そこには、1人の男性が居た。
「えっと……シン君……だったかな。昼間はありがとな」
気さくに声をかけて来たこの男性は……ああ、昼間助けた冒険者だな。名前はウィルだった気がする。
彼の後ろには、パーティーメンバーの3人が来ているのも見える。内2人はそこそこの重傷だった気がするけど……まあ、この感じを見るに、治ったのだろう。日本では考えられないことだが、魔法が存在するこの世界なら全然可能なことなのだ。
「そちらも、無事に戻って来たようで何よりだ」
彼の言葉に、俺は普段の癖でつい、当たり障りない言葉を返す。
「ま、逃げに徹すれば、流石に何とかなるよ」
「もう。次からは引き際を考えて動きましょう」
「そーだな」
彼らはそんなことを言いながら、自然な動作で俺のテーブル席に座って行く。
おーいおい。遠慮がねーな。
まあ、それが冒険者クオリティなのは理解しているから、別に驚きはしないけど。
「よいしょっと。あ、そう言えば名乗ってなかったな。俺の名前はフェイト。あの時は接近しすぎて腹を思いっきりやられて動けなくなっていたんだ。君が来なけりゃ、今頃俺は確実に死んでただろうな」
冗談にならないことを、冗談めかして言う魔法師の男性。
冒険者が命を落とすことは日常茶飯事なので、その影響なのだろうか……
「そうね。あの時はホントにありがとねー。君のお陰で、助かったよー。あ、私の名前はイリスね」
陽キャという言葉がぴったりと当てはまるような槍術士の女性も明るくそう言う。
2人共、ついさっき死の瀬戸際に立ったのにも関わらず、凄まじいほど平然としている。
実力は、言ってしまえばまだまだだが、心構えだけは、既に一人前と言っても差し支えないだろう。
「ええ。私なんて、あと少しでオークに捕まってたわよ。今でもあれは怖気が走る」
魔法師の女性が、ぶるりと体を震わせる。
確かに彼女はギリギリだったな。
オークって、他種族の雌を苗床にして繁殖するっていう、結構えげつない方法を取るからね。しかも、その選択肢に人間も入っているっていう……
「だから、本当にありがとう」
そう言って、彼女は頭を下げる。すると、それに倣って他3人も頭を下げる。
「そう何度も頭を下げなくていいですよ。ええっと……」
ここで、俺は彼女の名前を呼ぼうとしたが、聞いていないことを思いだして、言葉に詰まる。
すると、彼女ははっとなると、口を開いた。
「ごめん。名乗ってなかったね。私の名前はミリーよ」
「いえ、大丈夫です。ミリーさん。皆さんも、何度も頭を下げなくて結構ですよ。まあ、こちらとしてはちょっと見返りがあった方が嬉しいけどね」
途中から貴族っぽい口調になっていたのに気づき、俺は最後だけ子供っぽい口調に戻した。
すると、その言葉で皆、一斉に破顔する。
「ああ、分かってるよ。ま、ベタなのは金だよな?」
「いや、こういうのは飯を奢るとかが良かったりするぜ」
「まあ、既に食事は頼んでいるようだから、今日は無理っぽいけどね」
「シン君に何が欲しいのか聞いてみたら?」
こうしてみると、皆仲がいい。
無論、パーティーを組むのだから、仲が悪いということはそうそう無い。だが、ここまで仲がいいということは、パーティーを結成してから、そこそこの時間が経過しているのではないだろうか? いや、幼馴染で組んだパーティーという線もある。
村で仲の良かった4人組が冒険者パーティーを組み、成功した例は結構多いのだから。
「まあ、ゆっくりと決めてくれればそれでいいよ。俺の希望は金だがな。何せ今は冒険者になったばかりで、割と金欠なんだ」
俺はしみじみと思いながら、そう口にする。
手持ちの金はまだ5万以上あるし、1か月ほど住む場所に困ることも無い。だが、ムートンさんに依頼しちゃったから、3週間後までに少なくとも8万の貯金は必須なんだよね。それに、ポーション等も買っておきたいからなぁ……
スライムを総動員させて、貴族や裕福な商人の蔵からちょっとずつ金を盗る……という方法もあるが、バッチリ法律に違反する為、追い詰められない限りはやりたくないんだよねー。
バレないだろうけど、こういうのを日常的にやるようになっちゃうと、いつかどでかいしっぺ返しを食らう可能性が非常に高いんだよね。
いや、貴族の屋敷にスライムという名の従魔を不法侵入させてる時点で今更か。
でも、これはちょっと違うんだよなぁ……
一方、そんな俺の内心など全く知らない彼らは俺の言葉になるほどと頷く。
「そうか。確かにその腕でFランクなら、冒険者になったばっかりなんだろうな」
「まー今は治療費払ったせいで金欠だから払えんけど、貯まってきたら、申し訳程度にやるよ」
おーありがたや。ありがたや。
俺は小市民だから、少しでも金が欲しいって思ってしまうタイプなのだよ。
特に、こういう金不足の時には余計にね。
すると、ミリーが「あ」と何か思い出したかのような顔になる。
「シン君って今何歳なの?」
「あー確かに。小さいから最初は子供かと思ったけど、立ち居振る舞いからして、意外と年齢上だったりしない?」
あー……その疑問はもっとも。
だが、残念(?)ながら、俺の年齢は見た目通りなのだ。
いや、同年代の平均より身長上だから、見た目以下と言っても過言ではない(過言)!
