弟達と夜に雑炊を食べてから数日後。屋敷を旅立つ日がやって来た。弟達は既に寮に戻っていたため、父親が私達を見送ってくれた。

「千恵子。身体に気を付けてな」

 そう、穏やかに笑うスーツ姿の父親は、いつになく頼もしかった。

「うん。また来るね」

 屋敷を出て、駅に向かって歩いていく途中。あまり人気のない道を歩いていると何やら左側の木の枝に、白い布が引っかかっているのが見える。

「あれ、何だろ」

 着物の羽織とよく似た材質に見えるが、かなり長い。それにかすかに動いているようにも見える。

「一反木綿かもしれません。千恵子さん、ヨシさん、私が対処しますので離れていてください」

 沼霧さんにそう言われた私と母親は、少し後ろに下がる。

「もし。もしもし」

 沼霧さんは一反木綿に近づき、枝で絡まっている部分を器用に外していく。
 すると一反木綿はするすると木の枝から自分の身体を外して、旋回しながら飛び上がった。

「対処出来ました。行きましょう」

 と、爽やかな笑みで語りながら私達の元に戻ってきた沼霧さん。そんな彼女に一反木綿が控えめに近づいてきた。

「お礼に家までお送りしたいから乗って下さいって?」

 どうやら沼霧さんは一反木綿の意志が分かるようだ。

「でも家遠いよ。月館島だし。それに3人分になるけど……」

 私がそういうと、一反木綿は頷いたように見えた。

「構わない。という事です」
「じゃあ、お言葉に甘えようかしらね」
「そうだね」

 一反木綿の上に私達は正座した。すると、一反木綿はふわりと羽毛のように浮かび上がった。

「空、飛んでる!」

 ぐんぐん高度と速度を上げていく。それに一反木綿は器用に両端を折りたたんでいた。おそらくは私達を落とさないように気を使っているのだろう。

「すごい!」

 母親も、髪を手で抑えながら驚いている。
 こうしてあっという間に、海を飛び越え月館島の別荘に到着した。

「ありがとうね」

 別荘に到着し、私達をそっと降ろしてくれた一反木綿に私は感謝の言葉を伝えた。沼霧さんと母親もそれに続く。
 一反木綿はその場に、干されている昆布のようになっていた。

「……沼霧さん、大丈夫かな?」
「あ、その良かったら、ここで暮らしたいという事らしいです」
「ほんと?」

 こうして、別荘に新たな仲間が加わったのだった。