先に玄関に駆け寄ってきたのは、和一。そして末の弟である良二がやって来る。どちらも学ラン姿だ。
 和一は大学、良二は高等学校にそれぞれ通っている。

「あ、姉さんだ! 良二、姉さんがいる!」

 和一が私を見るや否や、大きな声を出して良二を呼ぶ。

「姉さん、久しぶりじゃないか! 元気になったの?」
「和一、久しぶり。医者から許可が下りたから一時的に戻ってきてるの」
「そうなんだ。でも良かった。体調が落ち着いてるって事だよね」

 和一のほっと安堵する表情は、父親とそっくりだ。

「兄さん、早いって」
「良二ごめんて」
「姉さん元気そうで良かった。良かったら、島での暮らし教えてよ」

 そう言われた私は、弟達のせがむままに、島での暮らしを話す事にした。
 だが、あやかしの事は一先ずは話さない事に決めた。彼等があやかしの存在を信じてくれるかは分からないからだ。
 
(沼霧さんも現地の人という事にしとくか)

 島での暮らしの話は私の予想以上に盛りあがった。

「姉さんシャチがいるの? 他にクジラとかいない?」
「そうだよ良二。クジラは……あ、でも見た事あるかも」
「良いなあ、俺も見たい」
「良二も海軍に進むつもりならいつかは見られるんじゃないかな? 姉さん?」
「和一の言う通りかもね」

 良二はいずれ、海軍の道へと進むつもりらしい。だが、他にも気になる進路があるのだとか。
 和一は、跡取りとして期待されている存在だ。いずれ財政界で活躍する事だろう。

「それにしても良い島だな。良二。いずれ俺達も島に行ってみたいよな」
「兄さんの言う通りだ」
「ふふ、2人とも気に入ったんだ」

 彼等が島の事を気に入ってくれたのは、すごく嬉しい。

(話して良かった)

 すると、和一が何かを思い出したように口を開く。

「姉さん、思い出したんだけど」
「和一?」
「あやかしとかいないの?確か姉さんがいるの、海の近くのあの別荘だよな?」

 胸のど真ん中を突かれたような発言に、私はどぎまぎしながらもいない。と答えた。

「座敷わらしとかいないの?」
(座敷わらしは……いたっけ?)
「いないなあ」

 座敷わらしはいなかったような。私が忘れているだけかもしれないが。
 その後も和一から、別荘にあやかしはいるのかいないのかと問い詰められるも、私はいない。と答え続けたのだった。
 
(とりあえずはいないという事にしておこう)