捕鯨の関係者や漁師が総出で、クジラを解体している。
 解体に使っているのは、巨大なナタのように見える。

「すごい光景だよね」

 魚道さんは、少し笑いながらそう呟いた。

「あの、クジラどの種類かな」
「分からない、後で母さんに聞いてみる」
「ありがとう、魚道さん」
「ヒゲクジラ類なのは分かるけど……」

 魚道さんと話す間も、クジラは解体されていく。既に原型は崩れ、長方形の形に部位ごとに肉が切り出されていっている。
 すると、漁師がいきなり大きな声を出した。

「ミンクいる人はここに並んでーー!」

 島民が次々に指定された場所に並び始めたので、私と魚道さんも、素早く列に並ぶ。

「千恵子さん、さっきミンクって言ってた?」
「うん」
「じゃあ、あれはミンククジラだ」

 魚道さん曰く、ミンククジラは月館島ではよく見かける上によく捕獲されるクジラなのだそうだ。

「光さんがよく食べてるクジラでもあるね、ミンククジラ」
「なるほど……」

 光さんも、ミンククジラの肉は欲しいだろうか。

「魚道さん、光さん用のお肉も用意した方が良いと思う?」
「じゃあ、僕が買おうか?」
「え、いいの?」

 魚道さんの突然の申し出に、私は何だか申し訳なさを感じながらも、受け入れる事になった。
 
「気にしないでいいから。丁度光さんとこ会いに行こうかって思ってたし。光さん桟橋いた?」
「なんか申し訳ないね。うん、いたよ」
「良かったあ」

 こうして私と魚道さんは、ミンククジラの肉を入手し、光さんのいる桟橋へと歩いていく。

「光さんーー!」
「おっ、千恵子と魚道!」
「光さんこれお土産!」

 魚道さんが包みを広げ、ミンククジラの肉の塊を光さんに向かって投げ入れた。

「おっ、魚道これくれんの?」
「どうぞ、食べて」
「ありがとな、半分は甥っ子にやるとするか」

 光さんはクジラ肉を受け取って、にこにこと歯を出して喜んでいた。