駅の窓口で切符を買い、汽車が来るのを待つ。駅には人が結構いる。老若男女様々な年代の人達があちこち行きかっている様子が見える。

「●番線に○○駅の汽車が間もなく到着いたします」

 放送後、汽車がけたたましく汽笛を上げながら到着した。汽車の中に乗り込むと、駅員さんが切符を確認しにやって来る。
 汽車に乗るのはいつぶりだろうか。女学校の旅行で乗った事以来か。

(あの時は楽しかったなあ)

 汽車を貸し切って中の良かった友達と、景色を眺めながら旅行を楽しんだ。その友達らは学校を卒業前に縁談に恵まれて婚約して、卒業後すぐに結婚式を挙げたっけ。

(元気にしているだろうか)

 汽車は黒い煙を上げながら、出発していった。汽車の木造りの席は船の座席よりも狭いが、座っていると少しだけ木材独特のぬくもりが感じさせられる。
 こうして汽車による長旅が終わる頃には、昼をとうに過ぎていた。お腹が減って倒れそうだ。

「お腹空いた……なんかふらふらする」
「千恵子大丈夫? この辺にお店あったかしら……」

 駅員さんに聞けば、駅のすぐそばにおにぎりやさんがあるという事で、そちらでおにぎりを何個か買って食べる事にした。
 私が選んだのは炊き込みご飯のおにぎり3つ。お揚げとニンジンと鳥肉とごぼうが入っている。

「うん、美味しい!」
「千恵子ゆっくり食べなさいね。おなかがびっくりしちゃうから」
「うん、ゆっくり食べてる」

 具材から出たであろうだしとしょうゆが上手く絡み合って、程よい味の濃さになっていてとても食べやすい。これなら何個でも食べられそうだ。
 おにぎりを食べた後、ようやくお屋敷へと向かう。

「久しぶりだなあ」

 お屋敷は島へ行く時と全く変わっていない。鹿鳴館といった洋風のお屋敷を彷彿とさせる見た目も、手入れが行き届いた庭の景色も変わっていない。

「おかえりなさいませ、奥様。お嬢様」

 私達に気づいた女中が2人、駆け寄ってきて出迎えに来てくれた。女中に荷物を預けると、いよいよお屋敷の中に入る。

「お父さんは?」

 と私が女中に荷物を預ける際に尋ねてみると彼は今は職場におり、不在のようだ。
 弟2人は寮生活をしているので、おそらくいないだろう。

「夕方には帰って来られるかと」
「ありがとう」