「じゃあな。甥っ子に渡してくるわ」
「あとで、戻ってきてくれないかな。一緒に話そうよ」
「おう、魚道。甥っ子連れて戻ってくるべ」

 光さんはミンククジラの肉を鋭い歯が並んだ口に咥えて泳ぎ去っていった。

「では、ありがとうございました」
「いえいえ、千恵子さんお元気で」

 別荘に戻ると早速沼霧さんが出迎えてくれて、肉を処理していく。天ぷら用に使うお肉は、切る前にしょうゆに漬け込んでおくようだ。

「天ぷら用のは、薄く切っていきますね」
「了解」
「残りは煮込みにします? それとも夏ですけどすき焼きにします?」

 どれも魅力的な品だ。迷ってしまう。
 でも最終的にはすき焼きの舌になったのだった。

「じゃあ、すき焼きにしようかな」
「分かりました」

 たちまちお昼は、ミンククジラの肉を天ぷらにする。それと麦ごはんを頂く事が決まった。
 母親もクジラの肉が食べられるという事で、上機嫌になっている。

「楽しみだわあ」

 という子供のような声が、台所にまで聞こえてきたのだった。

(私も楽しみだ)

 沼霧さんが、しょうゆで漬け込んでおいたミンククジラの肉を取り出して、薄めに切っていく。
 その間に私は衣用の小麦粉と揚げる為の油を用意する。

「切り終わりました」

 鍋に油を入れて温め、衣を作って、水洗いした肉に衣を纏わせるといよいよ揚げる時間だ。揚げる前にまずは油の温度を確認する。

「沼霧さん、油の温度は大丈夫?」
「大丈夫です!」
「じゃあ、入れます!」

 肉を入れた瞬間、じゅわっと油が広がり、跳ねた。

「うわうわうわ」
「千恵子さん、私がしましょうか?!」
「大丈夫、やるやる!」

 油にひるまず、残りの肉を揚げていく。きつね色になったら完成だ。火がちゃんと通っているか、沼霧さんが肉を半分にして確認する。

「大丈夫です!」
「よし完成!」

 天ぷらをお皿盛り、麦ごはんをお茶碗によそったらお昼ご飯の完成だ。

「お母さん、出来たよ」
「あら、良いじゃない!」

 食卓には母親だけでなく、小さな魚坊主達や、黒猫のあやかしも集まってきていた。
 お皿とお箸を食卓に起き、座って挨拶をしてから、天ぷらを頂く。

「!」

 天ぷらの衣の甘みがじゅわっと口の中で砕けた。お肉も薄く切っているので柔らかくて美味しい。
 ちょっと臭みは残っているが、あまり気にせず食べられそうだ。