少し頭を傾けていた私へ、父親が口を開いた。顔を見る限り何か私へ尋ねたい雰囲気に見える。

「千恵子達はいつまでここにいるんだね」
「1週間くらいはいると思うけど……」
「良かった。あさって、千恵子の弟達が寮から帰って来る。相手してやってくれ」

 それを聞いて私の胸の内から楽しみが湧いて出て来た。久しぶりとなる弟達との再会。ああ、これは楽しみだ。

「帰って来るんだ……」
「ああ、彼らも喜ぶだろう」

 その後、互いの近況に関する話を少しして、私は自室へと戻ったのだった。

「はあー……」

 どっと疲れが身体の奥から放たれている気がした。私はベッドの上に寝転がって、品も無く大の字になる。さっきあれだけ弟達との再会が楽しみだったのに、今はその楽しみがどこかに消え去ってしまっている。

「疲れた」

 という言葉が口の中から漏れ出た。

「寝よう……」

 そして日が経ち、弟達が寮から戻って来る日を迎えた。
 朝。私はベッドから起き上がると、女中が用意した薄紫色着物と紺色の袴に着替えて、食堂へと入室する。

「おはようございます」

 令嬢らしく挨拶をすると、中にいた父親がおはよう。とぼそりと返してくれた。私の後に続いて黄色い着物姿の母親と沼霧さんが入室してくる。

「朝食をご用意いたします」

 朝食は、麦ごはんと鮭を焼いたものと味噌汁。白味噌仕立ての味噌汁にはニンジンと大根が入っている。

「では、いただこう」

 という父親の言葉に続いていただきます。と挨拶をしてから、味噌汁をすすった。
 味噌汁は白味噌が甘くて、とても身体が温まって美味しい。麦ごはんと焼鮭も美味しくいただけた。

「ごちそうさまでした」

 手を合わせて、完食の挨拶をする。そして歯を磨いたり髪型を整えたりした後、自室に戻った。
 弟達が帰って来るのはおそらく夕方だろう。どちらも学校の授業がある。それらが終わってからになるはずだ。

(見た目どんなになっているだろう)

 弟は私が言うのもなんだがどちらも、爽やかで少しきりっとした、御令嬢なら飛びつかない者はいないと言っていいほどの美形だ。

(もうそろそろ、縁談が決まりそうだよなあ……)

 実際私より早くに縁談が決まってもおかしくはない。というかほぼ確実に私よりかは早く決まるだろう。
 私の目にふと、机に置かれた家族写真が目に留まった。そこには私と両親と弟2人が映っている。

(懐かしいな)

 あれこれ考えている間にも、時間は過ぎていく。