「今は9歳だ」
「「「「9!?」」」」
皆、驚きの余り声を上げる。
まあ、そうなるのも無理はない。
9歳って、冒険者の中でも相当若い……と言うよりは、幼いからね。
もっとも。最年少って訳では全然ないけど。
「いやぁ……驚きすぎだって」
俺は頭を掻きながら、おどけたように言う。
「いや、流石に9歳は予想できないって。低くて10歳かと思ってたよ」
「あれ? 私たち9歳の子供より弱いってこと……?」
「そう、なるな……」
皆ショック受けてる。
うん。すまん。
でも、小手先無しの剣勝負なら、俺はウィルにもイリスにも劣るだろう。
俺の剣術って、割と空間転移依存なところがあるからね。
もう少し肉体が成長すれば、年季の差で絶対に負けないだろうが……いや、”剣術”や”槍術”の祝福による身体能力強化があるから、絶対とは言えないか。
「剣勝負なら、相当厳しいけどな……」
思わず、俺は沈んだ声でぼそりと呟く。
「きゅきゅきゅ?」
すると、俺の膝の上で串焼きを食べていたネムが、串をペイッと皿の上に吐き出すと、俺を慰めるかのように、すり寄って来た。
「ははは……ありがとな」
乾いた笑いがこみ上げつつも、俺はネムの慰めを受け入れる。
あー……優しいわ……
「あれ? スライム……?」
「え? どゆこと?」
ネムの存在に気が付いた皆は、ネムを見るや否や、混乱したような声を出す。
まー確かに俺がテイマーだなんて、予想もつかんよな。
「俺はテイマーなんだよ。この子は、俺の従魔だ」
「きゅきゅきゅ!」
俺はネムを撫でながらそう言う。
「マジかよ。あれ? てことは昼間オークを倒したのってシン君の従魔?」
「ああ。この子ではないけどな」
「へ~いや、にしてもオークを瞬殺できるってどんな魔物なんだ?」
「それは秘密だ」
俺は人差し指を口元に掲げると、そう言う。
そう易々と俺最大の武器を明かすわけにはいかないな。
まあ、明かしたとて、信じないだろうけど。
だって、オークを倒したのがスライムだなんて、普通に考えてありえないって思うだろ?
つまりはそう言うことだ。
「それだけ強けりゃ、隠したい手札の1つや2つ。あってもおかしくないか」
ウィルは頭を掻きながらそう言う。
「そうだね。それで、君たちは夕食を頼まないのかい?」
俺はふと、気になることを口にした。
すると、皆一斉に「あ……」と口を半開きにさせる。
あ、これ忘れてたパターンだ。
俺との会話に夢中になって、忘れてたパターンだな?
