お昼も何とか食べ終えて、夕方までずっと寝ていた。ずっと寝ていると、背中が痛くなる。

「いたた……」

 窓から見えたのは、夕日が沈んでいく景色だった。大分外も暗くなっている。

(もうこんな時間か)

 念の為もう一度、熱を測ってみる事にした。右脇の下に体温計を挟む。

「37.8度……」

 すぐにはがくっとは下がらない。私は1階に降りるか降りないか迷って、降りる事にした。
 1階の台所では、沼霧さんが夕食の準備をしている。いつもなら手伝っている所だが、この身体では流石に無理だ。

 母親は……どこにいるのか。私は食卓のある居間に座ると気づいた沼霧さんがやって来たので、母親の居所について聞いてみる事にした。

「沼霧さん。お母さんは?」
「庭の木と花の手入れしてます。あやかし達と一緒に」

 母親は木や草花に興味がある。華族出なので茶道や華道に舞踊辺りは一通り習ったと本人も言っていたような。

「千恵子さん。具合はどうですか?」
「まだ熱は下がってないなあ……げほっ」

 やはり喋ると咳が出る。出てしまう。

「今日の夕食、ネギ入りの雑炊にしようと思うんですが食べられそうです?」

 ネギ入り……これは美味しそうだ。

「うん、お願い」
「では支度させて頂きますね」

 沼霧さんはそう言ってそそくさと台所へと戻っていく。しばらくして母親も戻ってきた。

「千恵子、熱は?」
「37.8」
「まだ寝ててよかったのに」
「いや、背中痛いしもう起きちゃった」

 母親も台所に消え、居間には私と小さな海坊主のあやかしだけとなる。

「?」

 小さな海坊主のあやかしのうち、片割れの1匹が私の顔色を伺っている。

「熱出してしんどいの」
「~~……」
「心配かけて、ごめんね」

 すると小さな海坊主がぴょんと飛んで、私の額に張り付いた。ひんやりとした涼やかな冷たさが、そこから広がって行くのが分かる。

「ありがとう」

 夕食が届くまで、小さな海坊主は私の熱を冷ましてくれたのだった。
 そして夕食。沼霧さんが作ったネギ入りの雑炊を頂いていく。

「!」

 細かく刻まれた太ネギから想定以上にだしが出ている。これはご飯ならぬ雑炊が進む味だ。

「美味しい!」
「良かったです。しっかり食べて下さいね」

 私はこのまま、ネギ入りの雑炊を完食したのだった。

「ごちそうさまでした」