まずはカキの煮つけから頂く。ぷりぷりのカキの表面はテリテリしていて、見るだけで食欲が増してくる。大皿に盛られたカキを1つ、お箸でつまんで口の中に入れた。

「！」

　ぷりっとした肉は、噛めば噛むほど味わいが増してとても美味しい。更に生姜の味が舌に伝わりそこから身体へと温かさが伝わっていくような、そんな感覚を覚える。

「美味しい……！」

　それに焼きおにぎりとも合う味だ。焼きおにぎりは程よい塩気と甘みが味噌から出ていて、こちらもすごく美味しい代物になっている。

「つい食べ過ぎちゃうかも」
「千恵子、食べ過ぎたらだめよ、お腹壊したら大変なんだから」

　もっと食べたいという欲求を何とか抑えて、腹八分目のところで食事を終えた。この時点ではもうカキの煮つけが盛られていた大皿はすっかり、空になっていたのだった。

「ごちそうさまでした」
「あら、おにぎり余りましたね。ヨシさんはいかがです？」
「私ももうおなか一杯。沼霧さん食べたら？」
「私も満腹でして……あやかしか光さんにでもあげましょうかね」

　結局焼きおにぎりは、桜色をした小さな人魚のあやかしがもふもふと小さな口で食べたのだった。

「～□△””＃！！」
「沼霧さん、なんて言ってる？」

　私が沼霧さんに尋ねると、美味しいと言っているみたい。と翻訳してくれた。
　確かににこっと笑ったような顔つきは、そう見える。

（少し休もうかな）

　私は階段を上がり自室に戻って、本を読みつつゆっくりした後、家を出てあの桟橋へ向かった。桟橋付近の波にはあの二等辺三角形の背びれが突き出ている。

「光さん？！」
「千恵子か」
「光さん、何してんの？」
「地面のじゃりで身体のかゆいとこかいてんのよ」
「かいてあげようか？」
「やめとけ。喘息持ちが桟橋から落ちて風邪でも引いたらどうすんだ。自分でかけるから安心しな」

　確かに正論である。彼自身がどうにかできるのなら、彼に任せた方が賢明だろう。

「無理しないでね」
「勿論だ」
「でもじゃりでしょ？　痛くないの？」
「痛くないんだなこれが」

　光さんの自慢げな声が、海風に乗って私の耳に届いた。