「あーそうだった。すんませーん! 注文おねがいしまーす!」
ウィルは背伸びして手を上げると、大きな声で従業員を呼んだ。
そして、呼び出した従業員に皆口々に注文を言う。
そんな彼らを見て、俺は小さく息をつくと、水をゴクリと飲みほした。
「えっと……シン君……だったかな。昼間はありがとな」
気さくに声をかけて来たこの男性は……ああ、昼間助けた冒険者だな。名前はウィルだった気がする。
彼の後ろには、パーティーメンバーの3人が来ているのも見える。内2人はそこそこの重傷だった気がするけど……まあ、この感じを見るに、治ったのだろう。日本では考えられないことだが、魔法が存在するこの世界なら全然可能なことなのだ。
「そちらも、無事に戻って来たようで何よりだ」
彼の言葉に、俺は普段の癖でつい、当たり障りない言葉を返す。
「ま、逃げに徹すれば、流石に何とかなるよ」
「もう。次からは引き際を考えて動きましょう」
「そーだな」
彼らはそんなことを言いながら、自然な動作で俺のテーブル席に座って行く。
おーいおい。遠慮がねーな。
まあ、それが冒険者クオリティなのは理解しているから、別に驚きはしないけど。
「よいしょっと。あ、そう言えば名乗ってなかったな。俺の名前はフェイト。あの時は接近しすぎて腹を思いっきりやられて動けなくなっていたんだ。君が来なけりゃ、今頃俺は確実に死んでただろうな」
冗談にならないことを、冗談めかして言う魔法師の男性。
冒険者が命を落とすことは日常茶飯事なので、その影響なのだろうか……
「そうね。あの時はホントにありがとねー。君のお陰で、助かったよー。あ、私の名前はイリスね」
陽キャという言葉がぴったりと当てはまるような槍術士の女性も明るくそう言う。
2人共、ついさっき死の瀬戸際に立ったのにも関わらず、凄まじいほど平然としている。
実力は、言ってしまえばまだまだだが、心構えだけは、既に一人前と言っても差し支えないだろう。
「ええ。私なんて、あと少しでオークに捕まってたわよ。今でもあれは怖気が走る」
魔法師の女性が、ぶるりと体を震わせる。
確かに彼女はギリギリだったな。
オークって、他種族の雌を苗床にして繁殖するっていう、結構えげつない方法を取るからね。しかも、その選択肢に人間も入っているっていう……
「だから、本当にありがとう」
そう言って、彼女は頭を下げる。すると、それに倣って他3人も頭を下げる。
「そう何度も頭を下げなくていいですよ。ええっと……」
ここで、俺は彼女の名前を呼ぼうとしたが、聞いていないことを思いだして、言葉に詰まる。
すると、彼女ははっとなると、口を開いた。
「ごめん。名乗ってなかったね。私の名前はミリーよ」
「いえ、大丈夫です。ミリーさん。皆さんも、何度も頭を下げなくて結構ですよ。まあ、こちらとしてはちょっと見返りがあった方が嬉しいけどね」
途中から貴族っぽい口調になっていたのに気づき、俺は最後だけ子供っぽい口調に戻した。
すると、その言葉で皆、一斉に破顔する。
「ああ、分かってるよ。ま、ベタなのは金だよな?」
「いや、こういうのは飯を奢るとかが良かったりするぜ」
「まあ、既に食事は頼んでいるようだから、今日は無理っぽいけどね」
「シン君に何が欲しいのか聞いてみたら?」
こうしてみると、皆仲がいい。
無論、パーティーを組むのだから、仲が悪いということはそうそう無い。だが、ここまで仲がいいということは、パーティーを結成してから、そこそこの時間が経過しているのではないだろうか? いや、幼馴染で組んだパーティーという線もある。
村で仲の良かった4人組が冒険者パーティーを組み、成功した例は結構多いのだから。
「まあ、ゆっくりと決めてくれればそれでいいよ。俺の希望は金だがな。何せ今は冒険者になったばかりで、割と金欠なんだ」
俺はしみじみと思いながら、そう口にする。
手持ちの金はまだ5万以上あるし、1か月ほど住む場所に困ることも無い。だが、ムートンさんに依頼しちゃったから、3週間後までに少なくとも8万の貯金は必須なんだよね。それに、ポーション等も買っておきたいからなぁ……
スライムを総動員させて、貴族や裕福な商人の蔵からちょっとずつ金を盗る……という方法もあるが、バッチリ法律に違反する為、追い詰められない限りはやりたくないんだよねー。
バレないだろうけど、こういうのを日常的にやるようになっちゃうと、いつかどでかいしっぺ返しを食らう可能性が非常に高いんだよね。
いや、貴族の屋敷にスライムという名の従魔を不法侵入させてる時点で今更か。
でも、これはちょっと違うんだよなぁ……
一方、そんな俺の内心など全く知らない彼らは俺の言葉になるほどと頷く。
「そうか。確かにその腕でFランクなら、冒険者になったばっかりなんだろうな」
「まー今は治療費払ったせいで金欠だから払えんけど、貯まってきたら、申し訳程度にやるよ」
おーありがたや。ありがたや。
俺は小市民だから、少しでも金が欲しいって思ってしまうタイプなのだよ。
特に、こういう金不足の時には余計にね。
すると、ミリーが「あ」と何か思い出したかのような顔になる。
「シン君って今何歳なの?」
「あー確かに。小さいから最初は子供かと思ったけど、立ち居振る舞いからして、意外と年齢上だったりしない?」
あー……その疑問はもっとも。
だが、残念(?)ながら、俺の年齢は見た目通りなのだ。
いや、同年代の平均より身長上だから、見た目以下と言っても過言ではない(過言)!
