ)とやらから私を案内するように指示を受けるくらいには信頼度が高い男だ。
 人を挑発する攻撃的な性格。そこから一点して人格を認めるような言葉をかけ、懐に入り込んでくる巧妙な飴と鞭。首のペンダントに入れられた粉はおそらく砕いた妹の遺骨で、それを身につける強い思いと危うさをこの男は備えている。
 
「死ぬ、かもな」
「え」
「でも代わりに救われる人間もいる。むしろそっちの方が数でいえば多い」
「それって復讐? あなた清玄を殺すの? 救われる人間って、今まで清玄に被害を受けた人とか、そういうこと?」
「あー、違う。いや、厳密に言えば遠くはないんだが」
「やっぱり。初めからおかしかった、清玄の秘密なんてもので私を誘き寄せて。けど、あなたの妹が清玄に殺されたとか、清玄が殺人犯だとか、ここまで話しても真実かどうか分かる証拠は一つとして出てきてないじゃない」
「だから、それはこれから話すよ。物事には順序があるだろ。いきなり結論だけ出しても、それこそあんたみたいな猪突猛進タイプは信じやしない」
「あ、ほらまた! 私のこと知ったような口ぶり! 大体、清玄が電話に出ないのは既にあなたたちの組織に捕まっているからなんでしょう? 爆弾か何かを身体に巻かれて、それで、時間が来たらドカンと」
「……凄いなあんた。あながち間違ってない」
 
 私は思わず目を見開く。同時に立ち上がると、既にいくらか離れている片桐から更に距離を取った。
 
「ま、まさか私のことも殺そうっていうんじゃ」
「だから、落ち着けよ。あんた小学校の通知表に落ち着きがないって毎年書かれてたくちだろ」
「そんなの今は関係ないでしょ!」
 
 図星だった。
 片桐は狼狽える私とは対照的に至極冷静で。あの顔は、たぶん呆れている。
 
「仕方ない。先にこっちを観せるよ」
 
 そう言うと、片桐はズボンのポケットからスマホを取り出した。そうして少しばかり操作をすると、画面を横にして私の方に向ける。
 私は警戒しつつも、目を細めて画面を注視しながら恐る恐る片桐に近づいた。それは動画だった。低アングルから顎下を煽られる形で一人の男が映っていて、音量はないものの何やら喋っているように見える。
 
「なにこれ。この人誰?」
「ライブ映像。今映し出されているこの部屋には爆弾が仕掛けられていて、あんたの予測した通り時間がくれば爆発する手筈になっている。そして、彼の名前は浅倉潤(あさくらじゅん)。あんたの旦那、前田清玄(まえだきよはる)の罪を全て被って本日死刑を執行される男だよ」
「ああ、わざわざ無実の罪を被ったっていう、あれ? あれだって正直話が飛躍しすぎていて、とてもじゃないけど信用できない……って、は!? しけい? ほんじつ!?」
 
 私の大声に、片桐は反射で耳を塞いだ。