屋敷の中も、変わってはいなかった。年代物の骨董品のつぼに、西洋風の照明。島を出た時のままだ。

「皆様はお昼召し上がられましたか?」

 うら若い女中にそう尋ねられた。おにぎりを食べたと伝えると、お味噌汁といった軽食もあると教えられる。

「じゃあ、お味噌汁ください」

 せっかくなのでお味噌汁を貰う事にした。沼霧さんも頂くようだ。
 珈琲を頼んだ母親と共に食堂に通され、そこで頂く。お味噌汁は白みそ仕立てで中にはニンジンと大根が入っていた。

「甘っ……」

 味は甘い。白みその甘さが大根の苦みを全て打ち消しているくらいには甘くて美味しかった。
 お味噌汁を1杯頂くと、私は自室へ、母親と沼霧さんは貴賓室に移動した。

「変わってないな」

 カーテンも机もベッドも変わっていないし、埃も被っていない。定期的に掃除しているのが見て取れた。
 しばらくして、私の部屋に女中が入ってくる。

「旦那さまがお帰りになりました」

 その言葉を聞いた私は、父親がいる玄関へと移動する。
 玄関に赴くと、黒いスーツを着た父親が黒い帽子を外して荷物を女中へと預けている様子が見えた。

「お久しぶりです」
「千恵子か。元気か?」
「はい」
「そうか」

 父親はそう言って、穏やかに笑った。
 以前よりかは、若干ふくよかな体型にはなっているもののそれ以外に変わった部分は見られない。

(ちょっと安心した)

 父親は女中に夕食の準備は出来ているかと、歩きながら問いかける。

「はい、出来上がっております」
「じゃあ、夕食にしよう」

 私達は父親のその言葉を合図に、食堂へと向かう。

(晩ごはん何だろう)

 食堂の椅子に座った時、父親は沼霧さんにようやく気づいたのか、目線を向けた。

「ヨシ、その方は?」
「沼霧さんて言って、島の別荘で働いている女中さんよ」
「沼霧と申します。よろしくお願い致します」

 沼霧さんは丁寧に頭を下げ、父親へ挨拶をした。

「そうか。しっかり励むように」
「はい」

 沼霧さんは緊張感のある笑みを浮かべている。まあ、あの父親相手なのだ。そうなるのも致し方ないか。

「夕食お持ちいたしました」

 女中が中に入り、頭を下げながらお皿を次々持って来る。