「今は9歳だ」
「「「「9!?」」」」
皆、驚きの余り声を上げる。
まあ、そうなるのも無理はない。
9歳って、冒険者の中でも相当若い……と言うよりは、幼いからね。
もっとも。最年少って訳では全然ないけど。
「いやぁ……驚きすぎだって」
俺は頭を掻きながら、おどけたように言う。
「いや、流石に9歳は予想できないって。低くて10歳かと思ってたよ」
「あれ? 私たち9歳の子供より弱いってこと……?」
「そう、なるな……」
皆ショック受けてる。
うん。すまん。
でも、小手先無しの剣勝負なら、俺はウィルにもイリスにも劣るだろう。
俺の剣術って、割と空間転移依存なところがあるからね。
もう少し肉体が成長すれば、年季の差で絶対に負けないだろうが……いや、”剣術”や”槍術”の祝福による身体能力強化があるから、絶対とは言えないか。
「剣勝負なら、相当厳しいけどな……」
思わず、俺は沈んだ声でぼそりと呟く。
「きゅきゅきゅ?」
すると、俺の膝の上で串焼きを食べていたネムが、串をペイッと皿の上に吐き出すと、俺を慰めるかのように、すり寄って来た。
「ははは……ありがとな」
乾いた笑いがこみ上げつつも、俺はネムの慰めを受け入れる。
あー……優しいわ……
「あれ? スライム……?」
「え? どゆこと?」
ネムの存在に気が付いた皆は、ネムを見るや否や、混乱したような声を出す。
まー確かに俺がテイマーだなんて、予想もつかんよな。
「俺はテイマーなんだよ。この子は、俺の従魔だ」
「きゅきゅきゅ!」
俺はネムを撫でながらそう言う。
「マジかよ。あれ? てことは昼間オークを倒したのってシン君の従魔?」
「ああ。この子ではないけどな」
「へ~いや、にしてもオークを瞬殺できるってどんな魔物なんだ?」
「それは秘密だ」
俺は人差し指を口元に掲げると、そう言う。
そう易々と俺最大の武器を明かすわけにはいかないな。
まあ、明かしたとて、信じないだろうけど。
だって、オークを倒したのがスライムだなんて、普通に考えてありえないって思うだろ?
つまりはそう言うことだ。
「それだけ強けりゃ、隠したい手札の1つや2つ。あってもおかしくないか」
ウィルは頭を掻きながらそう言う。
「そうだね。それで、君たちは夕食を頼まないのかい?」
俺はふと、気になることを口にした。
すると、皆一斉に「あ……」と口を半開きにさせる。
あ、これ忘れてたパターンだ。
俺との会話に夢中になって、忘れてたパターンだな?
「あーそうだった。すんませーん! 注文おねがいしまーす!」
ウィルは背伸びして手を上げると、大きな声で従業員を呼んだ。
そして、呼び出した従業員に皆口々に注文を言う。
そんな彼らを見て、俺は小さく息をつくと、水をゴクリと飲みほした。